72.追放勇者ともう一つの勇者パーティ3【ひがみ②】
水月脱退から、数週間後。
極東勇者パーティは、魔王国の東部に上陸していた。
リーダーである火賀美は、美男子4人を引き連れて、東部の城塞【東壁】攻略に向かっていたのだが……。
「火賀美様! 撤退しましょう!」
勇者パーティは、闇狼の襲撃を受けていた。
新しく入った水の勇者が、火賀美にそう進言する。
「はぁ! なんでよ!」
「体勢を立て直すべきです! 皆はもうボロボロです!」
水の勇者を含め、他の勇者達は、みな傷ついていた。
「チッ……! 光の勇者は何をしているのよぉ!」
「瀕死の重傷をおっています! 撤退を!」
「くそっ! なんでアタシが逃げなきゃいけないのよ……くそっ!」
だがしかし、光の勇者を失うわけにはいかず、やむをえず火賀美達は撤退。
ややあって。
「何やってるのよこのぼんくら!」
森のなか、極東勇者パーティは野営を行っている。
火賀美は光の勇者に怒鳴りつけた。
「どうしてあんな雑魚相手にやられてるのよ! こんなこと今までなかったじゃない!」
すると光の勇者は申し訳なさそうに言う。
「もとより光神流の剣は、戦闘力は低い、回復特化の剣でございます。敵に接近されるとなすすべがなく……」
「じゃあなんで今までは大丈夫だったのよ!」
「それは、水月殿がいたからです」
パーティを追放した女の名前が出て、カッとなって、光の勇者の頬を叩く。
「なに!? あの女のほうが好きっていうの!? アタシより!?」
「そういうことが言いたいのではなくてですね……水月殿は後衛のカバーリングを行ってくれていたのです」
光の勇者の言う通り、水月は前後のカバーを一人で行っていたのだ。
「じゃ、じゃああんたも水月と同じことやりなさいよ! 同じ水の勇者なんでしょ!?」
新入りに向かって声を荒らげる火賀美。
「む、無茶言わないでください……そんなことできるわけないじゃないですか」
「はぁ!? なんで!? 水月ができて、どうして同じ水の勇者であるあんたができないのよ!?」
「落ち着けリーダー」
年長者の土の勇者が、火賀美をたしなめる。
「だ、だいたい無理なんですよ。火賀美さんは後ろを無視して勝手に突っ込んでいく。そのフォローだけで手がいっぱいなのに、後衛の人たちも守るなんて、水神流の師範代でもできませんよ」
「そんな……じゃ、じゃあ……それをやってのけていた水月は、何者なのよ……?」
新しい水の勇者が加入したことで、水月のレベルの高さが浮き彫りになる形となった。
同時に、彼女の有能さを見抜けなかった、火賀美の無能さもまた、露呈したことになる。
「火賀美さん、このまま戦い方を変えないと、パーティが全滅してしまいます。前に出過ぎないでください」
火賀美は水の勇者に対してビンタする。
「うるさい! 何アタシに意見してるのよ! 新人の分際で! このパーティのリーダーである火の勇者に!?」
火賀美は声を荒らげ、水の勇者をドンと突き飛ばす。
「あんたたちはアタシの言うことにはいはいと従ってればいいのよ!」
「そんなの……仲間じゃないですよ」
「うるさい! アタシに意見するような駒は、出て行ってもらっても構わないのよ!?」
火賀美は、脅すつもりで言った。
こういえば、パーティを出て行きたくないと、泣いて縋りついてくると思っていたからだ。
しかし、水の勇者はスッ……と冷めた表情になる。
「わかりました。出て行きます」
「なっ!?」
予想外の反応に火賀美は戸惑う。
「さようなら」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! どうしてそうなるのよ!」
「ぼくは、こんな最低のパーティで、やっていけません」
「最低のパーティですって!?」
水の勇者は蔑んだ表情を浮かべてそう言い放つ。
「駒ってなんですか。ぼくらは共に戦う仲間でしょ? こんな、独裁者とイエスマンばかりのくそパーティが、極東の未来を担っていると思うと反吐が出ますよ」
きびすを返して、水の勇者が出て行こうとする。
「ま、待ちなさいよ! どこいくのよ!?」
「別に、あなたに関係ないでしょ」
「あ、あんたがいなくなったら、このパーティは、極東の未来はどうなるのよ!?」
「ローレンスってすごい勇者が、何とかしてくれるでしょ」
ローレンス勇者パーティ。北壁の四天王を撃破したという、尋常ならざるものたちの集まりだと聞く。
「あんたみたいな無能が頑張らずとも、彼がきっと魔王を倒します」
「~~~~~~! ああそう! わかったわ出て行きなさいよ!」
何度も馬鹿にされて、火賀美は水の勇者追放を決意したのだ。
「さよなら、最低最悪の勇者さん。予言してあげますよ、あなたたちは近い将来、ひどい目にあうってね」
水の勇者は振り返ることなく、火賀美たちを残して去っていった。
「ま、まずいですよ火賀美さま」「彼を引き留めないと」
「あ!? なによ! あんたたちまでアタシに意見するつもり!?」
残りの勇者たちは青い顔をして首を振る。
彼らは火賀美の不興を買い、勇者パーティのメンバーとしての地位を失うわけにはいかず、結果保守的な態度をとってしまうのだ。
「認めない、アタシは認めないわよ! 水月は無能の剣士なんだ。だからアタシが追放したことは、間違いじゃないんだから!」
……しかし水の勇者の予言は、見事に的中することになる。
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