94.勇者、規格外の力で四天王を葬る
【※お知らせ】
次回は土曜日(4/24)の予定です。
次の更新時に「おしらせ」があります。
ギルドマスター、アクト・エイジが引き連れてきたのは、超勇者ローレンスとその仲間達。
北壁近郊の草原にて。
「アクト殿……では、手に入れたのでござるな! 古代勇者の秘宝を……!」
水月の言葉に、アクトがうなずく。
「貴様の武器も手に入れてきた。あとはあいつらに任せて寝ていろ」
アクトは胸の中で大人しく収まっている火加美を下ろす。
「あ……」
彼女は少し残念そうに、小さくつぶやく。
「なんだ?」
「な、な、なんでもないわよばかー!」
まさか、下ろして欲しくなかったなんて言えずに火加美が声を荒らげる。
一方で狂化の術を施され、巨大な蝿の化け物となった、四天王ジャキ。
ガタガタガタ……とジャキは震えていた。
知性を失っていてもなお、彼は感じ取っていたのだ。
進化したローレンス達が、いかに強くなっているかを。
「何をしているのです、ジャキさん?」
仮面の男、悪神ドストエフスキーが穏やかに言う。
「よもや、四天王ともあろう御方が、人間程度に恐れを成しているのですか? 情けないことこの上ないですねぇ」
……悪神のささやきは、かすかに残っていたジャキの自尊心を的確に傷つける。
『ぎぐ、がぁああああああああ!』
巨大蝿の体から大量の魔力が放出される。
「な、なによあれ……?」
火加美は目をむく。
大気中に放出されたジャキの魔力が、空の色を濁らせていく。
「どうやらあの魔力には、死毒の性質があるようだな」
「なるほど! さすがギルマス! 何でもお見通しなのだな!」
さぁ……と火加美の顔が青くなる。
「ちょ、ちょっとそんなこと言ってる場合!? このまま大気が死の毒におかされたら、みんな死んじゃうわよ!」
「焦るな。ルーナ。見せてやれ。【神器】の力を」
「じんぎ……?」
回復術士の少女が前に出る。
その手には、尖端に花のつぼみが付いた杖が握られていた。
「【二分咲き】」
その瞬間、尖端のつぼみが光り輝く。
翡翠の輝きを放ちながら、つぼみがわずかに開く。
その瞬間、地面に巨大な魔法陣が展開。
カッ……! と瞬くと、汚染された大気が一瞬で消し飛ぶ。
それだけじゃない。
極東勇者達との戦いで、更地になっていた草原が、一瞬にして緑豊かな大地へと戻ったのだ。
「凄いわこの杖……ほんの少ししか魔力を込めてないのに、広範囲に、高レベルの再生魔法が展開できた」
「す、す、すごすぎるのでござるー! ルーナどのー!」
きゃきゃっ、と歓声を上げる水月。
火加美たちを含めた、極東勇者達はただ呆然としていた。
彼女の使った再生魔法は、大地や大気だけでなく、範囲内にいた火加美達の体力すらも完全に回復させていたのだ。
「なに……あれ? 前からヤバかったけど……拍車かかってるわよ人外っぷりに。神器によるものなの?」
「少し、違う。神器はあくまで触媒だ。あれがルーナ本来の力だ」
「ど、どういうこと?」
「例えば貴様、湖にある水を外に出すとき、どうする?」
突然の例え話に、火加美はとまどいつつも答える。
「どうって……手で掬って取り出すけど」
「なるほど。だが限られた量しかとれないな」
「そりゃそうでしょ。いくら水の量が多くても、手ですくえる量なんてたかがしれて……あ」
アクトの言わんとすることを火加美は察する。
「いかに湖の水が多かろうと、器が小さければその分少ない水しかすくえない。だがバケツがあればより多くの水が、たらいがあればさらに多くの水を、その湖から採れる」
「なるほど……湖の水っていうのが、ルーナ本来の力。それを引き出す器ってのが神器ってこと?」
アクトがうなずいて、ルーナの持つ杖を見やる。
「ルーナが本来持っている巨大な癒やしの力。並の杖では全てを引き出すことは不可能。だがあの杖があれば、ルーナのもつ回復の力を最大限引き出せる。死者すらもよみがえらせられる」
「や、ヤバすぎない……?」
しかも意図して制御し、2割の力で今の奇跡を起こした。
火加美はただ戦慄することしかできなかった。
『ぐ、ぞ、がぁああああああああ!』
巨大蝿の体が黒く輝く。
その瞬間、爆発して見せた。
漆黒の煙が周囲を包み込む。
「分裂したか」
無限にも等しい量の蟲となって、周囲に散開する。
イーライは防御魔法を展開していない。
「ミード」
「おうよギルマス!」
弓使いのミードはしゃがみ込む。
美しい翡翠の弓を手に持っている。
だが矢が見当たらない。
ミードは弦を弾いて放つ。
その瞬間、まるで流星の如く、周囲に光の矢が展開する。
魔法の矢は速射砲のごときスピードで、無数の蟲たちを正確に射貫き殺す。
「無尽蔵の魔法矢だ。しかもその速さは光を超える」
「なんかもう……なんか……はぁ……」
数え切れないほどいたジャキだったが、残すところ1匹だけになった。
『ひっ! く、くそぉお! 撤退だぁあああああ!』
ジャキは逃げることに全身全霊の力を使う。
光を超える魔法矢。
さらにそれより速く逃走する。
光速を凌駕することで、擬似的な時間停止を起こしていた。
だが……。
「遅い。遅いよ、君」
ジャキの胴体を、上から、槍が串刺しにする。
『な、なにぃいいいいいいい!?』
槍の上に立っているのは、銀髪の美丈夫ウルガー。
紫電をまといし槍は敵の動きを麻痺させる。
その一方で、槍の柄に立つウルガーに、雷速の力を与えていた。
『あ、あ、ありえないぃいいい! どうして!? どうしてついてこれるぅうううう!』
「悪いけど光を超えたくらいで自慢されても困るよ。パワーアップした僕にとっては、君の動きなんてそれこそ、蝿が止まるくらい鈍いさ」
さらりと銀髪を撫でながらウルガーが平然という。
その様子を、イーライの遠見の魔法で、アクト達が見ていた。
「ウルガー……ついにあんたも、完全にそっち側の人間になっちゃったのね……」
火加美が呆れたようにつぶやく。
「なっ!? なんだねそっち側って!」
「あんたも立派な人外パーティの一員になったってことよ」
「納得いかないんだけどぉおおおお!」
緊張感ゼロで会話するウルガーに、ジャキは絶望の表情を浮かべる。
『レベルが、違いすぎる……』
もとより強かった超勇者パーティ。
そこに古代勇者の神器の力が加わることで、まさしく無双の力を、全員が手に入れていた。
「さて、降伏したほうが身のためだよ君」
槍で串刺しになっているジャキを見下ろしながら、ウルガーが言う。
『クソが! クソがぁあああああ!』
ここまで人間に舐められっぱなし。
これで死んだら魔族の恥だ。
ジャキは、命と引き換えに、最後の攻撃を放とうとする。
『うぎ、うがあ、がぁあああああああ!』
突如としてジャキの体が、何百倍にも膨張する。
「魔力を暴走させ自らを爆発させるようだ。死毒の魔力をまき散らし、この星を死の星へ変えるつもりだろうな」
「い、いやいや! ちょっとギルマス! やばいじゃんそれ! なにそんな冷静なのよ!」
「うむ! 問題ないぞ!」
ローレンスは笑顔でうなずく。
その瞬間、火加美は「あ、うん」とこの後の展開を容易に想像できた。
「おれがいる限り、この星を悲しみで満たすことは絶対にさせない!」
ローレンスは、鞘ごと大剣を取り外す。
「抜刀するな」
「心得た!」
ゆったりとした動作で、ローレンスが鞘に収まったままの大剣を構える。
ごごご、と大気を激しく揺らす。
ローレンスの体から立ち上るのは、目映い太陽のような光。
大剣はローレンスの魔力を吸い込んで、さらに激しく輝く。
「空を、絶つ!」
ローレンスは大剣を振り下ろす。
それだけだった。
「…………あれ? もう終わったの?」
「ああ、すべてな」
火加美は首をかしげる。
ローレンスが斬撃を放ったというのに、周囲に痕跡はない。
以前は凄まじい光の奔流が一直線に伸びて、その線上にいたもの全てを消し飛ばしていたのに。
「イーライ。遠見の魔法を」
火加美の目の前に、ウルガーがいた場所の映像が映し出される。
「なに……これ……?」
地平線の向こう側まで、断崖絶壁が広がっていた。
荒野である。
「わけが、わからない……なにが起きたのよ」
「ローレンスの斬撃だ。どこにいようと、誰が相手でも、存在まるごと消し飛ばすほどの威力の一撃を放てる」
あんぐり……と火加美が口を開く。
「手加減して、ジャキだけを消すつもりが、余波で星をごりっと削ってしまった! 反省!」
「いやいやいやいや。そんな軽いノリで星が削れるってヤバいから」
「まったくローレンスは相変わらず規格外ね。あ、治しておいたわ」
「あんたも大概よ……!」
火加美は戦慄する。
ローレンスは神器を手に入れた。
だが剣は鞘から引き抜かれてこそ真価を発揮する。
鞘に収まった状態で、しかも手を抜いて、星を削る斬撃を放った。
……では、鞘から抜かれた大剣で、本気の一撃を放った場合……どうなるか?
「恐ろしくて考えたくないわ……」
アクトはうなずいて言う。
「よくやったローレンス」
「ありがとう! だが、アクトさんのおかげだぞ!」
目映い太陽のような笑みを浮かべて、ローレンスが大剣を掲げる。
「この大剣、とても手に馴染む! この神器をアクトさんが見つけてくれたおかげだ! これがあれば何だって斬れる!」
ウルガーを始めとした、ローレンス・パーティたちがアクトの周りに集まる。
みな最適な武器を手にできたことを、アクトに感謝している様子だった。
火加美はそれを遠巻きに見て、はぁ……とため息をつく。
「まあまあ火加美殿。腐らない腐らない」
水月が肩を叩いてフォローを入れる。
「わかってるわよ。人と比べてもしょうがないものね」
「その通りだ。火加美」
アクトは彼女に近づいて、頭を撫でる。
「よく頑張った」
「んにゃ……! ま、まあ……どうも」
耳の先まで赤く染めて、火加美がもにょもにょと口を動かす。
「照れてるでござるー」
「なっ! て、て、照れてないわよ!」
水月がからかうと、火加美が全力で首を振る。
「火加美様、素直になればいいと思いますよ」
「うっさいだまれ! べ、別にギルマスのことなんてまったくこれっぽっちも好きじゃないんだからね!」
「「「「またまたー」」」」
その場にいた全員が笑う。
アクトだけが、話について行けてないのか、首をかしげていた。
……かくして、東の四天王は、勇者達の力によって撃破されたのだった。
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