90. 東の四天王VS最強勇者パーティ3
一方その頃、魔王四天王の一人、東壁のジャキはというと。
魔王から命令を受けて、奪われた北壁を、取り戻しにやってきていた。
「ま、らくしょーだね」
遙か上空から、ジャキは北壁を見下ろす。
かつての魔族の要塞都市では、今や人間達が普通に暮らしている。
「のんきなサルどもだねぇ。今からそこは地獄の釜になるっていうのに」
にぃ……と口角をつりあげる。
人が死ぬこと、人を傷つけることに対して、何一つ罪悪感を覚えない。
むしろ苦しんで死ぬ様を見て喜ぶ。
それが、ジャキという男だった。
「くくく……さてじゃあそろそろショータイムといこうか」
バッ、と両の腕を広げる。
その瞬間、足下に魔法陣が展開。
突如として黒い雲が発生する。
……否。よく見ると、無数の黒い蟲たちだった。
数え切れないほどの黒い蟲たちが、空中に散っていく。
漆黒の蟲たちは、空中で螺旋を描く。
それは大海の渦潮を彷彿とさせた。
「さぁ始めよう……愉快な殺戮ショーを!」
ジャキが念じた瞬間、黒い蟲の波が、人間達の暮らす街をめがけて押し寄せる。
波が通り過ぎた後、そこには何も残らない。
一匹一匹は小さくとも、物をかみちぎる力は、肉食獣を凌駕しているのだ。
翅がこすれる音、地面がえぐられていく音。
そして何より、大量の小さな蟲が群体となって押し寄せる様は……人々に根源的な恐怖を抱かせる。
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「はは! 恐れおののくが良い! このジャキ様の強さに!」
虫の大群が北壁を、そしてそこに暮らす人々をあっさり飲み込む。
がりがり、ぼりぼりと、蟲たちがむさぼる音が響く。
「君たちも運がなかったねえ……! まさか人類の希望たる超勇者が不在なんだから……!」
ジャキは蟲を通して情報収集をおこなっていた。
最大の障害たる、ローレンスがいないこのときを狙って襲ってきたのである。
彼は人間を見下しているが、イリーガルを倒し、さらにヴィーヴルを従えているローレンスという男を、警戒していたのだ。
「くく……さぁて、そろそろよい頃合いかな」
ぱちんっ、とジャキが指を鳴らす。
するとあれだけいた蟲たちが、いっせいに雲散霧消した。
「あはは! あっけない幕引きだったね~。ま、超勇者が居ないんだからこの程度……って、な、なにぃ!?」
ジャキは眼前の光景を見て、驚きを禁じ得なかった。
「そ、そんなバカな!? なぜ、北壁が……無事なんだぁ!?」
そう、そこにあったのは、傷一つない北壁と、その町並みだった。
周囲の地面はえぐり取られているのに、町並みに変化は一切見られない。
「どうなっている……いったい何が起きた!?」
と、そのときだ。
「それは拙者がお答えしよう」
突如として上空に暗雲が立ちこめる。
雷鳴とともに現れたのは、巨大な水の竜だ。
竜の頭の上に乗っていたのは、刀を帯びた女の騎士。
「貴様……何者だ!?」
「拙者は水月。ローレンス勇者パーティの魔法騎士」
「ローレンス……? バカな、あいつらは不在のはず!」
「この展開を読んで、拙者を配置したお方がいるのでござるよ」
「バカな……僕の計画を見抜いていただと……? なんなんだ、そいつは」
この場にいない黒髪のギルドマスターの采配であったが、水月に答える義理はなかった。
「ま、まあ良い。誰が相手だろうと関係ない。ここで死ね!」
ジャキが命じると、無数の蟲たちが水月に襲いかかる。
黒い奔流が可憐な少女に襲いかかる。
だが水月は動じることなく、持っている剣を前に突き出す。
「【水なる竜】!」
その瞬間、大気中の水分が凝縮し、巨大な竜へと変貌する。
水の竜は顎を大きく開くと、蟲たちを飲み込む。
「【氷なる竜】!」
水月が命じると、竜は一瞬で氷の体へと変貌。
そのまま虫ごと砕け散った。
「ば、バカな……あり得ない! 僕の蟲があっさりと!?」
大地を食らうほどの強力な蟲の軍勢が、小娘の一撃に破られた。
その現実を受け止められず、ジャキは首を振る。
「い、今のは何かの間違えだ! 出でよ、【金剛夜叉カブト】!」
ジャキは地面に手を触れる。
その瞬間、見上げるほどの巨大なカブトムシが出現した。
殻は文字通り金剛石でできている。
漆黒の巨大な蟲を出現させ、にやりとジャキが笑う。
「この金剛石の殻は絶対防御の鎧! いくら貴様の水の竜が凄かろうと、砕くことは不可能!」
「なるほど……確かに拙者だけでは不可能でござるな。拙者だけでは、な」
「ほざけ! ゆけええ!」
カブトが咆哮すると、そのまま突進してくる。
「水なる竜・防御陣形!」
水月が乗っている水の竜から飛び降りる。
竜は空中でとぐろを巻いて、カブトを真正面から受け止める形だ。
「そのまま【氷なる竜】へ!」
先ほど同様に、一瞬でカブトが凍り付く。
「はは! 無駄無駄ぁ……! 凍らせただけで何の意味がある!」
「後は頼みますぞ……火加美どの!」
水月の合図とともに、背後から激しい熱風が吹き荒れる。
それは紅蓮の炎をまとった、巨大な火の鳥だった。
「なっ……!? なんだよこれは!」
凍り付いたカブトを、炎の両翼が包み込む。
そのまま激しい炎の柱が、天を焼くようにそびえ立つ。
「すごいですぞ火賀美どのー!」
水月の隣に並び立つのは、赤い髪の剣士火賀美だ。
彼女は複雑そうな表情で、自らが起こした現象を見る。
「なんか、自分も化け物になってる気がする……」
あんなにも巨大な蟲を、仲間の手を借りたとは言え、焼き尽くしてしまった。
かつてはそんなことできなかったはずなのにだ。
「アクト殿のおかげですな!」
「まあ、そうだけど……素直に喜べないんだけど……」
ぎりっ、とジャキは歯がみする。
「なんで……こんな雑魚ごときに、ぼくが押されないといけないんだ……!」
「はんっ。雑魚と侮るんじゃないわよ。アタシたちだって、勇者なんだから」
火加美は思い出す。
自分をここに来るようにいった、彼の顔を。
アクトは、無駄なことが嫌いだ。無意味なことは絶対にさせない。
つまり、今自分がここにいることは、何か意味ががあってのことなのだ。
「いくわよ、水月。あんたたちも」
いつの間にか、背後には剣士達が集まっている。
極東の勇者パーティ、全員集合していた。
「ローレンスだけが勇者じゃないってこと、魔王四天王に教えてやろうじゃない!」
水月は、リーダーである火賀美の顔を見てうなずく。
彼女に、自信の色が戻っているように感じた。
「うむ! やりましょうぞ、みんな!」
かつてバラバラになってしまった勇者パーティ。
そのメンバーを集め、こうして再び結集させてくれたのは……アクト・エイジのおかげだ。
「調子に乗るなよ! 人間ごときがぁ!」
怒りの表情を浮かべたジャキから、大量の蟲たちがあふれ出す。
だが火加美は怯えることも、逃げることもしない。
「魔族風情が、調子乗ってんじゃないわよ!」
アクトの手によって再び輝きを取り戻した、勇者達が今、再起を果たそうとしていた。
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