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紅の章 第百〇七話 月夜

 珠利は廊下を歩きながら月夜に浮かんだ自分の影を見つめていた。

 細い影の足元の部分でヒラヒラとスカートの影が舞う。

「そんなに変かな。別にそこまで変じゃないでしょ」

 人生初のドレスを着たときの高揚感はすごいものだった。

 美珠はずっと隣でニコニコ笑って、侍女と一緒に宝石を選んでくれた。

 だから自分も勝手に期待していたのかもしれない。

 自分だってこんな綺麗な格好が似合うのだと。

 

 でも結局自分に自信もてず、いつものようにズボンに着替えることにした。

 そんな廊下には月を眺めている人影がいた。

 珠利は知り合いでないことを祈りつつ、後ろを通ろうとしたが、そんな願いなど淡く崩れ去った。

「珠利さん」

 国友だった。

「あ、あの、この服、着せられただけで」

 挨拶よりも、何よりもまず、この服について説明したかった。

 自分が好きで着ているわけではなくて、着せられたのだと。

「ん? どうしたんです?」

「私ゴツイから、肩幅だってすごいあるし。あの、本当に着せられてるだけだから、あの忘れて。見なかったことにして! お願い!」

 すると国友はしげしげと見つめて珠利に笑顔を向けた。

「何でですか? 綺麗です。すごく」

「お世辞はいいよ」

「お世辞なんかじゃなくて。いつも凛々しい珠利さんが、そんな風な格好をされるとすごく」

 国友は最後にポロリと言おうとした言葉を慌てて飲み込んだ。

「変でしょ?」

「いいえ。そうじゃなくて」

 国友は顔を赤らめて珠利へと目を上げた。

「可愛いです」

「カ、カワイイ?」

 素っ頓狂な声を上げた珠利はそのまま、めまいがして体がぐらついた。

「カワイイなんて初めて言われた」

「わ、珠利さん!」

 そのまま倒れこもうとした体を国友が支える。

 お互いの体温が伝わり、吐息がかかる。

 珠利の中で時間が止まったようだった。

 珠利は国友の瞳を、国友は珠利の瞳をただひたすら見つめあっていた。

「珠利さんはすごく可愛いです」

 そういわれて珠利はもう腰が砕けてたっていられなかった。

 それでも珠利は地面に転がることはない。

 それは国友の腕力だった。

 華奢に見えても騎士として名前をもらった国友にとって珠利を支えることぐらい造作もないことだった。

「ん? どうした? 国友?」

 後ろから別の声がして慌てて珠利はその場から離れた。

「あ、珠利さん!」

「ご、ごめん! 今日の私、忘れて」

 珠利は慌てて背を向けて廊下を走りぬけた。


「国友?」

 後ろから来た国緒は取り残された国友を覗き込んだ。

「どうした?」

「え? あ、あの」

 国友は顔を赤らめたまま、一度その場に座り込むと頭を何度も掻いた。

「どうしたよ。今の何だ? 女といたのか?」

「どうしよう、俺」

 それはまるでどうしようもないことになった男の顔だった。

 焦りと自責の念に満ちた表情。

 国緒が心配して立たせようとすると、ポツリと国友がつぶやいた。

 あまりの小ささに聞こえずもう一度問いかけると今度はかろうじて聞き取れる範囲で国友は再度呟いた。

「恋した」

「はあ?」


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