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96.悪徳ギルドマスター、世界の終わりを人知れず防ぐ【後編】

書籍版、6/12にGAノベルから発売します!

予約開始されてます!よろしくお願いします!



 アクトは静止した世界でひとり、悪神を名乗る男の前に立つ。


「ば、バカな……なぜこの静止した世界の中で動ける……?」


 知将を気取っていた仮面の男が明らかに動揺していた。


「俺の目は特別製でな」


 時王の眼。時間と空間を司る最強の魔眼だ。


 この魔眼の持つ能力、【固有時間操作】。体内の時間を早めたり遅くする力。


 それを応用して使えば、たとえ止まった時のなかであろうと動くことができる。

 世界の時間が止まろうと、アクトの中の時間を加速させれば動ける。


 ……もっとも、相当な負荷が彼の体にはかかっていた。

 だがそれをアクトはおくびにも出さない。

 その方が、相手を動揺させられると思っているからだ。


「ギルマス、すげーっす! あんたほんとすごすぎっすよ!」


 バラバラだったヴィーヴルの体は、アクトの【奥義】によって元通りになっていた。


「……な、なるほど。本当に厄介ですね、あなたは」


 仮面の男ドストエフスキーは、深呼吸をして言う。


「先ほど世界を破壊したつもりでしたが……それもあなたの眼の力で戻したのですね」


「まあな」


 アクトとドストエフスキーはお互い、硬直状態にあった。


 時王の眼を超過駆動させた反動で、アクトの体は大ダメージを負っている。


 だがそれを相手が知れば反撃に出てくるだろう。


 次の手を打てないのは、目の前の男が持つ眼を警戒しているからこそだ。


「くく……あはは! いや、素晴らしい……実に素晴らしいですよアクトくん!」


 ドストエフスキーが大声を上げて笑う。


「未来視で、世界が破滅する様を見ていたのですね。動けないフリをしていたのは私の油断を誘うためのフェイク。なるほど……まんまとはめられてしまいました」


「す、すごいっすアクトさん……悪神すら騙すなんて……」


 ヴィーヴルもドストエフスキーも、感心したようにうなずく。


「しかし一度世界を壊す必要があったんすか? 事前に止めることも可能でしたでしょうに」


「そうでもして隙を作らないと、悪神から【これ】を奪えなかったからな」


 アクトはきしむ体を無理やり動かしながら、ポケットから【狂化の宝玉】を取り出す。


「ンなっ……!? い、いつの間に!」


 目を丸くするヴィーヴル。

 一方でドストエフスキーは拍手する。


「お見事です。なるほど、人間、作戦が上手くいっている時が一番油断する。世界が崩壊するまさに刹那、あなたは私の心理的な隙をついて、世界を戻すと同時に、加速の力を使って奪ったわけですか」


 何度もうなずきながらドストエフスキーが言う。


「どうした悪神。額に汗をかいてるぞ?」

「ッ……!」


 冷静さを取り繕ってはいるが、悪神は今、窮地に立たされているのだ。


 奥の手である時間停止をアクトに破られ(ていると思い込んでいる)、秘蔵っ子の爆弾も奪われた。


 周りには超勇者を始めとした強力な戦士たちがいる。


 悪神は、アクト・エイジの目が持つ力の底を計りきれていない。


 どう動くのか、必死になって考えているのか。

 アクトには手に取るようにわかっていた。

 だが裏を返せば、そんな心理戦をしかけざるをえないほど、アクトはギリギリの状態で立っているということ。


 ほどなくして……。


 ぼふん! と急に目の前に白い霧が発生する。


「これは……煙幕?」


 ヴィーヴルが目を丸くしながら周囲を見やる。


『今日のところは引いてあげましょう。では、いずれまたお会いいたしましょう』


 どこからか悪神の声が響く。

 ヴィーヴルが目を皿にして探しても、ドストエフスキーの姿はなかった。


 やがて、霧が晴れる。


「す、す、すげーっすよギルマスー! あの悪神が、しっぽ巻いて逃げたっすー!」


 邪神竜が黄色い声を上げる。

 ふらり……とアクトはその場に片膝をついた。


「ど、ど、どうしたんすかー!?」


「……なんでもない」


 静止した時間の中を、無理やり動いていた反動が一気にきたのだ。


 だがアクトは痛みも苦しみも決して表に出さない。


「それよりヴィーヴル。この止まった時間の中で見たことは、他言無用だ」


「え? ど、どうして……?」


「貴様が知る必要はない。黙って俺の言うことを聞け」


 ヴィーヴルは内心で首をかしげる。

 だが、すぐさま思い至る。


 ジャキを倒したことで今、勇者パーティの士気は高揚している。


 ローレンス達は悪神の襲撃、および世界の破壊を知らない。


 知ってしまえば、悪神の底知れぬ力を前に怯えて、士気が下がってしまうだろう。


 だから、アクトは黙っておけと言ったのだ。


「いいな?」

「……わかったっす」


 アクトが立ち上がろうとする。

 だが、がくんっ、とまた膝をついた。


 崩れ落ちる直前に、ヴィーヴルがアクトの腕を引く。


「む! どうしたアクトさん!」


 止まっていたはずのローレンスが、アクトの異変にいち早く気付く。


 どうやら時が動き出したようだった。


「何でもない。おい馬、俺を運べ」

「はいっす」


 ヴィーヴルは邪神竜の姿となると、その背にアクトを乗せて飛ぶ。


「おや、帰ってしまうのかいギルマス?」

「祝勝会しましょうよ! アクトさん!」


 笑顔を向ける勇者パーティに、アクトはそっぽを向いて言う。


「俺には俺の仕事がある。やりたいなら勝手に貴様らだけでやっていろ」


「「「えー……」」」


 するとローレンスは「…………ふむ」と何か察したようにうなずく。


「まあまあ! おれたちだけでやろうじゃないか!」


 すぐさまローレンスを始めとして、全員が気付く。

 何が起きたのかはわからない。

 ただ、アクトが疲れていると、察したのだ。


「ま、仕方ないね。じゃあねギルマス。後から宴会に参加してももう遅いからね」


「しっかり休んでくださいねアクトさん!」


 アクトは答えない。

 ただ、ヴィーヴルの背中をペチンと叩く。

 邪神竜は翼を大きく広げて、ローレンスたちの元をさる。


『やっぱ、アクトさんは……やさしーっすね』


 ヴィーヴルが、その恐ろしい顔に似合わない、優しい声音で言う。


「なんだ藪から棒に」

『みんなに気を遣って黙ってろって言ったんすよね? ……でも、1人で抱え込むのはよくねーっすよ』


 フンッ、とアクトは鼻を鳴らす。

 だがかなり消耗しているのか、肩で息をしていた。


『ルーナさんに言えば治癒して貰えたんじゃないっすか?』


「うるさい。余計なことは言わなくて良い」


『そっすね。ルーナさん一人だけに言って、黙っててもらうのは……彼女の負担になってしまうっすからね』


 アクトは答えない。

 ヴィーヴルはその不器用な優しさに苦笑する。


『……やっぱりアクトさんは、すげーひとっす』


 アクトは黙って眠っていた。

 誰も聞いていないことを確かめてから、ヴィーヴルはつぶやく。


『そんなあなたが……大好きっすよ』

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「どうした悪神。額に汗をかいてるぞ?」 ⇒仮面着けてるのに分かるの?だったら悪神の素顔も丸見えですね。
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