81.悪徳ギルドマスター、超越者から鍵をもらう
俺は地下深くにすむ、超越者の元へとやってきていた。
「あの方が、アクトさんの師匠なんすか?」
「そうだよ、邪神竜ちゃん。ぼくは天羽。よろしくね♡」
本の山の上に寝そべりながら、天羽が楽しそうに言う。
外見は10代前半くらい。
髪の毛が足に付くくらいに伸びているせいで、男なのか女なのか判然としない。
着ているのが白いワンピースということもあって、余計に性別不詳にさせていた。
「な、なんで自分のこと知っているんすか……?」
「そりゃあぼくが超越者だからだよ。ぼくは何でも知っているからね♡」
ヴィーヴルは天羽に、完全に萎縮している様子だった。
「駄犬はどこだ?」
「いやいやアクト君。10年ぶりに再会したんだから、もっと話していこうよ」
「どうせ、貴様は俺の活動を、駄犬を通してみていたんだろ?」
「あれ? なんだ気づいてたんだ。さすがだね」
神狼フレデリカは、元々この超越者が従える魔物だった。
それを俺が譲り受けたのだ。
魔力の供給をこいつからフレデリカが受けていることは知っていた。
魔力経路を通して、こちらの様子を観察していたのだろう。
「いやぁそれにしてもアクト君、10年で立派になった物だね。ゼロからギルドを立ち上げ、今はS級2位。しかも魔王討伐に最も近いローレンスパーティを輩出したということで、全世界が君に注目している。ほんと、素晴らしい。ぼくも師匠として鼻が高いよ」
「話が長い」
俺はため息をついて言う。
「良いじゃないか。ぼくは暇してたんだ。おしゃべりに少しくらいつきあってくれよ」
「無駄話に付き合う暇はない」
「つれないなぁ。今なら特別大サービス! 魔王の倒し方、おしえちゃうよ~」
「なっ!? ま、マジっすか!?」
ヴィーヴルが天羽の提案に食いつく。
「知ってるんすか!?」
「もちろん。言ったろ? ぼくは何でも知っているって」
「あ、アクトさん……おしえてもらいましょーっすよ!」
だが俺は首を振って言う。
「必要ない」
「ええー!? な、なんで……?」
「こいつに聞かずとも、ローレンスたちは魔王を倒す」
俺は天羽の目を真っ直ぐに見て言う。
スッ……と彼の目が俺と合う。
「君は、ローレンス達を、自分の部下達を信頼しているんだね。魔王を打ち倒すと」
「当然だ。そのために、俺が鍛えてやったのだ」
しばしの静寂があった。
天羽は嬉しそうに笑う。
「やはり君は素晴らしいよ、アクト君」
「へ? ど、どーゆーことっすか?」
「天羽は端っから、魔王の倒し方なんぞ教える気はない。偽の情報を与えようとしていたのだ」
「え、ええー!? な、なんでー!」
目を剥くヴィーヴルに、にこりと笑って天羽が答える。
「だって、その方が面白いでしょ?」
「おもしろいって……」
超越者は俺たちを見下ろす。
「ぼくはね、暇なんだ。長い間、ずっと地下に閉じこもっていて、娯楽に飢えているのだよ。人類が魔王と戦う姿は実にいい暇つぶしになる」
「偽情報掴まされるこちらの身にもなってくださいっすよぉ~……」
「まあまあ。アクト君のおかげで、偽を掴まされることなかったんだから。ヴィーヴル君、彼に感謝しないとダメだよ」
パチン、と超越者が指を鳴らす。
背後の扉が、音を立てながら開いた。
「フレデリカはその部屋の奥だ。引き留めて悪かったね」
「ああ」
俺はヴィーヴルとともに、天羽の隣を通り抜ける。
「アクト君」
ひゅっ……と彼が俺に、何かを投げつける。
受け取って、手のひらを開くと……そこには1本の鍵があった。
「鍵? なんの鍵っすかこれ……?」
「魔王を倒すヒントだよ。上手く使いな」
俺は天羽を見やる。
「ヒントはくれんのではなかったのか?」
「他者に縋らず、己の目と、部下の力を信じて前を進む君を……純粋に応援したくなったのさ」
どうやら悪意はないらしい。
「受け取っておく」
「そりゃよかった。あ、そうだヴィーヴル君。ちょっとおいでおいで」
天羽が彼女を手招きする。
「な、なんすか……?」
「フレデリカはアクト君以外に会おうとしないだろう。待っている間ひまでしょ? 君の潜在能力を引き上げてあげるよ」
「え、ええー……あんた、こわいから、近寄りたくないんすけど……」
「あ、そう。でも君、パーティメンバー最弱だし、このままじゃ戦死しちゃうけど?」
「是非引き上げてくださいおねがいしまっす!」
邪神竜は天羽に任せ、俺は犬を捕りに行くのだった。
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