87.悪徳ギルドマスター、奈落の奥へ向かう
悪徳ギルドマスター・アクトと勇者ローレンス。
彼らは勇者の財宝を手に入れるため、最難関ダンジョン七獄へとやってきた。
七獄への扉を開けた瞬間、凄まじい熱波が襲った。
「カハッ……! はぁ……はぁ……し、死んだ? 自分、死んだ……?」
「生きてるわよ、ヴィーヴル」
人間状態に戻ったヴィーヴルが、仰向けに倒れている。
「る、ルーナさん……自分、どーなったんすか?」
「七獄の熱波をもろに受けて、体のほとんどが溶けてしまったのよ」
「そ、そうだった……じゃ、じゃあどうして自分生きてるんすか?」
「ギルマスのおかげですよ」
魔法使いイーライが、杖を構えたまま言う。
彼が張っている結界のおかげで、勇者達は熱波の中でも平然としていられた。
「ヴィーヴルさんが消滅しかけたその瞬間に、固有時間加速を使って、あなたの細胞を採取したんです」
「その細胞を元に、アタシが蘇生させたって訳」
細胞のひとかけらから完全に肉体を修復させたルーナの腕は異常であった。
だがそれ以上に、危険を顧みず、熱波の中に飛び込んでいったアクトの度胸もまた異常だった。
「ギルマス……自分のために、身をなげうってでも助けてくれるなんて……」
「勘違いするな。貴様がいなくなると移動の際に不便になるからな」
「ぐしゅん……うれしい……」
涙ぐむヴィーヴル。
だがウルガーは、ため息をついて言う。
「君、もうちょっと怒って良いんじゃないかい? ギルマスがちゃんと止めていれば、死にかけずにすんだのだよ?」
「はっ! そー言えばそーっすよ! ひでーっすよギルマスぅ~!」
「俺の忠告を聞かない、貴様が悪い」
アクトはヴィーヴルが扉に触れる前に、止めておけと引き留めていた。
それを無視して扉を開けたのはヴィーヴルである。
「で、でもぉ~……」
「まあまあヴィーヴル! 君は今生きている! それでいいではないか!」
ローレンスがヴィーヴルの肩を叩く。
「ボサッとするな。さっさと行くぞ」
「ふぇーい……ちょっとくらい体を気遣ってくれてもいいのに……はぁん……」
しょぼくれた表情で、後ろからヴィーヴルがついて行く。
「ま、落ち込むなよヴィーヴル」
テイマーのミードが、彼女の肩をぽんぽんと叩く。
「ギルマス、ああ見えておまえが目を覚ますまで、ずっと心配そうにしてたんだぜ。うなされるおまえのために、手を握ってさ」
そういえば……とヴィーヴルは思い出す。
誰かに優しく握られている夢を見た気がした。
「なんだ……なぁーんだ! えへへっ♡ ギルマスぅ~……自分のこと心配しててくれたんすねぇ~♡」
ぺちんぺちん、とヴィーヴルがアクトの頭を叩く。
「ヴィーヴル」
「なんすかー♡」
「目の前にマグマがある。跳ばないと溶けるぞ」
「え?」
ジュッ……!
「ふんぎゃぁあああああああああ!」
ゴロゴロゴロゴロ! とヴィーヴルが地面を転がる。
ルーナが瞬時に回復してくれた。
「もっと! 早く! 言ってくださいっすよ!」
「ここが死地であることを忘れて、お気楽ムードな貴様が悪い」
「そ、それは……そうっすけど……」
マグマを踏んだというのに、火傷程度で済んでいるのは、ひとえにイーライの防御魔法のおかげだ。
「てか、ここ……やばいっすね。完全に火山の中っす……」
そこかしこにマグマだまりが存在する。
呼吸するだけで、熱気で肺がヤケそうになるほどだ。
そもそも邪神竜・第二形態のヴィーヴルを消し飛ばすほどの熱波が常時発生している時点で……このダンジョンの環境がいかに過酷かが推し量れる。
「こんな過酷な環境下なら、生き物なんているわけねーっすよね! ましてやモンスターなんているわけないっすよね!」
そのときだった。
「ミード。二時の方向。5射」
スッ……とアクトがマグマを指さす。
「りょーかいっ!」
ミードは弓を手に持って、魔法矢を番える。
一度の射撃で5つの矢が飛ぶ。
それは、ちょうどマグマから顔を出した【なにか】の眉間を見事に穿った。
「ひぃいい! なんすかぁあれぇええ!?」
「【溶岩蜥蜴】。溶岩にすむトカゲ型のモンスターだ」
巨大なトカゲは、そのままマグマの中に沈んでいった。
「この熱さのマグマの中、へーぜんと泳いでたっすよねさっきのトカゲ……」
「超耐性の鱗を持っているからな。これくらいでは溶けん」
「じゃ、じゃあなんでミードさんの矢はささったすか?」
するとミードが、感心したように言う。
「さすがギルマスだぜ。敵の出現タイミングだけじゃなくて、鱗のわずかな隙間を、的確に見抜いてたんだからよ!」
「はしゃぐな。ウルガー。10時の方向。【垓烈槍】」
たんっ……! とウルガーが地面を蹴り、強烈な槍の連撃を放つ。
ちょうどマグマから、無数の溶岩蜥蜴が顔を覗かした。
まさにバッチリのタイミングで、ウルガーの槍が敵を穿つ。
「ふっ……見たかね、このウルガーの華麗なる槍さばきを」
だがウルガーではなく、指示を出したアクトに、皆の注目が集まっていた。
「ギルマスが居れば不意打ちなんて全て無効! 凄すぎます!」
「やはりアクトさんは凄いな!」
「ちょっとぉお! 僕をほめなよ君たちぃいいいいいいいいい!」
その後も、アクトはローレンス達に、的確な指示を出しまくった。
敵の不意打ちは全て失敗。
相手の弱点は瞬時に見抜き、適切な人員を用いて敵を倒す。
「す、すげえ……アクトさんを中心に、勇者パーティが、まるで一個体のように機能しているっす……」
「やはりアクトさんが居ると、とても戦いやすいぞ! ずっとおれのパーティにいて欲しいくらいだ!」
ローレンスがにこやかに笑いながら、身の丈の10倍以上ある溶岩の巨人を、瞬殺した。
「バカを言うな。俺には俺のやるべき事がある。貴様は貴様の使命を果たせ」
「うむ! そうだな! すまない! 甘えてはいけなかったな!」
アクトの的確な指示と、ルート選択のおかげで、七獄を快調に進んでいった。
だが……。
「あ、あのぉ……アクトさん?」
「なんだ?」
「完全に、いきどまりなんすけど?」
眼前に広がるのは、果てしなく続くマグマだまり、
どう目をこらしても、向こうへ行くルートがさっぱり見当たらなかった。
「アクトさんも間違えることあるんすね」
「バカ言え。ルートはそこにある」
スッ……とアクトが、マグマの一部分を指さす。
「いやいやいや、完全にマグマっすよ」
「あそこに飛び込め」
「「「応!」」」
「いやいやいやいや! すとっぷすとぉおおおおおっぷぅうう!」
ヴィーヴルが止めるまもなく、勇者達は、アクトが指さしたマグマ地帯へダイブした。
「なにやってるんすかぁあああ! 魔王倒す前に勇者パーティ全滅しちゃったじゃないっすかぁあああああああ!」
「貴様も飛び込め」
「いやっすいやっっす! ぜぇえええったい飛び込まないっすからね!」
邪神竜の姿になって、飛び上がる。
『さよならっす! じゅわっち!』
「逃げるな」
アクトは固有時間操作の能力を発動。
ヴィーヴルが空中でびくん! と硬直する。
『いやぁああああああああ! マグマだいぶぅううううううううううう!』
ヴィーヴルは頭から、マグマにどぽんと堕ちていった。
アクトはため息をついて、飛び上がり、その場へと飛び込む。
本来なら一瞬で消し炭になるところ……しかし、アクトはそのまま【別の場所】へと転移する。
『ふぎゃっ!』
無様に地面に転がるヴィーヴルの頭の上に、アクトは着地する。
そこは、マグマのない、地下空間だった。
『じ、自分……生きてるっす? なんで?』
「転移魔法陣がマグマの中に偽装されて設置されていたのだ」
アクトはヴィーヴルの頭の上から降りる。
勇者パーティは、五体満足だった。
「すごいですギルマス! とても高度な幻術で偽装されていた魔法陣を見抜くなんて!」
イーライがキラキラした目を、アクトに向ける。
残りのパーティメンバー達も、アクトに尊敬と信頼のまなざしを向けていた。
「飛び込む前に……ちゃんと説明してくださいっすよぉおおおおおおおおおおお!」
ヴィーヴルだけが、涙を流しながら、そう叫ぶのだった。
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