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紅の章 百〇九話 猛獣使い

「あれ~舞踏会は?」

「もうお開きだよ。全くどこ行ったのかと思ったら」

 美珠が部屋に入ると、二人の侍女がすぐに千鳥足の美珠が転がれるように用意をしてくれた。

「や~。まだ珠以と約束してるの。一緒に踊るんだもん!」

「その状態で?」

「珠以に可愛いって言って欲しいんだもん!」

 相馬は頭を掻くと、水を用意した。

「じゃ、ほら飲んで」

「うん」

 水を渡しても、浴びるように瓶に口をつけ酒を飲み込んでゆく。

 そして咳き込んだ。

「失礼します」

 入ってきたのは珠利だった。

 珠利は心ここにあらずといった感じで、椅子に座るとぼんやりと床を見つめていた。

「あのさ、珠利さっきの」

 てんやわんやになりつつも相馬が先ほどのことを謝ろうとしても、珠利の視線がこっちを向くことはない。

 その隣から美珠の間の抜けた声が聞こえてくる。

「珠以、何してるのかなあ~?」

「さあ、警備の騎士を集めてるのは見たけど」

「もう目がくっついちゃうよお。早く来てよお」

 美珠は口を膨らませて寝台で足をばたつかせた。

「うわ、この馬鹿姫うざい」

 相馬はこれ以上面倒を見るのが嫌で、誰かに押し付けたくなった。

 そして侍女に声をかけた。

「ごめん! 国王騎士団長呼んできてくれないか? 美珠様のお具合が優れないらしいっていったら飛んでくるからさ」

「はい」

侍女は相馬に同情するような笑みを向けると外へと出て行った。

 美珠は酒瓶を飲み干すと悲しげに瓶を見つめ相馬に差し出した。

「もっと頂戴」

「はいはい」

 相馬が水を中に入れると美珠は嬉しそうにそれに口をつけた。

 そんな騒ぎの中、それでも珠利は考え込んでいた。

「ちょっと、ガサツ女」

「何? ヒヨコ」

「ヒヨコじゃない! ったく、仕事する気がないなら帰れよ!」

「あ、え? 仕事するよ!」

 立ち上がって美珠へと視線を送る。

「美珠様~」

 珠利は布団に転がる美珠の横に自分も転がった。

「何々? 珠利。どうしたの~。ね~顔赤いよお?」

「赤くないよお。美珠様こそ、どうしたのご機嫌ジャン」

「ん~この後、珠以と踊るのよ~」

 美珠は猫のように珠利にじゃれながら、楽しそうに笑っていた。

「もうやだ。こいつら」


「ご気分が優れないっていうのは?」

 国明は息を切らせて入ってきて、中の様子に首をかしげた。

 珠利と相馬は椅子に座って疲れた顔をしていた。

「どうした?」

「やっと、来たよ。猛獣使い」

 珠利も初めは遊び相手になっていたが、途中で疲れて職務放棄をしていた。

 相馬は立ち上がりやっと仕事から抜けることにした。

「猛獣? え?」

「猛獣はあの洋服棚の中にいるから。あと任せたよ。国王様への報告はうまく俺がしとくから」

「今日はここで護衛お願い」

「な、何が」

 国明は兜を置いて指示のあった洋服棚を見る。

 部屋に美珠の姿はない。

「何があった?」

 おそるおそる開けると何かが飛び出てきた。

 反射的に受け止めるとちょこんと国明の腕の中でおさまって、嬉しそうにすりつく。

「どうしましたか?」

「もう~遅いよ~」

「ご気分は?」

「ねえ、早く踊ろうよ。私、珠以と踊るの待ってたんだよ」

 積極的な美珠の言葉に珠利は顔を緩め、床に下ろす。

 けれど酒に酔った美珠にもう平衡感覚などなくその場にへちゃりと座り込んでしまった。

「あれ~?」

「まさか酔ってます?」

「酔ってないもん」

 美珠は口を膨らませると国明の顔の前に自分の顔を出した。

 国明が反射的にその唇に軽く口づけると美珠は嬉しそうに床の上にお構いなしに寝転がる。

「どうなさいましたか?」

 国明はそんな美珠を抱き上げると、寝台に寝かせた。

 寝台には空の酒瓶が落ちていた。

「秦奈国の酒?」

 そうしてこれがこんなところにあるのかはわからなかったが、美珠は寝台に転がるとそのまま国明の袖を引いた。

「ねえ、あのね」

「はい?」

「今日の私どうだった?」

「え?」

「あの、その、あのね」

 美珠がもじもじしていると国明は頬に口付け額を合わせた。

「綺麗でした。今日も昨日も、何度貴方を自分のそばにだけ置いておきたいと思ったか」

 すると美珠は嬉しそうに微笑み国明の背中に手を回した。

「珠以大好き」

「ええ」

 国明がそのまま深い口付けをしようと顔を寄せると美珠の手はダランと落ちた。

「え? 寝た?」

 国明はあまりに早く眠ってしまった美珠の額に口付け頭を撫でると部屋をあとにした。

 そして自分の疑問を晴らすためにある場所へと向かった。


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