85.悪徳ギルドマスター、勇者パーティに依頼する
ある日、俺のギルド【天与の原石】にて。
俺は彼らを呼び出していた。
「アクトさん! 来たぞー!」
ギルマスの部屋にやってきたのは、黄金の髪をたなびかせる大男、勇者ローレンス。
「急に呼び立ててすまないな」
「なんのなんの! アクトさんの頼みならば、星の反対側にいても1秒で駆けつけるぞ!」
すると、そこへ集団が転移してくる。
「おいおいローレンス。仲間である僕らを置いて先に行くんじゃあないよ」
銀の長い髪を持つ槍使いウルガーが、やれやれとため息をつく。
ウルガーを始めとしたローレンス勇者パーティ。
「……いや、集団で転移させるって、ヤバいわねほんと」
極東の勇者パーティ火加美たちが、俺の部屋にやってくる。
「さてギルマス。僕らを呼び立てて何のご用かい? こうみえて僕らは忙しく、頼みを聞いている時間はないのだよ。ま、どーしてもいうなら考えてもいいがねっ」
「うわ~……この人めっちゃウキウキっすよ」
「素直じゃないのよこいつ」
ヴィーヴルとルーナが、呆れたように言う。
「呼んだのは他でもない。貴様らに一つ、依頼したいのだ」
「「「依頼?」」」
俺はフレデリカを見やる。
彼女はローレンス達に地図を配った。
「貴様ら、【いにしえの勇者】は知っているか?」
「確か……大昔にいた、最強の魔王ヴェノムザードを倒したっていう、すごい勇者ですよね」
「ああ。その勇者が残したという財宝が眠る場所を、先日突き止めてな。貴様らにはそれの回収を願いたい」
ローレンスは力強くうなずく。
「わかった! よしいくぞ!」
「待ちなよローレンス。今僕らは魔王国に攻め入っている途中なんだぜ? のんきにお宝探しなんてしてる暇はないよ?」
ウルガーの言うことはもっともだった。
「だが! ギルマスがやれというのだ。なにか深い考えがあってのことだろう!」
なるほど……と全員がうなずく。
「財宝があるのはその地図に示したダンジョンの中だ。貴様らの任務は、そこまで俺を送り届けること」
「「「!!」」」
全員が、目を剥く。
「アクトさんも、ついてきてくれるのか!」
「ああ。宝物庫までのルートは複雑に入り組んでいるからな。俺の目が必要になるだろう……どうした?」
「「「やったー!」」」
ローレンスたちが、笑顔で両手を挙げている。
「アクトさんとパーティが組めるぞ!」
「うれしいです!」
「ギルマスと冒険できるなんて夢みたい!」
「おいおいおい子供みたいにはしゃいでるんじゃあないよ! まったく子供みたいじゃないか。子供かね君たちは!」
「はしゃいでるあんたも十分子供っすけどね」
ややあって。
「ローレンス達が勇者の宝物庫へ行っている間、火加美、貴様に北壁の守りを任せる」
極東の勇者・火加美は、不安げな目を俺に向ける。
「大丈夫なの? 言っとくけど、アタシたちローレンス達と比べたら弱いわ。もし、勇者不在を狙って敵が攻めてきたらどうするの……?」
この女は以前と比べて、傲慢さがなりを潜めている。
ローレンス達の強さを見て、自信を失っているのだろう。
慢心はよくないが、自信がなくなりすぎるのもまた問題だ。
「やれやれ。期待外れだな」
「なっ、なによ、期待外れって」
「以前の貴様なら、魔族から街を守るくらいどうって事ないと答えたはずだが……どうやらローレンスに負けて腑抜けてしまったようだな」
「ち、ちがうわよ……!」
「もういい。貴様には頼まん。フレデリカ、ロゼリア達冒険者を呼べ。彼女たちに任せる」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
火加美が身を乗り出して言う。
「北壁は、魔王討伐部隊の最前線よ。その守りを、冒険者ごときに任せるっていうの!」
「ああ。貴様は自信がないのだろう? 安心しろ。ロゼリア達は強い。少なくとも、貴様よりな」
ギリ……と歯がみする火加美。
「わ、わかったわ! やる! やってやるわよ!」
両腕を組んで、ふんぞり返って火加美が言う。
「ローレンス達があんたとのんきに遠足している最中、北壁の守りは、この火加美様と極東勇者パーティが担当するわ!」
「そうか。期待してるぞ」
「ふんっ! いくわよあんたたち!」
火加美は残りの極東勇者達を引き連れて、部屋から出て行った。
「詳細は後日連絡する。貴様ら、準備は整えておけ」
「「「はい!」」」
ローレンスたちは転移して、北壁へと帰っていった。
俺とフレデリカだけが、部屋に残される。。
「さすがですね、マスター」
黙ってみていたフレデリカが、微笑みながら、俺の前にコーヒーカップを置く。
「ローレンス達と火加美達。1つの作戦で、ふた組の勇者パーティを育てようとするなんて」
俺はカップを手に持って、コーヒーを啜る。
「勇者の財宝のなかには、かつて彼らが使っていた伝説の武器がある。それはローレンスたちが魔王を倒すのに役に立つ。だから、彼らに依頼を出したのですよね」
「勘違いするな。俺は、勇者の財宝が欲しいだけだ」
「火加美は最近力をつけていましたが、どこか自分の力に懐疑的な様子。そこでこの作戦で自信をつけさせようという狙いですよね?」
「勘違いするな。単に割ける人員がいないだけだ」
「おや、ロゼリア達Sランクパーティの予定を空けていたのは、このためではなかったのですか?」
くすくす、とフレデリカが笑う。
……まったく、めざとい女だ。
「さぁさぁマスター。なにかわたくしに言うことがあるのでは?」
彼女がうきうきした表情をする。
犬の耳としっぽをぶんぶんと振っていた。
まったくこの犬は。
「駄犬。この街と、そしてカナヲを守れ」
フレデリカが真面目な顔で、俺の目をジッと見てくる。
そして俺の前で膝をつく。
「かしこまりました、マスター。つまりは、【そういうこと】と、判断してよいのですね?」
「ああ、そういうことだ」
「承知しました。このフレデリカ、マスターからの依頼、完璧にこなして見せましょう」
立ち上がって、駄犬が尻尾をブンブンと揺らす。
「このツーと言えばカー、お互いにわかっていますよ感が、たまりませんね」
「何を言ってる貴様?」
「マスターの理解者はわたくしだけ……ふっ、悪くないですこのポジション」
「バカなこと言ってないで、用が済んだらさっさと出て行け」
「ええ。町長とコンタクトを取って、街の警護計画を練っておきます」
では、とフレデリカは頭を下げて出て行くのだった。
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