09.悪徳ギルドマスター、最強剣士から救援要請を受ける
ある朝、俺が出勤すると、ギルドホール内は賑わっていた。
「ロゼリアさんが帰ってきたらしいぞっ」
「ギルド最強の女剣士【鮮血のロゼリア】さんが?」
「まじかっ! Sランクモンスター火炎竜討伐に成功したのかっ?」
「さすがSランク冒険者だぜ!」
そのときだった。
「ギルマス! ああギルマス!」
ギルドホールの奥から、人混みをかき分けて、こちらにかけてくる影があった。
たんっ、と床を蹴ると、彼女が俺に抱きついてくる。
「お久しぶりでございますわ、ギルマスっ!」
「元気か、ロゼリア」
鮮やかな赤い髪の、長身の美少女が、俺の頬にキスをする。
彼女はロゼリア、うちのナンバーワン前衛職冒険者だ。
「ギルマスに会えない夜が何日も続いて、わたくし寂しくて死んでしまうかと思いましたわ」
「人は寂しくても死ぬことはないだろ」
「有象無象の輩ならそうかもしれませんが、わたくしにとってギルマスはそれほどまでに愛おしい人なのです……♡ ああ……ギルマス……♡」
二度目のキスをしようとした、そのときだ。
『ちょおっと待ったー!』
突如、俺の前に突風が吹き荒れる。
気づけば、そこには手のひらサイズの女が現れた。
「妖精か」
『さっきから黙ってみていればっ。ご主人さまっ。どうしてこんな男と親しくするのですかー!』
妖精の女はロゼリアを主人と呼んだ。
「なんだ、こいつは?」
「彼女はミザリィ。火炎竜に襲われたところを助けたんですの。行き場がないということで保護しました」
妖精ミザリィは、俺へ敵意を向けてくる。
『あんたがご主人さまの言っていた世界で最も強い男?』
「違う」
「ええ、その通り。そしてわたくしの未来の旦那様ですわ♡」
むぎゅっ、とロゼリアが俺の腕に抱きついてくる。
だが突風が俺に向かって吹いてきて、俺は尻餅をつく。
「ミザリィ! なにをしているの!」
『あたし認めてませんからっ。こーんなひ弱そうな男と、ご主人さまとじゃ釣り合いません! べーだ!』
どうやら妖精は俺のことが気に入らないそうだ。
「も、申し訳ございませんギルマス……」
「気にするな。おまえは悪くない」
『そーだそーだ! 悪いのはご主人さまをたぶらかすおまえのほうだー!』
「もう! ミザリィ! あなたは少し反省なさい!」
『やーですよう! こんな雑魚ちびに謝りたくないもんっ』
風が吹くと、ミザリィは消えてしまった。
「高位の風の妖精とは珍しいな」
「ええ、彼女はサポート役として優秀なので、このギルドに入れようかと連れてきたのですが……いかんせん性格に難ありで……」
「問題ない。うちは性格で選んでないからな」
「ところでギルマス、次の依頼はないのですの?」
ロゼリアがやる気満々で言う。
「まだ早い。お前たちは帰ってきたばかりだ。十分な休養をとれ」
「いえっ、大丈夫ですわ。わたくしは少しでも多くの依頼をこなし、貴方への恩を返したいのですっ」
俺は鑑定眼で、ロゼリアの健康状態を見やる。
確かに体力も気力も、魔力も全回復している。
さすが若いだけはあるな。
俺は魔法袋から依頼書を取り出し、彼女に手渡す。
「近所の街のギルドからの応援要請がきた。新しくダンジョンが発見されたそうだ。パーティメンバー達と向かって欲しい」
俺たちの世界にあるダンジョンは、ある日突然、自然発生する。
新たなダンジョンが発見されると、近くの街のギルドが担当となって、調査部隊を派遣し、中の様子を探らせる。
「先行部隊によると、浅い階層ですらAランクモンスターがいたそうだ」
「なるほど……そこでわたくしたちの出番ということですね」
浅い層の探索ならまだしも、深い場所の調査となると、手練れが行う必要がある。
「隣町のギルドからの要請だ。しかもお前達は帰ってきたばかり。断ってもらって構わない」
「いえ、お受けします! 愛するギルマスからの依頼ですもの!」
気合い十分にロゼリアが言う。
「あくまで内部の調査が目的だ。支援物資は十全に手配しておくが、万一、迷宮主と遭遇するようなことがあっても、絶対に近づくな」
「ええ、心得ておりますわ。ランクの高いダンジョンの迷宮主となれば、それだけレベルの高いモンスター。無策で挑めば死ぬことくらい承知してます」
ロゼリアは冒険者となって長い。
独断専行して、ダンジョンの主たる迷宮主の部屋に入ろうとするはずがない。
……そう思っていた。
★
ロゼリアがダンジョンへの調査へと向かってから、数日後の出来事だ。
『お願い! ご主人さまを助けてっ!』
風の妖精ミザリィが、ギルド会館に戻ってきたのだ。
「どうした? なにがあった?」
話をまとめると、以下の通り。
・ロゼリアたち遠征部隊が、ダンジョン調査に向かった。
・途中、迷宮主の部屋を発見。
・ミザリィが独断専行して中に入ってしまう。
・中の強力なボスモンスターを前に、ロゼリアたちは大苦戦中。
・ミザリィは魔法を使って、外に応援を呼びに来た次第。
「風の妖精は【遍在】の魔法が使えたな」
遍在とは簡単に言えば分身の術だ。
自分と同じ存在を作り出し、遠隔で操作が可能。
外に助けを呼びに来たこいつは偽物で、本体はまだ地下に居る。
『……ご主人さまは引き返そうと止めたんだ。けどあたしが勝手に大丈夫いけるって思って、中に入ったら……見たことない巨大で、強力なモンスターがいて……』
涙を流すミザリィ。
遍在で偵察するという手段を取らなかったのも、慢心ゆえだろうか。
『身勝手なお願いだとは重々承知してるけど、お願い! 地下に取り残されたご主人さまを助けてよぉ……!』
一方で、周りで話しを聞いていたギルドメンバー達がうなずく。
「よしわかった!」
「いこう! ギルメンのピンチは全員で助け合う!」
「それがおれたち天与の原石だ!」
奮起するギルメン達に、俺は言う。
「駄目だ。許可できない」
『なっ……!? ど、どうしてよぉ!』
「ギルド最強のロゼリアですら手を焼くボスだぞ? おまえらが行って倒せるのか?」
「「「そ、それは……」」」
天与の原石のメンバー達は、レベルが低いわけではない。
だがギルドトップのロゼリアと比べたら数段実力で劣る。
新ダンジョンの危険度もわからない、迷宮主の強さも不明瞭な状態。
「そんな場所に、お前達を向かわせ、大勢を無駄に死なせるわけにはいかない」
『じゃ、じゃあご主人さまを見捨てるっていうの!? ひどい! ギルマスのくせに! 最低よ……!』
ミザリィが涙を流しながら、俺をにらみつける。
「フレデリカ」
「すでに準備は整っております」
メイドのフレデリカが、リュックを背負って俺の前に音もなく現れる。
「ミザリィ、行くぞ」
『え? え? どういう……こと?』
困惑する妖精に、ギルメン達が明るい声で言う。
「もう安心だぜミザリィちゃん!」
「おれたちの頼れるボスが、ロゼリア様を助けてくれるってよ!」
目をパチクリさせながら、ミザリィが俺を見やる。
『で、でも……今ご主人さまを見捨てるって……』
「そんなことは一言もいってない。いくぞ」
俺はきびすを返し、フレデリカを連れて、ギルド会館を出る。
『どうして……助けてくれるの? あたし、あんたに酷いこと言ったのに……?』
俺の後ろを、妖精のミザリィがついてくる。
「勘違いするな。貴様のためではない」
ロゼリアはうちの大事な主戦力、失えば大きな損失となる。
「依頼を受けたのは彼女とはいえ、選んだ責任は俺にある。それに、彼女を手放すのには、まだまだ早すぎる」
『……ありがたいけど、あんたが行ったところでどうにもならないんじゃ?』
するとフレデリカが首を振って言う。
「あなたは知ることでしょう。我らのギルドマスターは、慈悲深さだけが取り柄ではないということを」
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