78.勇者パーティ、勇者パーティを育成する
俺は北壁へとやってきていた。
訓練所にて。
極東勇者パーティたちを鍛えるべく、ローレンス達も集めて話す。
「これより修行を開始する」
「修行! 心が躍るな! またアクトさんに修行つけて貰えるなんて! 感激だー!」
金髪の大男ローレンスが、笑顔で言う。
「勘違いするな。俺が直接指導するわけじゃない」
「はぁ? どういうことよ」
極東の勇者・火賀美が、首をかしげていう。
「ローレンス、おまえたちが、火賀美たちに指導を行うのだ」
「ぬ! よくわからないぞ!」
俺は勇者達に羊皮紙を配る。
・ローレンス、ウルガー→火賀美
・水月、ミード→木の勇者
・イーライ→土の勇者
・ルーナ→光の勇者
「この勇者パーティの一番槍ことウルガーが、火賀美を教えろということかね、ギルマス?」
「そうだ。極東勇者たちの適正な武器や指導方針は俺が考える。だが訓練方法はローレンス、貴様らが考えろ」
俺の言葉を、しかしイマイチ、ローレンス達は理解してない様子だった。
「ギルマスぅ、そんなことして僕らにメリットはあるのかい? 僕らだって暇じゃあないんだけどね」
「なんだ、他人に物を教える自信がないのか?」
「むかっ! そういうわけじゃないよ!」
「なら言われたとおりにしろ」
「ふんっ! いいとも、このウルガー、他人に技術を教えることくらい、造作もないよ!」
残りの面子も了承したようだ。
俺はうなずいて言う。
「よし、訓練を開始するぞ」
★
数日が経過した。
ローレンスたちはおのおの分担して、極東勇者達を指導している。
「あのー、アクト様」
「なんだ、ヴィーヴル?」
邪神竜ヴィーヴルが、人間の姿をして、俺の後ろに立っている。
「これに何か意味があるんすか?」
「ある。いずれローレンスたちも気付くだろう」
俺はまず、火賀美を指導しているウルガーとローレンスの元へ行く。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
火賀美が木刀を手に、その場で膝を突いていた。
「む! どうした火賀美!」
「ちょっと……休ませなさいよぉ!」
彼女が声を荒らげるものの、ローレンスは首をかしげる。
「まだ9999回しか素振りをしてないぞ!」
「いや素振り1億回とか、日が暮れるわ!」
「む! 修行前の軽いウォームアップに、そんなに時間をかけてもらっちゃ困るぞ!」
「ざっけんじゃないわよぉ! 1億回が準備運動とか頭おかしいんじゃないのぉ!」
やれやれ、とウルガーがため息をつく。
「ローレンス。彼女の言うとおりだよ。初心者に素振り1億回は厳しすぎるよ君ぃ」
「よ、良かった……あんたはまともそうね……」
「最初は10万回くらいだろ?」
「あんたもかぁああああああああ!」
え? とウルガーが目を丸くする。
「素振り10万回もおかしいから! なによ、常識人かと思ったら、あんたも化け物じゃない!」
「そ、そんな……僕は、常識人だと思っていたのに……いつの間に……毒されていたというのか!?」
その様子を、俺は遠巻きに見やる。
「順調のようだな」
「あれのどこがっすか?」
「次、様子を見に行くぞ」
「ええー……」
次は木の勇者の元へ行く。
水の勇者・水月と、テイマーのミードが、彼を指導する。
「【木蓮】殿は中衛、つまり拙者と同じ前衛と後衛を、状況に応じて使い分ける、いわばオールラウンダーでござるな」
「中衛はよ、常に戦闘の状況を把握してないといけねえわけよ。ここまではわかったか?」
ミード達の説明に、木蓮がうなずく。
「戦況把握の訓練だ。まずは、これをつけな」
ミードが木蓮に手渡したのは、目隠しの布だった。
目をそれで覆う。
「よし、あたいらが攻撃するから、それを避けるんだぞ」
「はぁ!? ちょっ……無理無理無理!」
「できる! できるでござるよ! うぉおお!」
水月が木蓮に斬りかかる。
「ちょっ!? 無理だって! やめてって! うぎゃああああ!」
見えない状況下で木蓮が、水月から斬りかかられる。
「ほらほら、敵はひとりだけじゃねーぞ。魔物だって襲ってくるんだからよ!」
ミードが指笛をふくと、低級モンスターが集まってきて、木蓮に攻撃している。
「ちょっとストップストップすとぉおおおおおおっぷ!」
ふたりが攻撃を止める。
「どうしたでござる?」
「死ぬわ! こんなもん!」
声を荒らげる木蓮に、はて……? とふたりが首をかしげる。
「こんな準備運動くらいじゃ死なないでござるよー」
「大げさだなーあんた」
「はぁ!? じゃあやってみろよ!」
「いいでござるよ」
水月は目隠しをする。
ミードがモンスターたちに襲わせようとする。
「よいしょっと、でござる」
「す、すげえ……モンスターの攻撃を全部避けてやがる……見えてないはずなのに……」
「心の眼で見るでござるよ! さぁ、訓練を開始するでござる!」
俺はミード達を見てうなずく。
「順調だな」
「まじっすか。リンチしているようにしか見えないんすけど……」
「次へ行くぞ」
「へーい……」
イーライとルーナが、光と土の勇者を指導している。
「安心して。あたしたち、ローレンス達と違って、最初からあんな難易度高い修行させないから」
「「よ、良かった……」」
ホッとする光の勇者【日光】と土の勇者【土門】。
「後衛職は剣より杖を装備したほうが、魔力が効率的に使える、ってのはギルマスから聞いたわよね」
「でも、魔力総量が低いとそもそも意味がありません。そこでまずは、魔力量を増やすところから始めましょう」
勇者達が安堵の表情を浮かべる。
「良かったね土門、この人達はまともそうだよ」
「ああ、日光。おれたち後衛で良かったよ」
イーライは杖を振る。
すると地面が隆起し、巨大な岩の壁が出現する。
もう一度杖を振ると、頭上から滝のように水が噴出。
「はい、ではふたりとも、服を脱いで滝に打たれてください」
「「はぁあああああああああ!?」」
にこりと笑ってイーライが言う。
「魔力操作は使えますね。それで体を防御しながら滝に打たれてください。そうすれば、魔力量、体力、同時に鍛えることができるんですよ」
「な、なるほど……」「ちなみに、どれくらい?」
「そうですね……」
うーん、とイーライが可愛らしく首をかしげていう。
「まあ初日ですし、軽めに10時間くらいでしょうか」
「「無理無理無理無理!」」
「そうよイーライ。初心者にそれは辛いわよ」
「「ルーナさんッ!」」
「ま、8時間くらいが妥当じゃない?」
「「ルーナさん!?」」
結局、滝に打たれる土門と日光。
俺はうなずいて言う。
「良い感じだな」
「修行という名のパワハラにしか見えねーんすけど……」
全員の修行の進捗度合いを確認しおえて、俺はその場を後にする。
「あのー……マジでこれ意味あるんすかね」
「ああ。わかるときが必ず来る」
「ほんとかなー」
「なんだ、貴様もやるか、修行?」
「全力で謹んでお断りするっす!」
★
後日、北壁郊外にて。
「せやぁああああああああ!」
2本の刀を持った火の勇者・火賀美が、10000の斬撃を放つ。
荒れ狂う炎の刃は、周囲にいた魔族の眷属たちを蹴散らす。
そこへ魔族が襲いかかってくるが、木の勇者・木蓮がすかさずにカバーに入る。
魔杖剣を手にした木蓮は、剣で相手の攻撃を捌きながら、捕縛魔法で相手の動きを止める。
光の勇者・日光と、土の勇者・土門が、そこへすかさず魔法を放つ。
「【天裂迅雷剣】!」
「【大地砕竜顎】」
雷、土の極大魔法を、無詠唱で放つ。
天より巨大な雷の剣が出現し、敵に当たると放電を起こす。
大地に巨大な割れ目が出現し、敵を地の底へと落下させると、また大地が元通りになる。
「まあまあだな!」「まあまあだね」「まあまあですね」「まあまあね」
その様子を、ローレンス達は後方で、腕を組みながら見ていた。
「いやいやいやいや……」
ヴィーヴルは青い顔をして首を振る。
「なんなんすか、極東の人たちも化け物になってないっすか!?」
「む! あれくらいはできて当然だろう!」
「いやいやいやいや……」
疲れ切った様子で、ヴィーヴルが首を振る。
「アクトさん、さすがだな!」
「なんだ、急に?」
ローレンスは笑顔で言う。
「おれたちを鍛えるために、あえて、修行をおれたちに任せたのだろう!」
「え、どーゆーことっすか?」
ひとり理解してないヴィーヴルに、イーライが説明する。
「他人に教えることで、今まで習ってきたことのおさらいができましたし、曖昧だった部分が、言語化することでハッキリするようになったんです」
「つまり、他人に教えることもまた、アタシたちの成長にも繋がっていたってわけ」
「僕たちの技量もまた、洗練され、さらに上の段階になれたのさ」
なるほど……とヴィーヴルが感心したようにつぶやく。
「やはりギルマスは最高の指導者だ! すごすぎるぞ!」
「おやおや、しかしギルマスは、もう僕らを鍛えないんじゃあなかったのかい~?」
ウルガーがニヤニヤ笑いながら言う。
「勘違いするな。俺は直接指導するのが面倒だったから、貴様らに役割を押しつけただけだ」
だが全員が笑顔で、うなずいている。
「素直じゃないねーギルマスは」
「そんなところも、素敵ですアクトさん!」
俺は勇者たちの目を見やる。大丈夫そうだな。
「ふん。後は貴様らに任せるぞ。ヴィーヴル、街まで送れ」
「へーい……もう完全に馬車なんすけど……とほほ……」
かくして俺は彼らに後のことを任せて、ホームタウンへと戻るのだった。
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