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93.勇者、窮地に馳せ参じる



 アクトの力で超進化した勇者パーティ達は、四天王ジャキの撃破に成功。


 魔王の領土、北壁の草原にて。


「やりましたな、火加美ひがみどのー!」


 水の勇者、水月すいげつが、リーダーの少女に抱きつく。


「ちょ、ちょっと止めなさいよ……」

「やはり火加美どのはすごいのでござるよ! なぁみんな!」


 うんうん、と極東の勇者、土門どもん日光ひかり木蓮もくれんがうなずく。


「アタシだけが凄いんじゃないわよ。みんなで力を合わせなきゃ、まだまだ弱っちいわ」


 彼ら全員の脳裏に浮かぶのは、比類なき強さを持つ超勇者ローレンスとその仲間達。

 人外レベルの強さを持つ彼らと比較すると、自分たちは確かに弱い。


「それでも、以前の我らより格段に強くなっておりますよ」


「そうですよ火加美さま! パワーアップした私たちなら、きっと魔王だって倒せますよ!」


「あんたたち……」


 仲間達の表情は明るい。

 アクトが手を入れる以前のパーティは、ギスギスしていて雰囲気は最悪だった。


 それが今はどうだろう、みなが明るい顔をして、一致団結している。


「そうね……今のアタシたちなら、倒せちゃうかもね。魔王なんて、楽勝で」


 冗談ではなく、そんな気がした……そのときだった。


「いやぁ、素晴らしい。素晴らしいですねみなさん」


 パチパチ、とどこからか拍手が聞こえてきた。


 ぞくり……! と背筋に悪寒を感じる。

 振り返るとそこには、謎の男が立っていた。


「だ、誰よあんた!?」


 火加美は剣を抜いて構える。

 ……この男は、まったく気配を感じさせなかったのだ。


 それは火加美だけでなく、他の勇者達も同様らしい。

 突如現れた、【仮面の男】を前に、警戒レベルを最大限に引き上げていた。


「初めまして極東の勇者たち。私は【悪神ドストエフスキー】でございます。以後、お見知りおきを」


「悪神……? 神話の時代に暴れていたって言う、強大な力を持っていた魔の神、よね」


「おや、よくご存じで」


 目の前の男が、伝承通りの悪神かどうかは定かではない。

 だが強くなった勇者達が、その接近に全く気づけなかったこと。


 そして今なお彼から放たれる、異様なオーラは、人間の物ではなかった。


「……火加美どの。どうするでござる?」


 水月はリーダーに指示を仰ぐ。

 以前の自分ならば、無策で突っ込んでいただろう。


「……撤退よ。この未来は、あのギルマスが言っていなかった」


 未来を見通す眼を持つアクト・エイジ。

 彼が予見できなかったということは、今この男が出現したことは異常事態なのだ。


「水月……!」

「承知!」


 水の剣を抜いて、地面に突き刺す。

 その瞬間、周囲に濃霧が発生した。


「ずらかるわよあんたたち!!」


 仲間を連れて、火加美は逃げようとする。

 だが……。


 パチンッ、と指が鳴る。

 その瞬間、濃霧が、まるで最初から【なかったかのように】消えたのだ。


「そ、そんな……」

「賢明なご判断です。火の勇者は直情径行だと聞いていたのですが……やはりアクト・エイジが良い影響を与えたのでしょう。素晴らしい人材ですね」


 平然としているドストエフスキーを前に、火加美は内心で汗をかく。


「そう警戒しないでください。私は貴女に危害を加えるつもりはないのですよ」


「じゃあ、何しに来たの?」


 すっ……とドストエフスキーは火加美たちに手を伸ばす。


「私の仲間になりませんか?」


「は……? 仲間……ですって……?」


 突然の提案にとまどう火加美達。

 ドストエフスキーは構わず続ける。


「私、こう見えてギルドマスターをやっております」

「へえ……あんたみたいな変なヤツが組織の長?」


「ええ。私は【追放者ギルド】を立ち上げていましてね。あなたのように、他者を理不尽に追いやった結果、酷い目にあった者たちに救いの手を差し伸べているのですよ」


 ……どこかで聞いたような話だ。

 彼女たちの脳裏に浮かぶのは、アクト・エイジの無愛想な顔だ。


「火加美さん。あなたはそこの水月さんを追放した結果、酷い目に遭いましたね。どうです? 私のギルドに入れば、より強大な力を授けることができますよ?」


 ……少し前の自分なら、飛びついていただろう。

 だが火加美の答えは決まっていた。


「答えは……ノーよ!」


 炎の推進力を使って瞬間移動。

 ドストエフスキーの首を、炎の剣で一刀両断する。


「手応え、アリ……!」

「そうですか、残念です」


「なっ……!?」


 首を切ったはずだったのだが、ドストエフスキーは火加美の背後に、平然と立っていた。


「そ、そんな! 火加美様の抜刀術をくらって平然としているなんて!」


「なんなんだ……アイツは……!」


 怯える勇者達を見て、ドストエフスキーはため息をつく。


「まあいいです。気が向いたらお声がけください。いつでもお待ちしておりますよ」


「誰が……! あんたみたいな悪人の仲間になるもんですか……!」


 刀を振り回す火加美。

 だがドストエフスキーは、避けない。


 彼の体を刀で切っているはずなのに、手応えがあるはずなのに、全くの無傷であるのだ。


「さてと。では火加美さん以外はどうでもいいので、ここで消えてもらいましょうか」


 パチンッ、とドストエフスキーが指を鳴らす。

 その瞬間、彼の隣に、たおしたはずのジャキが現れたのだ。


「そ、そんな……! ジャキが復活した!」

「死者の蘇生だと……!? バカな!」


 よろよろとジャキが立ち上がる。


「ドストエフスキー……」

「やあジャキさん。残念でしたね、作戦が失敗してしまって」


 ぎりり、とジャキは歯がみをする。


「ぼくは……負けてない!」


 ジャキはドストエフスキーにそう言う。

 こいつは魔王の腹心、失敗の事実は悪神を通して伝わってしまうだろう。


「そうだ! ぼくはまだ負けてないんだ!」

「ええ、そうです。そうですとも。あなたには魔王様からもらった、【秘密兵器】がありますからねぇ」


「秘密兵器、ですって……?」


 火加美達が身構える。


 ジャキは邪悪に笑うと、懐から黒い球体を取り出す。


「これさえあれば、てめえらみんな皆殺しだぁ!」


 だがジャキはこの球体の使い方を知らなかった。


「良い心がけですよジャキさん」


 ドストエフスキーが球体を取り上げる。


「な、なにすんだよ! 返せよ!」

「使い方をご存じないのでしょう。これは……こう使うんです」


 悪神は黒い球体を、ジャキの額にズブリ……! と埋め込む。


「う、ぎ、ぎやぁああああああああああああああああああ!」


 額の球体が黒く輝くと、ジャキの体がバキバキと音を立てながら変態していく。


 その力の波動に勇者達は一歩も動けなくなる。


 見る見ると変わっていくジャキ。

 その姿は……【巨大なはえ】だ。


「この球体は【狂化の宝玉】。ひとたび使えば凄まじいパワーを手に入れる。……ですが使うと理性を失ったバケモノになってしまうのがネックですがね」


 くくく、とドストエフスキーが愉快そうに笑う。


『うげが、がが、げげがぁああああああ!』


 ジャキが吠えると大気が震える。


「ひ、火加美様! どうしましょう!」

「くっ……! 撤退は無理……戦うわよ、みんな!」


 極東の勇者達がうなずく。


「てぇやぁあああああああああ!」


 火加美が高速の踏み込みからの抜刀を放つ。


 だが……巨大蝿の姿が消えていた。


「なっ……!?」

『おせぇええんだよぉおおおおお!』


 火加美の背後に回っていたジャキ。

 巨大な体で体当たりを放つ。


「きゃああ……!」

「火加美様!」


 土門が火加美を受け止めようとする。

 だが土門の膂力パワーを以てしても、ふたりとも吹っ飛んで倒れる。


「そんな……火加美さまが、一撃で……?」

「何というスピードとパワー!」


 日光と木蓮が絶望の表情を浮かべる。


『はひゃひゃひゃああ! ぼくつえええええええええ! ぼく無敵ぃいいいいいい!』


「まだでござる……! 火加美殿ぉ!」


 タンッ……! と水月は火加美の隣までやってくる。


 水月は治癒の術を施す。

 ふらふらと火加美が立ち上がる。


「やるわよ……水月。ここであのバケモノを止めるの!」

「わかったでござる!」


 ふたりは魔力を高めて、剣を構える。


 一方で狂化ジャキは空中で留まっている。

『さっきのオーロラの剣を使うのか! いいぜええ! こいよぉおお!』


 ふたりはうなずいて、剣を構える。

 最大の一撃を、同時に放つ。


「「【極光絶消剣オーロラ・カリバー】!」」


 全てを消し飛ばす極大の光。

 放たれたオーロラは地面を削り取りながら、巨大な蝿を包み込む。


「はぁ……はぁ……やった、かしら……?」


 最大の一撃を、二度も放ったことで、火加美達の体力は尽きた。


 だというのに……。


『無駄だあぁああああああああ!』


 ジャキは傷一つ負っていなかった。


「そんな……」「私たちの最大の攻撃を受けて無傷なんて……」「もう……お仕舞いだ」


 勇者達は完全に、失意に飲まれていた。


『圧倒的ぱぅわぁあああああああ! すぴぃいいいいいいど! そして無敵のぼでぃぃいいいいいいい! ぼくが、最強になったんだぁあああああ! ぎゃははははははあああああああ!』


 秘密兵器を埋め込まれたジャキは、もはや誰にも、止めることができない。


『このまま人間達を滅ぼしてやるぜえ……!』


「そうは……させないわよ……!」


 ふらふらになりながらも、火加美だけは立ち上がり、刀を構える。


 仲間達がもうダメだと諦めている中、その紅い瞳だけが、敵を見据えている。


『あー? んだよ小娘ぇ。てめえぼくの邪魔する気か?』


「当たり前でしょ……! だってアタシは……アタシは、勇者なんだから!」


 強大な敵を前に体が震える。

 以前の、小娘だった頃の彼女なら絶望していただろう。


 だが、今勇者となった彼女は、逃げない。

 人類のために、勇気を持って悪鬼を打ち倒す。


 その姿はまさしく、立派な勇者のそれだった。


『はぁ……うぜぇえええんだよ!』


 超高速でジャキは火加美に突進する。


「がは……!」


 火加美は体を【く】の字にして勢い良く吹っ飛ぶ。


 上空へと弾き飛ばされた彼女を、先回りして、ジャキがその首を掴む。


「ぐ、が……!」

『このまま首をがぶりと食らってやるかぁ……げひっ! げはははは!』


 ぐぱぁ……! とジャキが口を開く。

 触手や牙の生えた、醜悪な口腔内があらわになる。


 かたかた……と体が震える。

 気丈に振る舞っていても、死の恐怖にはあらがえなかった。


「火加美殿! くっ……! うごけ……うごけえええ!」


 力を使い尽くした水月は、何度も立ち上がろうとするが、しかしがくりと倒れ伏す。

『これで終わりだぁ! 死ねぇえええええ!』


 ジャキが火加美を食らおうとした……そのときだ。


「まだだ。貴様が死ぬには、まだ早い」


 目映い光がジャキの体を包み込む。


 その衝撃で火加美が空中に投げ出された。


「きゃああああああああ!」


 その体を、誰かが優しく抱き留める。


 恐る恐る目を開けると……そこにいたのは、黒髪のギルドマスター。


「ギル、ます……?」

「アクト殿ォ……!」


 ギルドマスター・アクトが、空中で火加美を抱き留めていたのだ。


「すまない。貴様を危険な目に遭わせて」


 じわりと眼に涙を浮かべる火加美。

 助けてくれたことへの感謝と、彼への愛おしさがあふれて、アクトの胸の中で少女のようになく。


 華麗に着地すると、火加美を下ろす。


『なんだ貴様ぁああああああああ!』


 ジャキの体は今の一撃でボロボロになっていた。

 しかし、しゅうう……と煙を立てながら再生していた。


「俺はアクト・エイジ。冒険者ギルドのギルドマスターだ。そして……」


 ザンッ……! と彼の周りに、数名の男女が降り立つ。


「おれたちは勇者! 勇者ローレンスとその仲間達! 新たな武器を手に、はせ参じた!」


 その手には見たことのない武器を携えていた。


 そう、彼らは見事、古代勇者の残した遺産を回収してきたのだ。


「覚悟しろ悪鬼よ! おまえは、おれたちがたおす!」

【※読者の皆様へ とても大切なお願いがあります】


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