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73.追放勇者ともう一つの勇者パーティ4



 一方で、ローレンス勇者パーティはというと。


 魔王国北東の高原にて、戦闘態勢に入っていた。


「みなさん、相手は闇狼シャドウ・ウルフという魔族の眷属です」


 魔法使いイーライは、目を閉じて言う。

 彼の持つ千里眼の魔法を使い、これから邂逅する敵を遠隔で見ているのだ。


「強さで言えば下級魔族程度、SSランクモンスターくらいです。ですが問題は、闇狼はボスを倒さない限り無限に湧き出てくることです」


「なるほど……よし! 誰か意見を出してくれ!」


 ローレンスが仲間達を見渡していう。


「え……!?」


 新入りの魔法騎士・水月すいげつは、それを見て驚く。


「む! どうした! 水月!」

「あ、いえ……なんでもござらん……」


 リーダーたる勇者が、仲間達に意見を集う。それは、元いたパーティでは考えられない光景だったので、驚いたのだ。


「闇狼の親玉を見つけて殺すしかないんじゃあないかね?」


「けど厄介なことに、ボスはそのほかの眷属と全く同じ姿をしているんです」


「なるほどなぁ……身を守るすべなのか。じゃ、こんな作戦はどう?」


 みなが積極的に意見を出し合っている。

 水月はその姿を見て、感心していた。


「よし! では作戦通りに!」

「「「おう!」」」


 ややあって。


 闇狼の一団が、ローレンス達の前に現れた。


「ではいきます! 【煉獄業火球ノヴァ・ストライク】!」


 イーライが極大魔法を、無詠唱で放つ。


 はげしい爆風とともに、闇狼たちが木っ端微塵に吹き飛ぶ。


「さぁ戦端は開かれた! このウルガーのショータイムさ!」


 たんっ……! とウルガーが先行して走って行く。


 流麗な槍さばきで、イーライがうち漏らした狼たちの心臓を、的確にえぐっていく。

「す、すごい……あの人ひとりで、極東勇者パーティ並の火力があるなんて……」


「あいつばかだけどやるときはやる男だからよ。みんな頼りにしてるのさ」


 ミードが弓で攻撃しながら笑う。


 一方でローレンスは腰を落として、鞘に手を当てて目を閉じている。


 みんなが戦っている中、彼は一体何をしているのだろうか……?


「水月! そっちにいったぞ!」

「え? あっ……!」


 ボサッとしていたら、闇狼がウルガー達をすり抜けて、後衛がいるこちらに抜けてきた。


「くっ……!」


 盾で1匹弾いたものの、その闇狼が分裂。

 水月の腕にかみつく。


「あっ……!」


 その隙に数体の闇狼がすり抜けて、後衛のイーライ達に襲いかかる。


「おふたりとも、逃げて!」


 そのときだった。


「まったく、仕方ないね!」


 たんっ……! とイーライ達の前に、ウルガーが一瞬で跳んでくる。


 ウルガーが槍を一閃させると、闇狼の群れが霧散する。


「も、申し訳ないでござる! ウルガー殿の手を煩わせてしまい……」


 極東勇者パーティ時代、足を引っ張ると、烈火のごとく火賀美(ひがみ)に叱られた。


「ふっ。構わないさ。後輩のしりぬぐいも、先輩たるこの僕の仕事だからね」


 しかしウルガーは咎めることはなく、肩をたたく。


「さぁ、もう少しだ。踏ん張りたまえ!」

「はい!」


 ウルガーは戦線を少し下げ、後衛の近くで戦う。

 水月のフォローに回っていた。


 前衛は闇狼を切って捨てるが、しかし敵はそのたびに分裂する。


「くっ! きりがないでござる!」

「まあ焦るんじゃあないよ。僕らの仕事は時間稼ぎさ」


 ウルガーにも、そしてほかのメンバーたちにも余裕があった。


 それは、リーダーであるローレンスへの絶対的な信頼感があるからだ。


「た、倒せるのでござるか?」

「あたりまえだろ。彼を誰だと思っているんだい?」


 カッ、とローレンスが目を見開く。


「総員退避!」

『自分の出番っすね!』


 ヴィーヴルが邪神竜の姿へと変化し、ウルガーたちはその背中に乗る。


 竜が凄まじい速さで退避する一方で、一人残ったローレンスに、闇狼の群れが集まって来る。


「【黄道斬空波】!」


 裂ぱくの気合と共に、ローレンスが高速で剣を振る。

 その瞬間、頭上に空間の裂け目が出現する。


 無数に存在してた闇狼たちが、その裂け目へと吸い込まれていく。


「あ、あれは……いったい何なのでござる?」

「空間を切り割いて、別の場所へと強制的に相手を送っているんです」


 魔法使いのイーライが解説する。


「別の場所とは?」

「太陽ですね」

「は!? た、た、太陽!?」


 吸い込まれていった闇狼たちは、はるか彼方に存在する太陽へと放り出され、全員がその身を日輪の炎で焼かれて死亡した。


「あの空のかなたにある太陽まで、空間を切って繋げたのでござるか……桁外れでござる」


 水月は剣士だからこそ、ローレンスの放った絶技の凄さを誰よりも実感する。


 勇者ローレンス。

 人は彼を、勇者を超越した勇者、【超勇者】と呼ぶ。

 その呼称に偽りない、まさに超人ともいえる剣士だった。


「みんな、ありがとう!」


 ローレンスは大剣をしまうと、ニカッと仲間達に笑って言う。


「みんなで勝ち取った勝利だ! 感謝する!」


 水月は、何度目かの驚愕の表情を浮かべる。

 大活躍した本人が、アシストであるパーティメンバーたちに謝意を伝えていたからだ。


 極東勇者パーティ時代、火賀美は敵を倒しても、仲間達にねぎらいの言葉一つかけたことがなかった。


「おつかれさまです、ローレンスさん!」

「あいかわらずやべー剣技だったなぁすげえわ」


 ローレンスをたたえる一方で……。


「おいおいローレンス、なんだね先程の剣は。ための時間が長すぎるんじゃあないかい? 周りの負担が大きくなる」


 ウルガーがダメ出しをする。

 とどめを刺した勇者に意見なんて、火賀美のパーティではありえないことだった。極刑にも等しいことだった。


「む! やはりそうか! すまない!」


 ローレンスはあっさりと非を認めて、頭を深く下げる。


「どうすれば短くなるかね?」

「練習あるのみ! 素振り1兆回とか!」


「根性論じゃなくてね君……イーライ、何か打開策はあるかい?」

「アクトさんの使っている、固有時間加速を参考にして、短縮できないか模索してみます」


「そうか! ありがとうイーライ! やはり頼りになるな!」

「おいおい僕もだろう?」

「うむ! おれはウルガーも頼りにしてるぞ!」


 水月はローレンス達を見て、元のパーティとはまるで違うことに戸惑う。


「水月、腕、大丈夫?」


 回復術士のルーナが近づいてきて、一瞬でケガを治す。


「も、問題ないでござる。かたじけない」

「ケガは治したけど、呪いとか毒とかあるかもだし、詳しく調べないとね」

「だ、大丈夫でござるよ! そこまでしなくっても」


 するとローレンスがクワッと目を見開く。


「なに! 水月が呪いを受けたのか! 大変だ!」

「い、いや……あの」


 あわあわ、とローレンスが慌てる。


「水月さん大丈夫ですか!?」「すぐに街戻らねーと!」『すぐに運ぶっす!』


 邪神竜の背中にのせられ、急いで町へと戻る。

 

「気を確かに! ルーナは解呪の腕も一流だからな!」

「いや、あの、ほんと大丈夫でござるよ……」


「まあまあ水月。素人判断はよくねーよ。ちゃんと調べてもらえって」

「しかし、手間では?」


「まさか! キミは大事な仲間なんだ! 失いたくない、そのためなら手間なんておしまないさ!」


 パーティたちがみなうなずく。

 仲間として、大事にしてくれることが……うれしくて涙を流す。


「む! どうした水月! 腹でも痛いのか!」

「い、いえ……違うのでござる。これは、うれしくって……」


 水月は思う。

 元いた場所を抜けて、本当に良かったと。

 この勇者の仲間になれたことを、心から喜ぶ。


 そして、ローレンスを紹介してくれた、あのギルドマスターに、最大級の感謝をささげる。


「ありがとう、アクト殿……」

【※読者の皆様へ】


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[一言] あれ?なんだかウルガーが真人間に見えるぞ
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