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82.悪徳ギルドマスター、駄犬を連れ帰る



 俺は超越者から鍵をもらった後、本来の目的である、駄犬フレデリカの回収に向かう。


 超越者・天羽あもうの指さした先にあったのは、建物の裏口だった。


 屋敷を出て、しばらく歩いて行く。


 すると、ダンジョンの一角へとたどり着いた。


「…………」


 そこには氷の世界が広がっていた。

 四方を分厚い氷で包まれている。


 そこかしこには、ダンジョンの魔物が、氷漬けになっていた。


「……やれやれだ」


 部屋の最奥には、氷の柱があって、そこからフレデリカの気配を感じる。


 恐らくは、あの女が発した冷気によって、ダンジョンも、そこに住まう魔物も氷漬けになったのだろう。


『何しに来たのですか……?』


 フレデリカの声が聞こえてくる。

 やはり、あの氷の柱の中にいるようだ。


「帰るぞ」

『いやです』


「何を拗ねている、貴様は?」

『ふんだ。わたくしのことより、勇者様のほうが大事なのでしょうっ。いつまでも放置してっ』


 どうやら構ってやらなかったことを、相当腹に据えかねているらしいな。


『帰りたいのならお一人で帰ってください。わたくしは帰る気は絶対にありませんので』


 まったく、面倒な女だ。


『言っておきますが、この部屋の中には入らないことをおすすめします。周りの凍っている魔物を見ればわかるでしょう? 踏み込めばマスターとて氷漬けです』


 俺は一歩、足を踏み入れる。

 その瞬間、靴底が凍り付く。

 無理矢理引き剥がして、先に進む。


 俺は真っ直ぐに女の元を目指す。

 冷気が肌と目を凍らせようとしてくる。

 

 だが俺は止まらない。

 やがて、俺はフレデリカの前までやってくる。


『……なぜ、帰らなかったのですか? 氷漬けになると忠告を受けたのに?』


「貴様を連れて帰らない理由には、ならん」


 俺は氷の柱に手を触れる。

 その瞬間、柱が粉々に砕け散る。


 メイド服を着た、人間の姿のフレデリカが、俺の前に跪く。


「さすがマスター。わたくしが、マスターを傷つける気がなかったことを、見抜いておられたのですね」


 神狼フェンリルは氷を自在に操れる。

 俺に敵意を向けていないことは、鑑定眼を使わずともわかった。


 ようするに、こいつは俺を試していたのだ。

 自らが傷付くリスクを負ってまでも、自分を連れて帰る気があるのかと。


「うれしいです。マスター。わたくしのこと、そこまで大事にしてくださっているんですね」


 犬の耳としっぽが生えて、ぶんぶんと振る。


「そこまで熱烈にわたくしを求められては、仕方ありませんね。帰ってあげますよっ」


 機嫌を直したらしい犬が、しっぽを振りながら、俺の腕に抱きつく。


「帰るぞ」

「はいっ♡」


 俺はフレデリカを伴って、超越者の屋敷へと戻る。


「おや? フレデリカ。もう機嫌は直ったのかい?」


 天羽が寝そべりながら、俺たちを見やる。

「ええ。マスターってば、わたくしがいないと寂しくって仕方ないから、帰ってきてくれてーと泣きついてきてですね。ふふっ♡ 仕方ないな~♡」


「そんなことは、一言も言ってない」


 つんつん、とフレデリカが俺の頬をつつく。


「照れちゃって~♡」

「無駄な時間をとらせよって。まったく……」


 ちら、と部屋の端っこを見やる。


「うきゅ~……」


 ヴィーヴルのヤツが、目をまわして倒れている。


「天羽、こいつに何をした?」

「潜在能力を引き上げた後、力の使い方を、すこーしレクチャーしただけだよ」


「何が少しっすかー!」


 がばっ! とヴィーヴルが立ち上がって、俺の後ろに回る。


「アクトさん! こいつヤバい! あなた以上にスパルタっすよぉ!」


 涙を流しながら、天羽を指さして叫ぶ。


「そうかい? 屋敷の中を異界化して、ほんの10000年くらい修行つけただけじゃないか」


「一万年って! 気が狂うかと思ったっすよぉお!」


 そのおかげだろうか。ヴィーヴルはかなりレベルアップしている様子だった。


「悪いな、手間取らせて」

「なに、構わないよ。君の弟子は僕の弟子のようなものだ」


 天羽は微笑む。


「ヴィーヴル君。君、いい才能もってるね。さすがアクト君が見いだした原石だけある。どうだい、僕のもとで本格的に修行しない?」


「い~~~~~~~~やっ!」


 ヴィーヴルが俺に抱きついて言う。


「アクトさんのほうが1万倍ましっす!」


「そうかい。残念だ」


 俺はヴィーヴルとフレデリカを連れて、天羽を見やる。


「ではな」

「ああ。頑張ってね」


 きびすを返して、部屋を出て行く。


「フレデリカ」

「……なんです?」


 天羽は、実に嬉しそうに目をほそめて言う。


「よかったね。優しいご主人様に仕えられて」


 フレデリカは、元マスターであるやつをみて、鼻を鳴らす。


「……ふん。あなたに言われずとも、マスターは世界一、世界最高に優しい、素晴らしいお人ですよ」


 こうして、俺は駄犬を回収し、地上へと戻ったのだった。

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