89.東の四天王VS最強勇者パーティ2
俺たちは七獄の最深部へとたどり着いていた。
マグマのなかにある転移トラップを抜けると、そこは巨大な地下空間が広がっている。
「うわぁ……明らかにやばそーっすよここぉ~……」
人間体となったヴィーヴルが、青い顔をして、周囲を見渡す。
「やばそう、ではない」
「えっ? ど、どういう……?」
「総員、戦闘準備」
「「「応!!」」」
勇者達が武器を構える。
突如として、地面から青い炎が沸き立つ。
炎は激しく燃え上がると、徐々にひとつの形を作った。
「ほ、炎の……巨人っす」
ヴィーヴルが声を震わせながら、現れた敵を見てつぶやく。
青い炎で構成された、四つの腕を持つ巨人だった。
仰ぎ見るほどの巨体。
その額からは、長い角が見て取れる。
「炎の鬼神、と言ったところか」
「き、鬼神!? ちょっ!? 神がいるとか聞いてないっすよぉお!」
ガクガクガク、とヴィーヴルが激しく体を震わせる。
「アクトさん! かえりましょーよ!」
「無理だ」
「なぁんでぇ!?」
「この空間が完全に、現世と切り離されている。元いた場所に帰りたいのなら、鬼神を倒すほかない」
「しょ、しょんなぁ~……むりっしゅよぉ~……」
ヴィーヴルが今にも泣き出しそうな顔で、弱々しくつぶやく。
パワーアップした邪神竜すら腰を抜かしてしまうほどだ。
炎の鬼神から感じ取れる強さは、圧倒的だった。
「イーライ、防御と空中浮揚魔法を」
「ーーーーーーーーーーーーー!!!」
鬼神が吠える。
熱波が広がり、地面が一瞬でマグマへと変わる。
だがイーライの半透明の、球形結界が俺たちを包む。
そしてそのまま、魔法で結界を持ち上げる。
「じ、地面が一瞬でドロドロに……タイミングが遅れてたら……」
「ルーナ。イーライとミードに補助魔法を。ミード、4時と8時の方向に魔法矢」
マグマが吹き上がり、それが巨大隕石へと変わる。
「うぎゃああああああああ! 死ぬぅうううううううう!」
俺の指示した場所に、ミードの矢が突き刺さる。
それだけで、隕石の軌道がずれる。
俺たちに攻撃が当たることなく、背後へと跳んでいった。
「よし。ウルガー、ローレンス。出番だ」
「わかったぞ!」
「ふっ……任せたまえ」
ふたりが武器を構える背後で、ヴィーヴルが震えながら言う。
「で、出番って……まさかあの鬼神と戦うんすか?」
「そうだ。ふたりには結界からでて、ヤツと戦ってもらう」
「いや! アクトさん! さすがに無理っすよ! 見たでしょさっきの隕石!?」
極大魔法なんて比ではない、凄まじい熱量、そしてエネルギーを秘めた一撃だった。
「あんなの放つ鬼神相手に、かてるわけがねーっすよ!」
「問題ない」
「どうして!?」
「俺は、貴様らの強さを信じている」
ローレンスを初めとした、この勇者パーティの強さを、一番よく知っているのは俺だ。
何ができて、何ができないのか。
俺が一番把握している。
だからこそ、断言できる。
「貴様らは勝てる」
「うむ! それだけで……おれは戦えるぞ!」
たんっ……! とローレンスが結界の外へと飛び出る。
ローレンスの体を熱波が襲う。
常人ならでた瞬間に消し炭になるところだ。
だが、ローレンスは魔力で体を包み込み、鎧を作っている。
ウルガーもまた、同様の技術で身を守る。
「す、すげえ……あんな環境下であのふたり、へーぜんとしてるっす……そんで当然のように飛んでるし……」
飛行魔法は高等テクニックだ。
だが2人が使っているのは魔法ではない。
魔力で空中に足場を作り、そこに立っているだけだ。
こちらもまた高等技術だが、ふたりは問題なく使える。
「ふっ……まずは勇者パーティの一番槍であるこの僕がいこう」
たんっ……! とウルガーが宙を蹴り、凄まじい速さで突っ込んでいく。
槍を前に構えて、銀の髪の毛をたなびかせながら走る。
「【流星散華】!」
流れ星のごとく速さで突撃する。
鬼神の右足をえぐり取る。
「あ、あんなでけえ巨人の足を、1回の攻撃でえぐり取るなんて……!」
鬼神はバランスを崩して、マグマにダイブする。
「すごいぞウルガー! よぉし、おれも負けぬぞ! ぬぅん!」
ローレンスが斜めに斬撃を放つ。
黄金の魔力の乗った一撃は、マグマを消し飛ばしながら一直線に走る。
黄金の奔流に鬼神は飲み込まれた。
「か、勝っちまったっす……あんな化け物相手に……! すげー!」
「まだだ。喜ぶには、まだ早い」
「は………………?」
マグマの柱が、ずぉ……! と沸き立つ。
その数にして……20。
「うそ……でしょ……」
先ほどの鬼神が、合計で20体。
「あんなのが20体もいるなんて……無理っすよ……」
「勝てる」
「むりだよぉ~……」
俺はため息をついて、ヴィーヴルを見やる。
「おい」
「ふぁい?」
「いつまでそうしてるつもりだ。仲間が戦っている中で」
ローレンスたち、そしてイーライは、炎の巨人相手に奮闘している。
「でも……怖いし」
ヴィーヴルの目は暗く沈んでる。
恐怖は自信のなさから来る物だろう。ローレンスという、稀にみぬ最強の勇者がそばにいる弊害か。
「そうか。ならばそうして管を巻いていろ。その間に仲間が死ぬだけだがな」
ハッ! とヴィーヴルは目を見開く。
「ローレンス達は確かに強い。だがひとりで倒せるほど、この先に待つ強敵は弱くない。貴様の力が必要なんだ」
「……でも、自分は」
「貴様は、俺が選んだ勇者パーティの一員だ。その意味を、よく考えろ」
ヴィーヴルは目を閉じる。
「……そっす。アクトさんは、無駄なことは決してしない。自分があのパーティに必要とされてる。仲間が、自分を求めてる」
俺は彼女が自ら立ち上がるのを待つ。
やがて、ヴィーヴルは目を開ける。
「アクトさん」
「なんだ」
「自分、やるっす。……でも、まだ体が震えて。だから、自分のケツを蹴ってほし」「そうか、わかった」
俺はヴィーヴルの尻を蹴飛ばし、結界の外へ追いやる。
「ちょっ……!?」
ボッ……! とヴィーヴルの体が燃える。
だが次の瞬間、邪神竜へと変化する。
『準備! 心の準備させて! 死ぬかと思った!』
「生きているだろうが」
『いやまあ……そーっすけど!』
鬼神の一体が、拳を振り上げると、ヴィーヴルに一撃を放ってくる。
「ヴィーヴル、1時の方向にブレス」
『むりぃいいいいいいいいい!』
「そうか。じゃあ死ぬだけだ」
『ああもう! やるよ! やってやるよぉおおおおおおおお!』
ヴィーヴルが体をのけぞらし、強烈なブレスを放つ。
鬼神の拳が弾かれてバランスを崩し、そのまま倒れる。
「貴様は俺が死なせない」
『ギルマス……♡ やだ……かっこいい……♡』
「馬車が居なくなると不便だからだな」
『ギルマスてめええええええええ!』
イーライもルーナも、そしてミードも、恐れている様子はない。
「勝つぞ」
「「「はい!」」」
★
ギルドマスター・アクト達が七獄で戦闘を繰り広げる一方。
四天王の一人ジャキは、北壁を攻め入ろうとしていた。
「さーって。サクッと北壁、とりかえしちゃおーっと。ま、らくしょーだよね~」
だがそこには、極東の勇者パーティが、待ち構えていると知らず……。
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