86.悪徳ギルドマスター、大迷宮を勇者達と潜る
俺は準備を整え、勇者ローレンスと仲間達とともに、遠征へと出発した。
目的は、いにしえの勇者が残した財宝の回収だ。
俺たちがいるのは、この世界の北端に当たる無人島。
その奥にある山の麓に、目当てのダンジョンの入り口があった。
「うむ! ここが【七獄】か!」
ローレンスが目を輝かせながら、入り口を見やる。
「七獄ってなんすか?」
人間の姿になったヴィーヴルが、俺に問うてくる。
「この世界には、人間が一度立ち入ったら最後、生きて帰っては来れないと言われている危険指定されたダンジョンが七つある。それを【七獄】という」
「い、生きては帰れないぃいいいいいいいい!?」
目を剥いてヴィーヴルが叫ぶ。
「き、聞いてないっすよそんな危ない場所にいくなんてぇえええ!」
「言ったらバッくれるだろうが貴様」
「当たり前っすよぉお! こんなところにいられるか! 自分は帰るっすよぉ!」
邪竜の姿になって逃げようとする。
俺は固有時間を停止させて、動きを止める。
「ああ! ひどい! 鬼! 悪魔! 悪徳ギルドマスター!」
「もたついてないでさっさと行くぞ」
「「「おー!」」」
「いやぁあああああああ! 帰るぅうううううう!」
泣きべそをかくヴィーヴルを縄で縛って引っ張りながら、俺たちは七獄の奥へと進む。
「七獄! どんな猛者が待っているのだろうか! 楽しみだ!」
「うちちょっとお腹空いたわ」
「あ、サンドイッチありますよ~」
「やれやれ、君たち遠足じゃあないんだから、もっと緊張感をもちなよ」
七獄の中を、ローレンス達は実にリラックスした表情で進んでいく。
「みんななにそんなのほほーんとしてるんすか! 入ったら最後、生きては帰れないんすよぉ!」
「ま、大丈夫だよ。ギルマスがいるしね」
「うむ! ギルマスの目があれば大丈夫だな!」
ウルガーとローレンスの言葉に、みんながうなずく。
「なにを根拠にそんなこといってるんすかぁ!」
「アクトさんには最強の鑑定眼がありますからね」
「そうよ。皆が無事に行って帰れる道を、ちゃんと案内してくれるわ」
魔法使いイーライと回復術士ルーナが、にこやかに言う。
「た、確かに……この人が無駄死にするような場所に、ローレンスさんたちを送り込むとは思えないっす……良かったぁ……生きて帰れるぅ~……」
七獄のなかを歩いて行く。
「思ったより、普通のダンジョンって感じっすね」
むき出しの地面、岩の壁と、ヴィーヴルの言うとおりオーソドックスなダンジョンの構造をしている。
「それにしては……敵の姿が見えないっすね」
「当然だ。ここの魔物は、怯えてみな姿を隠している」
「はえ? どーゆーことっすか?」
「みなローレンスたちに萎縮しているのだろう」
「な、なるほど……勇者パーティは化け物集団っすからね。皆命が惜しいわけだ」
長く下り坂が続く。
その間、一度もモンスターとエンカウントしなかった。
「なーんだ、アクトさんが脅すから、どんなもんかと思ったっすけど、大したことねーっすね!」
「そうか」
ややあって、俺たちは行き止まりへとたどり着いた。
「な、なんすか……これ……?」
行き止まりとは言う物の、道を塞がれているわけではない。
俺たちの眼下には、巨大な大穴があいている。
「こ、これ……前にアクトさんと一緒に超越者さんのところへ行ったときに見た穴よりも……でかいっすね」
「そうだな。それに、ここは重力場も発生しているようだ」
「じゅーりょくば?」
俺は足下にあった石を手に取って、穴に向かって、軽く放り投げる。
穴の上に到達した瞬間、凄まじい勢いで下へと落下した。
「このように、強力な重力が発生しているため、この穴に落ちた物は凄まじい勢いで落下し、一瞬で地面にたたきつけられる」
「ほ、ほー……な、なるほどぉ~……で? この後どうするんすか?」
じー、と勇者たちが、ヴィーヴルを見つめる。
「ま、まさか……?」
「よし、みな、ヴィーヴルの背中に乗れ」
「いやぁあああああああ! やっぱりぃいいいいいいいいいい!」
洞窟を引き返そうとするヴィーヴル。
「ああん! また固有時間停止されたぁあああああああ!」
俺の目で動けなくし、ヴィーヴルの足を掴んで、穴へと放り投げる。
「ほぎゃぁあああああああ!」
あっという間にヴィーヴルが見えなくなる。
だが次の瞬間、邪竜となったヴィーヴルが、翼を広げて、穴の下から顔を出す。
『死んだらどうするんすかぁあああ!?』
「よし、みなヴィーヴルの背中に乗れ」
「「「おう!」」」
『聞いてるっすかてめぇええええええ!』
「うるさい黙れ」
邪竜の背に乗った勇者達。
ルーナが重力場でも動けるように、結界の膜で俺たちを包みこむ。
『自分がパワーアップしていなかったら、今頃一瞬でたたきつけられてぺちゃこんでしたよ!』
「まあまあ、生きてるんですから、よかったじゃないですか」
イーライが慰める物の、ヴィーヴルはブツブツと文句を言っていた。
邪竜はゆっくりと、穴の下へと降りていく。
「ふと気になったのだがね」
槍を体に抱いて座るウルガーが、俺に尋ねる。
「いにしえの勇者は、なんでこんなへんぴな場所に財宝を隠したのかね? 悪用を恐れているのなら、処分すればよいだろうに」
「いずれまた悪が蔓延ったときのために、後世の人間に対抗手段として残したのだろうな」
「だからってこんな場所に隠さなくてもね」
「悪側に勇者の財宝が渡ってみろ? それこそ、人類側はお仕舞いだろうが」
「言われてみればそうだね。なるほど、さすがギルマス」
地の底へたどり着くまでに、丸一日かかった。
『ふぃー……疲れたっすぅ~……』
「ご苦労! ヴィーヴル!」
「お疲れ様です、ヴィーヴルさん」
ローレンスとイーライが邪竜をねぎらう。
『それで、ここが終点すか?』
そのときだった。
暗闇の奥で、何かがうごめく。
それは巨大な竜の姿となって、俺たちの元へと出現した。
「む! ヴィーヴルが、もう一体!」
姿形は、邪竜化したヴィーヴルとうり二つだった。
「ちょうどいい。貴様、ヤツを倒してみろ」
『ええー! ちょ、こき使わせすぎじゃないっすかー!?』
「いいから。さっさとしろ」
『ふぇーん……ひでーっすぅ……』
影邪竜の前に、ヴィーヴルが立つ。
「その魔物はどうやら、相手の姿と力を模倣する魔物のようだ。ヴィーヴル、力を解放しろ」
『わ、わかったっす……うー……はぁ!』
その直後、ヴィーヴルの姿が変化する。
サイズは一回り小柄になった。
だが、体に内包する魔力は、何千倍にも上昇している。
「おお! すごいな! それが修行の成果か!」
『そーっす! 超越者のもとで修行して手に入れた……邪神竜ヴィーヴル、第二形態!』
2体の邪竜が相対する。
影の邪竜が凄まじい速さで、巨腕を振るう。
ヴィーヴルは真正面からそれを受ける。
『ふ……びくとも、しねーっすよ!』
逆にヴィーヴルは殴り返す。
影の邪竜は、鱗を粉砕され、風に吹かれた木の葉のように飛んでいく。
壁に激突すると、そのまま煙となって消滅した。
「す、すごいですヴィーヴルさん! ワンパンですよ!」
『お、おお……じ、自分強くなってる……思ったよりも!』
ぱぁ……! と顔を輝かせてヴィーヴルが叫ぶ。
『やっふー! なぁんだ自分めっちゃつよいじゃーん! 恐れることなんてなかったすよー! わっはっはー!』
「うむ! すごいな! 強かったぞヴィーヴル! みな、拍手!」
ぱちぱち……と勇者達が手をたたく。
『やーどーもどーも! すみませんっすねぇ、皆さん。自分がラスボス倒しちゃってぇ~』
「何を言ってるのだ貴様」
『はえ?』
俺は奥を指さす。
「ここからが、七獄だ」
最奥には、巨大な門があった。
硬く扉は閉ざされている。
『ま、まあ! 今の自分なら、何が来ようとどんとこいっすよ!』
俺たちは扉の前までやってくる。
「で、どうするのだねギルマス?」
「おれが破壊するか!」
「必要ない。これを使う」
俺は懐から、1つの鍵を取り出す。
『それって、超越者の天羽さんからもらった、鍵っすよね』
「ああ。これを使えば封印は解ける」
俺は扉の前へとやってくる。
鍵を前に差し出し、横に回す。
がちゃんっ、と大きな鍵の外れる音がした。
「鍵は開いた」
『うっし、じゃあ自分が扉あけるっす!』
「待て。やめておけ」
『だいじょうぶっすよ! この重たそうな扉だって、今の自分なら楽々に開けられるッすぅ~』
ヴィーヴルが巨大な扉に手をかける。
ぐいっ、と押す。
『ほーららくしょ………………』
その瞬間。
凄まじい熱波が、扉の奥から吹き荒れた。
『ふぁ……!?』
熱波をもろに受けたヴィーヴルの巨大な体は、一瞬で蒸発したのだった。
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