97.悪神、悪徳ギルドマスターに目をつける
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ギルドマスター・アクトとの対決を終えた後……。
悪神ドストエフスキーは【主】の前に跪いていた。
そこは、黒水晶でできた宮殿だ。
玉座に座るのは、彼らを束ねる【主】。
「申し訳ございません、わが主様……」
【主】に、先ほどのアクトとの戦いの顛末を報告したのだ。
彼は額に汗をかく。
端から見れば、完全に自分の敗北だったからだ。
「私が無様をさらしてしまったせいで……悪神の格を落としてしまったこと……本当に申し訳なく思っております……」
すると【主】は薄らと笑みを浮かべて、こう言った。
「いいえ、あなたはよく頑張りましたよ。【嫉妬】さん」
ドストエフスキーが見上げる。
そこにいたのは、【自分と全く同じ顔をした男】の姿だ。
その場に第三者がいたら困惑したことだろう。
なにせ同じ顔をした男が二名、その場にいる。
一名は、アクトと相対していた男。
もう一名は、その彼の主である男。
「あなた私の【影武者】としてよく頑張っていました」
「ハッ……! ありがとうございます……!」
【嫉妬】と呼ばれた男は、悪神の部下にして影武者。
ゆえにうり二つの外見を持っていたのだ。
本物のドストエフスキーは優雅に微笑みながら言う。
「あなたのおかげで、あの男の力を解明することができましたしね」
「……我が主よ。あのアクトとか言うギルドマスターは……何者なのですか?」
嫉妬は、信じられなかった。
世界の半分を消し飛ばす超高性能爆弾。
確かに起動したはずだった。
超勇者とその仲間達、そして世界も破壊したつもりだった。
……だがアクトが行使した謎の能力のせいで、全てが【元に戻った】のだ。
「ただの男ですよ。その身に【時王の眼】を宿しただけのね」
「時王の眼……未来と過去を見通すだけの眼に、あのような力があるのですか?」
実に楽しそうに口の端をつり上げながら、ドストエフスキーがうなずく。
「ええ。ですが、誰もが使えるわけではありません」
「アクト・エイジだからこそ使える、ということですか?」
「そうなりますね。現状、この地上では……という条件がつきますが」
「は、はあ……」
【嫉妬】は主が何を言いたいのかさっぱりわからなかった。
ただ、現状アクトの放った反則技が、あの男にしか使えないことに安堵した。
そう何度も、世界を元通りにするみたいな技を、使われては困る。
「わが主。アクトの使ったあれは……なんなのですか?」
「おそらくあれは、【時空間遡行】でしょう」
「時空間……遡行?」
聞き慣れぬ単語を聞いて首をかしげる。
「簡単に言えば時間を巻き戻し、空間を修復する能力です」
ドストエフスキーは懐から魔石を取り出す。
「例えばこのように、魔石を砕いたとします」
ぐっ、と指先に力を入れる。
パラパラ……と魔石が砕かれて落ちる。
「時空間遡行を使うことで、数秒前……つまり魔石が砕かれる前まで時間を戻します。するとどうなりますか?」
「……魔石、砕かれる前の状態に戻る?」
ええ、とドストエフスキーがうなずく。
時間を巻き戻す能力。
その恐ろしさに、【嫉妬】は戦慄を覚える。
「そんな力があったら……無敵ではありませんか」
たとえ死んだとしても、時間を戻せば何度だってやり直せるわけだから。
「そんな万能の力ではないでしょう。あまりに強いその力、代償もかなりの物でしょうね。でなければ、もっと連発するでしょうし」
直近でアクトが時空間遡行を使ったのは、二度。
ジャキ戦。そして、イランクス戦の二回。
奥義の効果、および汎用性を考慮すれば、確かに使用回数は少ない。
「でも……時間を戻す力なら、どうして【時間を戻された】と我らが自覚できるのでしょう? おかしくないですか」
時間を能力発動前まで戻されたら、【能力の発動】を見ていない時間まで戻るはずだからだ。
「あくまでも【空間】を対象とした術式だからでしょう。術者のいる空間内部の、壊れた人や物の【状態】を戻しているだけです」
人の意識までも、戻すことはできないらしい。
「嫉妬くん。君の活躍により、能力の解明ができました。改めて感謝しますよ」
「い、いえ……! お役に立てたみたいでしたら、幸いです」
【嫉妬】は安堵する。
宝玉は奪われ、四天王の一人を欠いてしまった。
さらにこの姿で、人前からオメオメと撤退してしまった。
悪神の格を下げるようなマネをしたのだ。
叱責は免れないと、そう思っていたからだ。
「お疲れ様でした」
「え……?」
そのときだった。
パァン……! と大きな音とともに、【嫉妬】は弾け飛んだ。
まるで水風船を地面に落としたみたいに、地面に紅い血だまりができた。
【嫉妬】は、訳のわからぬまま死亡してしまったのだ。
部下の命を摘み取ったというのに、ドストエフスキーには何の動揺も見て取れない。
彼が死ぬ刹那まで、表情に殺意も殺気も感じ取らせなかった。
また、部下をその手で殺したとしても、そこに嫌悪も後悔も見て取れない。
純粋なる悪。
それが、悪神たるゆえんだ。
「さて……七つあるカードの一枚を切ったことで、とても有益な情報が手に入りました」
音もなく、ボロ布を纏った六枚の男女が出現する。
彼らはフョードル・ドストエフスキーがギルドマスターを務める追放者ギルド【七つの大罪】のギルメンたちだ。
「アクトくん。君はとてもとても有能な人材だ……素晴らしい……」
ドストエフスキーは懐から通信用魔道具を取り出す。
記録されたアクトの映像を見てつぶやく。
「是が非でも、君を手に入れたくなりましたよ……アクト・エイジくん」
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