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92.東の四天王VS最強勇者パーティ5



 ギルドマスター・アクトの手によって、超進化した極東の勇者パーティ。


「信じられない……モブキャラごときに……このぼくが追い詰められるなんて……」


 四天王の一人、蟲使いのジャキ。

 彼が作り出した四匹の蟲の王たちは、極東勇者達の手で容易く撃破されてしまった。

 北壁の四天王を破った超勇者ローレンス達が相手なら苦戦したとしても言い訳が立つ。

 

 だが、こんな端役も良いところのパーティに負けてしまったら、四天王としての面子は丸つぶれだ。


「これで終わり?」


 リーダーの少女・火賀美ひがみが鋭くこちらをにらみ付けてくる。


「く……くく……はは! あははは……!」


「何がおかしいのよ……?」


「その程度で勝った気でいる君らがさ! 滑稽で仕方ないよ……!」


 勇者達はまだ部下である蟲たちをたおしただけに過ぎない。


 本丸であるジャキは未だ無傷だ。


「見せてあげるよ……四天王と君らの、格の違いをよぉ……!」


 背中の翅を広げてジャキが飛びあがる。


「行くわよあんたたち」


 火賀美は魔力を高める。

 彼女の周囲に魔法の炎が発生し、火の粉を散らす。


「力、貸しなさいよ」


 そのセリフを聞いた水月すいげつたちパーティメンバーが笑った。


 かつて火賀美は、自分が目立つことばかりを考えていた。

 一人で勝手に突っ込んで戦っていた。

 仲間を顧みることなんて一度もなかった。

 ……それがどうだろう。

 彼女は素直に、仲間達に助力を申し出てきた。


「な、なによ……?」

「いや、アクト殿のおかげで、火賀美殿は本当に柔らかくなったなと思ったのでござる」


「ンなっ……! あ、あいつは関係ないっつーの!」

「と言いつつアクト殿と話すときだけ嬉しそうにしてるでござる。なぁみんな、そう思うだろう?」


 うんうん、とうなずく勇者達。


「この……! へ、変なこというなバカ-!」


 仲間達が笑っている姿を見て、水月は嬉しく思った。

 以前まであった、ギスギスした雰囲気がそこにはない。


 今は火賀美を中心として、パーティがまとまっていた。


「ぼくを無視して仲良しごっこか? 舐めるのもいい加減にしろよぉ……!」


 ジャキが飛び上がり、その翅を震わせる。 

 紫色の毒々しい鱗粉が周囲に散布される。

 触れた場所すべてがジュウウ……と音を立てながら溶けていく。


「火賀美殿、あの鱗粉には毒が込められているようでござるな」


「水月は防御。日光ひかり、浄化の術を展開。土門、いくわよ」


「「「承知!」」」 


 火賀美の指示通り仲間達が動く。


 水月は刀を地面に突き立てる。


「【瀑布城壁】……!」


 地面に亀裂が走り、そこから上空めがけて激しく水が噴き出した。


 広範囲に吹き出した水流は、鱗粉の進行を食い止める。


「【天女の息吹】!」


 日光が舞い踊り、翼をはためかせる。

 翅が無数に広がり、そこから浄化の光が照らされる。


 大瀑布をレンズとして、浄化の光は何倍にも拡散された。


 毒の鱗粉は、浄化の力によって一瞬で消し飛ぶ。


「くっ……! こしゃくなぁ……!」


 ジャキは翅を広げ、超高速で移動する。

 目で追えない速度のスピードで、狙うはリーダーの火賀美。


 彼女は明らかに防御に秀でたタイプではない。

 目にもとまらぬ速さで攻撃すれば、容易く即死するだろう。


 光を超えた速度で一撃を放とうとする。


 ジャキの右腕はカマキリのそれに変わっていた。

 ジャキは蟲を生み出すことも、蟲の体に変化させることもできる。


「死ね……!」


 鎌による超速の一撃を放った……はずだった。

 手応えも、あったはずだった。


 ……だが、地に伏せていたのはジャキのほうであった。


 ジャキは火賀美の顔を見上げる。

 彼女は冷静に、自分を見下ろしていた。


「なにを……した! 何をしたぁああああああああ!」

「はぁ? なんでそれを、敵であるあんたに教えなきゃいけないわけ?」


 まったくもって火賀美の言うとおり。

 だがジャキは理解せねばならなかった。

  

 不可避の一撃を、こんな雑魚に避けられるなんて……あり得てはいけないのだ。

 

 実際は、炎の推進力を使っての、超高速の居合いを披露したのだ。


「くそ……くそがぁああああ!」


 ジャキの体が一瞬で、真っ黒になる。

 だが次の瞬間、彼の体がほどけて見せた。

 ……否。

 ジャキの死体は消え、その上空に無数の黒い蟲が集まって飛んでいた。


「無数の蟲が集まって、1個体を形成していたのね」


「蟲一匹一匹が集まってジャキという魔族を生み出していたのでござるな」


 飛んでいる虫の全てがジャキであるに等しい。

 だが……ジャキは戦慄していた。


 自分の秘密を、こいつらに一瞬で看破されたことに……。



「あれ全部たおさないとダメなのよね」

「めんどうでござるなー」


 そう、この無数にいる蟲を一匹残らずたおすことが勝利条件。

 極小で、しかもそれぞれ自由自在に、素早く動く蟲を全てたおすことなど不可能。


 ……だというのに、勇者達は冷静だった。


『なぜだ!? そうも落ち着いていられる!?』


 そもそも不思議だった。

 自分の正体も、勝利条件も、なぜ初見であるこいつらが見抜いているのか……?


「そりゃあ」「もちろん」

「「ギルマスに、攻略法おしえてもらったから」」


 ギルマス。つまり、冒険者ギルドのギルドマスターであるアクト・エイジのことだ。

『アクト……エイジぃいいいいいいい!』


 魔王軍の前に立ちはだかる男の名前を、ジャキは叫ぶ。


 未来を見通す眼を持つ青年は、魔族の襲来も、やってくる敵の弱点も、全て見抜いていた。


 すべては彼の手のひらの上だったのだ。



『だ、だが! まだ貴様らが勝ったわけではない!』

「は? バカなのあんた? 敵の正体が事前に割れてるのよ?」


 火賀美は刀を構えて、不敵に笑う。


「この展開もあの人は読んでいた。そして、たおす術も、教えてくれたわ。……いくわよ、水月」


「うむ!」


 ふたりは左右に並び立つ。

 火賀美、そして水月は刀を構え、ともに魔力を高め合う。


 ……ぞくり、とジャキは背筋に冷や汗をかいた。


 敗北の予感が脳裏をかすめた。

 それほどまでに、彼女たちが放つプレッシャーは並ではなかった。


『た、退散!』


 ジャキの群れは、空気中に散布される。


 一方で火賀美たちは動揺しない。


「障壁を張る! みな、背後に回れ!」


 残りのふたりの勇者に命じると、土門の言うとおりにする。


 土の勇者が地を踏みならすと、巨大な岩の防壁が出現する。


「衝撃に備えるぞ!」


 土門、日光、そして木蓮、それぞれが防御の術を展開。


 それは、自らの身を守ると同時に、背後にいる北壁を守るため。


 ……つまり、それほどまでに強力な一撃を、火賀美と水月は放とうとしているのだ。

 火賀美の体からは、紅蓮の炎。

 水月の体からは、氷結の風が。


 それぞれ立ち上る。


「いくわよ!」「おうでござる!」


 火賀美と水月が刀を振り上げる。

 火賀美は右斜め後ろに、水月は左斜め後ろに。


 そして、全魔力を込めて、ふたりが刀を振るった。


「「【極光絶消剣アウロラ・カリバー】!」」


 炎と氷の斬撃が空中でぶつかり合う。

 その瞬間、目映い光が周囲を照らした。


 それは七色の光……オーロラ。

 その美しさに誰もが見とれるだろう。

 だがそれを見届けたものは、即座に死ぬことになる。


 彼女たちが放った極光は、一直線上にあった物全てを消滅させる。


 恐ろしいまでの消滅のエネルギーが、一瞬にしてジャキを包み込んだ。


『ぎゃぁああああああああああ!』


 無数にいたジャキたちは、光を眼で捉えた瞬間に消える。


 死の極光は眼で捉えた瞬間に死ぬ。

 

 光が見えずとも、光の照らされる部分にあった物は消える。そして結局死ぬ。


 やがて……そこには荒野が広がっていた。

「うむ、しょーりでござるな……!」


 晴れやかな表情で笑う水月。

 だが一方で……火賀美は言葉を失っていた。


「どーしたのでござる?」

「いや……うん。まあ……なんというか……これをやったの、アタシなのよね」


 自分はローレンス達と比べて、一般人の範疇にいると思っていた。


 だが、目の前のまっさらな大地を見ると、ローレンス達の領域に両足を突っ込んでしまった感が半端ではない。


 ようこそ、化け物の世界へ、とローレンス達が笑顔で手を振っている姿を幻視してため息をついた。


「すごいでござるよー、火賀美どのー!」


 四天王をたおした。これは間違いなく偉業である。

 だが素直に喜べない。


「……なんか、自分の力で勝った気がしないわ」


「よいではありませぬか」


「水月……?」


「みんなで掴んだ、勝利でござる!」


 笑顔の仲間達を見ていると、自分の悩みがどうでも良く思えた。


「そうね……よくやったわみんな……じゃなかった」


 一人でモンスターをたおしたときより、みんなでジャキを撃破した今のほうが……気持ちが良かった。


「みんなのおかげよ。ありがとう!」


 火賀美は、人生で一番キレイな笑顔を浮かべていた。


 一人で突っ込んで、勝てないことに悔しがっていた少女はもうどこにもいない。


 そこにいたのは、仲間と協力して、巨悪をたおす勇気ある者の姿……。


 そう、彼女は今この瞬間、勇者として【成った】のだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] メド○ーアかな?
[一言] 炎+氷=消滅………うっ!何かな漫画でこのような弓矢型の魔法があったような
[一言] 魔王が渡した【切り札】って何だったんだ? 取り合えず・・・使う間もなく終了?
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