76. 追放勇者ともう一つの勇者パーティ7
ローレンス勇者パーティと、極東勇者パーティの試合が執り行われることになった。
場所は、北壁郊外の森の中。
『ルールは簡単だ。4対4で、先にチーム全員を気絶させた方の勝ち。ギブアップも可だ』
極東勇者パーティが4人に対して、ローレンスたちは6人。
数が少ない方に人数を合わせたのだ。
ちなみにウルガーとルーナは不参加である。
「ふん! あんたたちなんかいなくても、あたし一人で相手4人ボコボコにしてやるわよ」
森の中、極東チームにて。
火賀美は余裕の笑みを浮かべながら言う。
彼女が持っているのは、アクトから支給された通信用の魔道具だ。
『今のうちにギブアップをおすすめするぞ』
「ハッ! だーれがギブアップなんてするもんですか! それはあの金髪大男に言っときなさいよね」
『そうか。では……始める』
試合が開始される。
「まずは相手の位置を探るわよ」
「心得ました、火賀美様」
木の勇者が、自分の刀を抜いて、地面に突き刺す。
彼は植物に魔力を流し自在に操る力を持つ。
「ここは森の中。木の勇者のテリトリーってわけ。相手の位置なんて手に取るようにわかるってもんよ」
「そ、それが……火賀美さま。相手の姿が見えません」
「なっ……!? う、嘘をつくんじゃあないわよ! ちゃんと探しなさいよ無能!」
「す、すみません……ですが、この森の中にはどこにも」
と、そのときだった。
「おれは! ここにいるぞー!」
凄まじい大声が森の中に響き渡る。
木々が揺れ、鳥や獣たちが逃げていった。
「なに!? なんなの!? きゃぁあああああああ!」
激しい突風が吹いて、火加美達が上空へと放り出される。
木々は根こそぎ引っこ抜かれ、地面もめくれ上がっている。
彼女たちは空中でどうすることもできず、ただ荒れ狂う風に翻弄された。
やがて風がやみ、火賀美達が落下する。
「ぐえふっ……!」
顔面から倒れた火賀美は、鼻を押さえながら周囲を見渡して絶句した。
「なんだ、これは……?」「まるで台風が通り過ぎた後のようだ……」
木々がなくなり、広範囲にわたって更地となっていた。
「うむ! 見つけたぞ!」
長い金髪を揺らしながら、大男がやってくる。
「なんだったのよ、さっきの魔法は……?」
「む! 魔法? なんだそれは! おれはここに居るから来てくれと、よびかけただけだぞ!」
仲間達は青い顔をして、大男をみやる。
「そんな……魔法じゃないなんて」「ただの発声で大地を揺らし、森の木々を引っこ抜いただと?」「化け物だ……本物の化け物だ……」
黄金の勇者の登場に、火賀美は臨戦態勢を取る。
だが……残りの勇者たちは、先ほどの攻撃でふらついていた。
「だらしない! アタシを守りなさいよばかっ! 役立たず!」
「む! 仲間を罵倒するのは、よくないぞ!」
「黙れ!」
火賀美は腰の刀を抜いて構える。
一方で男は両手をだらりと下げて直立していた。
「構えなさいよ!」
「婦女子に刃を向けるのは、おれの流儀に反する!」
「舐めやがって……後悔しても遅いんだからね!」
火賀美が魔力を身体の中で燃やすと、ボッ……と刃が炎を上げる。
「うむ! 来い!」
「せやぁああああああああ!」
炎の推進力を用いて、火賀美は男めがけて突撃する。
凄まじい熱量に刃が真っ赤に染まっていた。
「【爆炎刃】!」
男の頸動脈めがけて、斜めに刀を振る。
インパクトの瞬間、激しい爆発が起きる。
「ひゃはは! まだまだ、【蒼炎煌刃】」
刃が今度は、青く輝く。
超高温のプラズマへと変わり、そのまま一気に体を切りつける。
胴体を斜めに一閃した形になる。
「ひ、火賀美様! やりすぎです!」
「これは模擬戦、殺すのは目的ではないですよ!」
「アタシを舐め腐った罰よぉおお! ひゃーっはっはっはぁ!」
火賀美は勝ちを確信した。
「これが! 最強の火の勇者の力よぉ!」
「うむ! すごいな! 感動したぞ!」
彼女は体を硬直させる。
「あ、アタシの空耳かしら……あの男の、声がしたような……」
「うむ! おれは、ここにいるぞ!」
爆炎が晴れると、そこにいたのは……無傷の金髪の大男だった。
「「「なっ!? なにぃいいいいいいいいいいいいいいい!?」」」
火賀美を始めとして、極東勇者パーティは、皆腰を抜かす。
「あ、あ、あり得ないわ! あんた、胴体を真っ二つにされたのよ!?」
「ああ! 素晴らしい斬撃だったな!」
「いやだから、なんで生きてるのよ!」
「む! おれは生きてるぞ!」
話がまるでかみ合っていなかった。
「くっそ、この! もう一撃!」
火賀美は炎の刀を用いて、ローレンスの胴体を薙ぐ。
刃が肉を焼き、完全に断ち切る。
だが、次の瞬間、バチン! と上半身と下半身がくっついたのだ。
「ふぁ!?」
「なるほど、一瞬で相手を炭化させるほどの高温の炎! それが切れ味の正体か! すごいな!」
「「「いやいやいやいやいや!」」」
ガタガタ……と勇者達が体を震わせながら言う。
「あ、あなた治癒魔法でも使っているのですか?」
「む! 違うぞ!」
「で、ではどうやって……ちぎれた上半身と下半身をつなげたのですか? 回復術士は今回参加してないはず?」
「それは、気合いだ!」
意味がわからなかった。
「気合い……そうか。魔力で自然治癒力を常に活性化させているのか」
「いや、即死レベルの攻撃を治すなんて、自然治癒を超えてるだろ……」
「なんなんだ、なにものだこいつ……?」
残りの勇者達が震え上がる中、ローレンスは堂々と名乗る。
「おれはローレンス! 勇者ローレンスだ!」
そう、火賀美達が戦っていたのは、ちまたでウワサの、四天王を撃破したという超勇者だったのだ。
「ひ、火賀美様! やめましょう!」
「相手は超勇者ですよ!? 北壁をぶっ壊したって言うあの!?」
火賀美は戦慄しながら、目の前の男を見やる。
「む! どうした!」
声だけで森を消し飛ばし、胴体を切断しても生きている。
なるほど……まさに勇者を超越した勇者にふさわしい。
「だ、だ、だから……だからなんだっていうのよ! あ、アタシはひ、火の勇者! 最強の剣士なのよぉ!」
圧倒的な力の差を見せつけられても、ただひとり彼女だけは逃げなかった。
それは彼女が、高い自尊心を持っていたからだ。
「この火賀美、人前でおめおめと逃げるような女ではないのよ!」
「うむ! よい心意気だな! 偉い!」
「せやぁあああああ!」
蒼く煌めく刃で、連撃を放つ。
光の速さで動くそれは、一瞬で何百という斬撃となった。
「【煌刃蒼蓮花】!」
プラズマの刃で放つ、超高速の斬撃。
だがその攻撃を全て、ローレンスは避けた。
しかも足を止めて、上半身をひねる動きだけでだ。
「なんて動体視力だ……!」「人間を超えている……!」「も、物の怪だぁ!」
最後の一撃の瞬間、ローレンスはプラズマの刃を手で掴む。
「なっ!?」
「ぬぅん!」
刃を掴んで握りしめると、そのまま刃を砕いて見せたのだ。
「うそ……でしょ……絶対切断の、プラズマの刃を……素手で壊すなんて……」
しかも彼の手には傷一つついていなかった。
「おかしいわよ……あんた……」
「む! それはつまり、おれが弱すぎるってことか!」
「強すぎるって意味よ、バカぁあああああああああああ!」
その場にへたり込み、声を荒らげる火賀美。
「勝敗は決したようだな! おれの勝ちだ!」
すると上空から、巨大な漆黒の竜が降りてくる。
「ひぎいぃいいい!」「じゃ、邪竜だ! 邪竜だぁあああああ!」「おたすけぇええええええええ!」
震え上がる勇者達の前で、ヴィーヴルが人間の姿へと戻る。
「終わりっすか? あっけなかったすね」
「あ、あ、あ……」
ヴィーヴルの背からおりたのは、水月と魔法使いのイーライ。
「あ、あんた……こんな、化け物たちと……パーティを組んでたの……水月……?」
「やめるでござる、火賀美殿」
水月は静かな殺気を込めて、火賀美をにらみつける。
「拙者の最高の仲間達に、化け物なんて酷い言い方はよしてもらおうか」
「く、こ、このぉ……! 偉そうに……!」
殴りかかりたいが、しかし完全に腰が抜けてしまい、ぷるぷると震えるしかない。
「そこまでにしておけ」
アクトが森の中からこちらに向かって歩いてくる。
「これでわかったな。彼我の実力差が」
「わ、わかったのはこのローレンスがバカみたいに強いって事だけじゃない!」
「果たして、そうかな?」
イーライは持っていた杖を振る。
一瞬で、消し飛んだ森が、元通りになった。
「ふぅー……。え? どうしました?」
「「「「…………」」」」
極東勇者達は、ローレンス勇者パーティのメンバーが、みな同じレベルで化け物であると悟った。
「さて、格付けが終わったようだな。火賀美」
「な、なによ……」
「まだ、やるか?」
反発しようとするも、しかし、見せつけられた超勇者のパワーと、魔法使いの圧倒的な魔法力、そして邪神竜。
全てにおいて、自分たちを遙かに凌駕するローレンス勇者パーティを前に……。
「……降参、降参よ! アタシたちの……負けよ……! くそ! ちくしょおおおおおおおおおお!」
【※読者の皆様へ】
「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますと幸いです!