95.悪徳ギルドマスター、世界の終わりを人知れず防ぐ【前編】
※お知らせ
このたび、書籍化が決定しました! ありがとうございます!
発売日等の詳細は【あとがき】にて。
ギルドマスター・アクトの手引きで、超進化した勇者達が、四天王を見事撃破して見せた。
北壁近郊の草原にて。
「やったっすー! 勝った勝ったったー!」
邪神竜ヴィーヴルが、人間の姿でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「すげーっすみなさんまじぱねーっすよー!」
「おや、ヴィーヴルどの、いたのでござるか?」
はて、と水月が首をかしげる。
バツの悪そうな顔になってヴィーヴルが言う。
「い、いたっすよ! 自分、ローレンスさん達とずっと一緒だったっす!」
「君、僕らを届けた後すたこらさっさと上空に逃げてたじゃないか」
やれやれ、とウルガーがため息をつく。
「い、いーじゃないっすか! 自分だって命が惜しいんすよ! バケモノ同士のバトルに巻き込まれるなんてごめんっす!」
「「「バケモノ同士?」」」
はて、とローレンスパーティが首をかしげる。
「「あんたらよ(っすよ)」」
火加美とヴィーヴルが呆れたようにつぶやく。
周りにいた極東勇者パーティのメンバー達もうなずいていた。
「ま、四天王のヤツもこれで倒したし、もう終わりっすよね! さすがにもう何もしてこないっすよねー! 絶対!」
ヴィーヴルが笑顔で言った、そのときだった。
……その瞬間、世界が停止したのだ。
「んなっ!? な、な、なんすかこれ! 動いてない……! 自分も、うごかない!?」
空も、草花も凍ったように止まっている。
皆が固まる中……ひとり、拍手する人物がいた。
「素晴らしい。素晴らしいですよ」
仮面の男が空中から降りてくる。
「だ、誰っすかあんた!?」
驚愕に目を見張るヴィーヴルを前に、優雅に男が降り立つ。
「はじめまして。私はドストエフスキー。この世に破壊と混乱をもたらす悪しき神の一柱」
「あ、悪神……!? ハッ! そ、そう言えば聞いたことあるっす……かつて世界を滅ぼそうとした邪悪なる神がいるって……」
人間達は、悪神の存在を迷信や、おとぎ話の類いだと思っている。
だが長命な魔族達は、本当にそういう存在がいたことを知っている。
ヴィーヴルは腐っても魔族、人づてで悪神の噂を聞いたことがあった。
「おや? あなたたしか四天王補佐官でしたね、元。なのに私を知らないのですか?」
「あ……あぁ……」
相手は普通にしゃべっているだけだ。
しかしヴィーヴルは、それだけで押しつぶされそうになる。
対超勇者用の最終兵器である邪神竜は、悪神の秘めている異様な魔力を、正確に感じ取れたのだ。
「ま、あなたパシリみたいなものでしたし、私を知らなくて当然ですね」
敵に囲まれている状況下で、ドストエフスキーは余裕の笑みを浮かべている。
さもありなん。敵陣のど真ん中であろうと、この止まった世界のなかで動けるのは彼ただ一人なのだ。
「しかしなるほどなるほど……さすが腐っても対超勇者用の最終兵器。止まった時間の中でも意識を保てるとは」
ヴィーヴルが必死になって体を動かそうとする。
だが指一本動かせない。
「無駄です。今、時間が完全に停止しているのです。この止まったときの世界では、私以外だれひとり動けません、絶対にです」
余裕の表情でドストエフスキーがヴィーヴルに歩み寄る。
「悪神が、自分らに……何の用事があるっていうんすか?」
どう見てもドストエフスキーは魔王サイドの存在。
ヴィーヴルはこの先に待つ最悪の展開を予想し震える。
「本当はもう少し泳がせて楽しもうと思ったのですが……上からあなた方を排除しろと命令が入りましたのでね」
「排除……で、でも無駄っすよ! ローレンスさん達はウルトラちょー強いんすから! いくらあんたが悪神だろうと、負けるはずないっす!」
「たしかに、真正面からやればそうでしょう。なのでこちらは【奥の手】を使わせてもらいます」
悪神が手のひらを上に向ける。
そこには先ほど、ジャキが飲み込んだ黒い球体があった。
ただし、先ほどと違って、バチバチと電気を発している。
「狂化の宝玉。魔王から預かった、対超勇者用の最終兵器です。しかし最終兵器、あっさり破られてしまったこと、不思議に思いませんでした?」
ジャキはこれを使ってパワーアップした。
しかしローレンスパーティにボコボコにされてしまった。
超勇者たちが規格外だと言えばそれまでだが、最終兵器にしては少々期待外れ感があった。
「この宝玉には裏機能がついているのです。それは、使った者の魂を生け贄にすることで、小型の超高性能爆弾となるのです」
「ば、爆弾!?」
「ええ。この星の半分を、一瞬にして崩壊させる威力があります。もっとも四天王レベルの魂じゃなきゃ発動しないですし、これ一つしかないんですけどね」
ヴィーヴルは戦慄する。
そんな恐ろしい兵器を隠し持っていたなんて……!
一瞬あれば、ローレンスは宝玉を破壊できた。
だが今、世界が停止してしまっている。
「ろ、ローレンスさん! みなさん! くそ! 動いてくださいっす! みんな! みんなぁあああああ!」
ヴィーヴルは必死になって仲間達に声をかける。
だが凍ったときの中で動ける者は誰もいない。
それはヴィーヴルも含まれている。
竜となって逃げることもできない。
「ヴィーヴルさん。提案があります」
仮面の男はニィ……と口の端をつり上げて、片手を差し出してくる。
「勇者を裏切り、私の配下に加わりませんか?」
「なっ!? う、裏切れですって!?」
突然のドストエフスキーからの提案に困惑する。
彼の配下になる、つまり魔王の仲間になれという。
「この爆弾を使えば超勇者はここで確実に死ぬ。そうなれば世界は魔の者達の手に落ちます。よしんばあなたが爆弾に耐えられたとしても……新しい世界にあなたの居場所はありませんよ?」
ドストエフスキーの言うとおりだった。
ローレンスの敗北はすなわち人類の敗北と、魔族の勝利を意味する。
魔王が支配する世界では、勇者の仲間だったヴィーヴルに居場所はない。
今のうちに寝返っておけば、ある程度の地位は約束されるだろう。
「…………」
「どうです?」
ちょん、とドストエフスキーがヴィーヴルの肩をつつく。
その瞬間、体が動くようになった。
「この状況で勇者につくか、それとも魔王につくか。バカなあなたでもわかることですよね?」
ドストエフスキーが手を差し伸べてくる。
ヴィーヴルはその手をジッと見つめて……笑う。
「そっすね。バカでもわかることっすよ」
すっ……とヴィーヴルは悪神の手を握る。
にやり、とドストエフスキーが嗤う。
「あんたがバカってことがね!」
ヴィーヴルは拳を握りしめると、勢い良く殴り飛ばす。
邪神竜の姿へと変身する。
『自分は……魔王軍を追放されて途方に暮れていたところを、アクトさんに拾われたっす』
こぉお……! とヴィーヴルの口に魔力が集中していく。
『自分はバカかも知れない! けど! 優しくしてもらった人に! 恩を仇で返すほど! 恩知らずじゃねえっすよー!』
強烈なブレスを悪神めがけて放つ。
止まった世界を震撼させるほどの、恐るべき漆黒竜の一撃。
光も音も置き去りにする強烈なブレスが悪神に直撃する。
凄まじい爆音と煙が辺りに響く。
『はぁ……はぁ……や、やったっす?』
「なるほど、よくわかりました」
『そんな……!?』
悪神ドストエフスキーは、邪神竜の一撃をもろに食らっても平然としていた。
パチン、と指を鳴らす。
ヴィーヴルは体をズタズタに引き裂かれて、地面に首だけになって転がった。
「私に逆らうような愚か者は不要です。このままお仲間とともに死になさい」
先ほどまでの余裕ぶった態度から一転、冷たい声でそう言い放つ。
その手には高性能の爆弾が握られている。
きぃいいいん……と音を立てながら振動しだした。
『アクトさん……助けて……』
幾度となく窮地を救ってきたギルドマスターに、ヴィーヴルは救いを求める。
「ははっ。無駄ですよ。あのギルドマスターですら、この止まった時の中では無力です」
ドストエフスキーが、ローレンス達の方を見やる。
黒髪のギルドマスターもまた、周囲の人間同様に固まっていた。
……しかし、悪神は気付かない。
アクトが【左目を手で押さえていること】を。
『もう……だめだ……おしまいだ……』
「くはは! それではさようなら、愚かな人類の皆さん」
ドストエフスキーは宝玉を頭上に放り投げる。
……その瞬間、世界は終わった。
凄まじいエネルギーを秘めた爆弾が、一瞬にして世界の半分を消し飛ばしたのだ。
世界の終わりを認識できた者はいない。
崩壊に気付く前に、全てが消滅させられたからだ。
……かくして、超勇者は死に、世界は魔王の手に落ちた……
「まだだ。世界の終わりには、まだ早い」
次の瞬間、崩壊した世界が一瞬にして再生した。
「そ、そんなバカな……!?」
ドストエフスキーは驚愕する。
世界は爆撃によって、確かに消し飛んだはずだった。
だというのに、全てが元通りになった……否、元に【戻った】。
「ぐす……信じていたっす……自分、あなたが……絶対になんとかしてくれるって……」
ヴィーヴルは声を震わせて、【彼】を見やる。
涙に濡れる邪神竜の眼に写っていたのは、黒髪のギルドマスター。
「アクト・エイジ……!」
彼は黄金の瞳を輝かせながら、ドストエフスキーを静かににらみ付けていたのだった。
【※読者の皆様へ 大切なお話】
皆様が応援してくださったおかげで、このたび書籍化が決定しました!ありがとうございます!
レーベルは【GAノベルス】様から。
発売日は【6月】となっております!
めちゃくちゃ頑張って書籍版作りました!
ぜひお手に取っていただけると幸いです!
最後に、少しでも「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、
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作者のモチベーションが上がりますので、なにとぞ、ご協力お願いします!