74.追放勇者ともう一つの勇者パーティ5
一方で、極東勇者パーティはと言うと……。
「くそくそくそくそぉおおお!」
魔王国の森にて、身を潜めている。
彼らは大けがを負って、治療している最中だった。
「なんで急に勝てなくなったのよぉお!」
魔王国に意気揚々と乗り込んでから今日まで、1度も魔族相手に、勝てたことはなかった。
連敗が続き、新人水の勇者にけなされたこともあって、リーダーである火賀美のいらだちは最高潮になっていた。
「火賀美さま……もう明確です」
「水月が、中衛がいなくなったからでございます」
火賀美は水の勇者に指摘されたにもかかわらず、態度をあらためなかった。
敵が現れたら、後を気にせず特攻をかます。
連携もあった物じゃない。
そのせいで、自分の補助を担当する彼らはダメージを負う。
火賀美はサポートを失って自滅する。
その繰り返しだった。
「グッ……! この……!」
憤りをあらわにした火賀美は、光の勇者達に当たり散らす。
「じゃあなに!? 水月を追い出したあたしの判断が間違ってたって非難したいわけ!? 手下のくせに! 駒の分際で調子のんなクズ!」
仲間を口汚く罵り、蹴飛ばしながらも……しかし火賀美が一番理解していた。
水月がいたからこそ、自分は思う存分暴れることができたのだと。
「ひ、火賀美さま……どうか気をお鎮めください……」
「くそっ!」
悪態をついて、火賀美はガリガリと、いらだちげに頭をかく。
「これから、どうすればいいのよ……」
「とにかく中衛が必要です。本国に戻って、新たな水の勇者を連れてくるのは?」
「ダメに決まってるじゃない! すでに一人補充して出てきてるのよ? また一人いなくなったから帰ってきた? そんなの恥ずかしくってできるわけないじゃない!」
それに水月の有用性をまた、物語る結果になる。
本国に自分が、判断をミスした愚か者と思われたくなかった。
「では、水月殿を探しますか?」
「それも嫌」
「火賀美様、意地を張らずに……」
「張ってないわよ! くそっ! まあいいわ。人員が足りないのは事実だし、補充する」
火賀美は光の勇者から地図をもらい、広げる。
「今、北壁は人間側の領土になっているからね。そこへ行って人を集めましょ」
指し示した街には、ローレンス勇者パーティ達が逗留していることを、彼女たちは知らない。
★
極東勇者パーティが、北壁を目指すと決めてから数日後。
ローレンス達は北壁の街にてとどまり、訓練をしていた。
「おはようございます、ウルガーさん」
「おお、イーライ、おはよう」
宿屋を出たウルガーは、イーライとともに、訓練所へと向かう。
「ちゃんと朝練に参加して、偉いですね!」
「ふっ……僕もそろそろパーティのサブリーダーとしての自覚が出てきたということだよ君ぃ」
ウルガーたちが訓練所へと到着すると、すでに2人が素振りしていた。
「「999999999998、999999999999、1000000000000!」」
ローレンスと水月が、尋常じゃないスピードで、木刀を素振りしている。
ふたりは上半身裸で、滝のような汗を流している。
水月は大きな胸にさらしを巻いていた。
「よし! 素振り終わり! いい太刀筋だぞ! 水月!」
「ありがとう! ローレンス殿! 相変わらず美しい剣筋でござった! お見事です!」
「いや! 君の方が凄いぞ!」
「いいえ! あなたのほうが!」
「「わははははは!」」
意気投合する剣士ふたりに、ウルガーがため息をつく。
「朝から素振り1兆回って……冗談じゃなかったのだね」
「む! おはようウルガー! イーライ!」
「おふたりとも早いでござるな!」
ニカッ、と輝く笑顔を浮かべるローレンス達。
「おはよ。水月、君ちょっと怪物に毒されてないかい?」
「毒される? いえ! 大変参考になっているでござる! ローレンス殿は……拙者の目標です!」
「うれしい! うれしいぞ水月! よぅし、素振りだ!」
「はい!」
また超高速の素振りを始めるローレンス達。
「おふたり良い雰囲気ですね」
「くっ……! どうしてヤツばかりがモテるのだね! 僕のファンは!? どこにいるのだよ!」
「ぼく、ウルガーさんのこと好きですし、尊敬してますよっ」
「うう……ありがとうイーライ。ああどうして君は女の子じゃないのだよぉ~……」
当初、少女のごとき可憐なイーライを、女だと見間違えていたウルガー。
だがさすがにこれだけ長い時間生活を共にすれば、彼の性別が男であることくらいはわかった。
「おふぁよ~……」
「ルーナさん、ミードさんに、ヴィーヴルさんも、おはようございます!」
眠そうに、女子チームがやってくる。
「「999999999998、999999999999、1兆ぉお!」」
「まーたあいつらバカやってるわね」
「このパーティに入ると、みんな化け物になるっすね」
「ふっ……まともなのは僕くらいか」
「「「「…………」」」」
「何か言いたまえよ君たちぃ!」
ややあって。
朝練を終えたローレンス達は、拠点である宿屋へと戻る。
食堂へと向かう。
「おばちゃん! おはよう!」
「おやおや、ローレンスちゃん、おはよう」
ローレンス達はすっかり、有名人になっていた。
道行く人たちは皆彼らに感謝と尊敬の念を抱いている。
だが気取らず接するローレンスたちに、街の人たちはさらに好感を抱いているのだ。
「米をくれ! 100kgくらい!」
「店に迷惑だろうがローレンス! まったく、すまないねレディ」
「はは! いいんだよぉ、ローレンスちゃんたちはあたいらを救ってくれた英雄様だからね! 山盛りで用意するよ!」
「感謝する! おばちゃん!」
「常識の範囲内でね」
やれやれ、とウルガーがため息をつく。 残りの面子もおのおの、料理を注文する。
テーブルに着き、料理を待つ一行。
おばちゃんが朝食を運んできて言う。
「ところで水月ちゃん」
「なんでござるか?」
食堂のおばちゃんが言う。
「さっき水月ちゃん探している人たちがいたわよ」
「拙者を? 誰であろうか?」
はて、と首をかしげる。
「元のパーティメンバーではないのかね?」
「まさか、あり得ないのでござる」
「そうかね? 今頃君がいなくてさぞ困っていることだろう。君は優秀なのだからね。代わりなんていないだろうし」
「う、ウルガー殿。やめてほしいでござる~。照れるでござる~」
と、そのときだった。
「水月……!」
食堂の入り口に、赤い髪をした女勇者がたっていた。
「火賀美、殿……?」
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