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71.追放勇者ともう一つの勇者パーティ2


 ギルドマスター・アクトは、魔族国にて、復興支援をしていた。


 そのとき、森で魔族に襲われていた水の女勇者【水月すいげつ】を発見。


 彼女を保護し、北壁へと戻ってきた。


 宿屋の一室にて。


「アクト殿、此度は拙者の命を救ってくださり、感謝申し上げる」


 水月はベッドの上で正座し、深々と頭を下げる。


 彼女は深い藍色の髪を、ポニーテールにした、まさに女武士といった凜としたたたずまいをしている。


 だが、その美しい顔には、陰りが見えた。

「貴様は極東の勇者だな。あんなところで何をしていた?」


 水月はアクトに、包み隠さず事情を告げる。


「そうか。見る目のない連中だな」

「……いえ、致し方ないことでござる。拙者には、勇者として、剣士として……致命的な欠点がござったから」


 火の勇者【火加美ひがみ】から指摘されたこと。


 それは……人が斬れないこと。


「なぜ斬れない?」

「血が……怖いのでござる。幼い頃、母が、拙者の目の前で魔物に食われたことがあったのでござる」


 外出時に魔物に襲われた。

 母は自分を庇って、魔物に食われた。


「そのときの血のにおい、ぬるりとした感触……怖くて、仕方ないのでござる」


 それがトラウマとなって、敵を斬った際に出る血を、極度に恐れるようになった。


 恐怖を克服しようと鍛錬に打ち込んだ。

 人が斬れずとも役に立てるよう、様々な技術を覚えた。


「しかし……無駄でござった。結局、敵を斬らねば平和は訪れぬ。拙者は……勇者失格だった。拙者の積み上げてきた時間は、意味のないことだったのでござる……」


 自分のふがいなさに、水月は涙を流す。


「そんなことはない」

「え……?」


 水月は顔を上げる。

 アクトと名乗った青年は、真っ直ぐに彼女を見てくる。


 左目は、潰れてしまい、包帯と呪符でグルグル巻きになっている。


 だが残る右目は、彼女を蔑むことはなく、ただ彼女の目を見てくる。


「貴様のやってきたことは無駄ではない」

「しかし……拙者は役立たずで……」


「貴様を追い出した無能どもがそう言っていただけだろうが」


「む、無能……?」


「ああ。貴様の真の価値に気づけぬ、大馬鹿者だ」


 アクトは水月の右手を取る。


「この手を見ればわかる。貴様が、自らの欠点を補うために、血のにじむような努力をしてきたことくらいな」


「あ……」


 じわり……と涙が目に溜まる。

 今まで、自分の努力を認めてくれた人は、誰も居なかった。


『水神流の恥さらし!』

 勇者パーティから追放された後、実家にいる父からは、そう蔑まれた。


『魔物を斬れぬとか、剣士失格だなぁ!』

 他の門下生達からは、馬鹿にされた。


 誰一人として、彼女が裏で積み上げてきた努力を、理解してくれなかった。


「貴様は大したヤツだ」

「でも……拙者は、どうせ……人が斬れない……落ちこぼれの剣士でござる……」


「水月。顔を上げろ」


 アクトはハンカチを取り出し、水月の涙を拭く。


「自分を低く見積もるな。貴様は、自分が思うより、ずっとずっと有能な人材だ」


「でも……でもぉ~……みんなが、拙者を……無能だって……」


「愚者の戯言に耳を貸すな。それは貴様の心を傷つけるだけだ」


 アクトは右手を差し出す。


「水月、俺のもとへこい」

「アクト殿のもと……?」


「ああ。貴様が欲しい」


 ボッ……! と水月の頬が、朱に染まる。


「せ、せっ、拙者がほ、欲しい……? そ、それはつまり……す、す、す好きという? ぷ、ぷぷ、ぷろぽーずというやつでは……?」


 顔を真っ赤にして、いやんいやん! と首を振る水月。


 だが一方でアクトは冷静に言う。


「貴様が最後の1ピースだ。俺の思い描く、最強の勇者パーティのな」


 そう、アクトは水の勇者を、ローレンス勇者パーティの一員にしようと、ギルドにスカウトしたのだ。


 だが、水月は聞こえていない様子。


「どうする?」

「わかった……拙者、腹が決まりもうした!」


 水月は三つ指をついて、ベッドの上で、深々と頭を下げる。


「拙者、アクト殿に身も心も捧げる所存でござる!」


 かくして水月はギルド【天与の原石】の所属になったのだった。


    ★


 場所は変わって、北壁にある、訓練施設にて。


「魔法騎士、でござるか?」


「ああそうだ。貴様の水の剣は、前に出て戦うより、中衛にいて前後の守りに徹するのがあっている」


 アクトから渡されたのは、1枚の大盾だ。

 今まで剣一本で、攻撃・防御・補助に徹してきた彼女にとって、盾は未知の存在だった。


 しかし、手に持ってみると……。


「思ったより、重くないでござりますな」


「それは魔法盾だ。貴様の魔力に反応して防御結界を展開する」


「なるほど、金属じゃないから、こんなにも軽いのでござるな」


「貴様は足が速い。重い盾では機動力をそぐ。貴様は戦場を駆け、味方を守る盾役となるのだ」


 それならば、敵を切らずにすむ。

 自分の苦手分野を克服するのではなく、長所を生かすポジションチェンジであった。


「しかし……守っているだけでは、敵は倒せぬのでは?」


「バカ言え。何のために味方がいると思っているのだ?」


「味方……」


 すると、訓練施設に、ぞろぞろと、ローレンス勇者パーティが入ってきた。


「うむ! 水月すいげつ! 元気になったようだな!」


 ローレンスが笑顔で、近づいてくる。


「ケガはもう大丈夫か!」


「あ、ああ。この通りでござる」

「うむ! それはよかった! 傷も残っていないようで安心した!」



 極東の勇者は、自分のことしか考えていなかった。

 仲間を気遣うようなそぶりを、一切見せなかった。


 だが、彼は違う。

 他人を気遣う余裕があった。それは、彼が強者ゆえだろう。


 一目見て理解した。

 目の前に居る、強き魂の輝きを放つ青年の、底知れぬ強さを。


「それでアクトさん、用事とはなんだ? アクトさんの頼みなら、何でも聞くぞ!」


「この女を貴様のパーティに入れろ」


「わかった! よろしくな! 水月!」


 一切の迷いを見せず、勇者ローレンスは、アクトの言葉に従い、水月加入を認めた。


「よ、よいのでござるか……? 拙者は、得体の知らぬよそ者でござるぞ?」


「アクトさんが認めたんだ! 君はすごいヤツなのだろう!」


 ローレンスが全幅の信頼を寄せる、このギルドマスターは、一体何者だろうか……? 


「おいおいギルマスぅ。正気かい? こんなタイミングで新メンバー? 僕は反対だねっ」


 銀の長い髪をたなびかせる美丈夫、槍使いのウルガーが水月の前にやってきた。


「せっかく今のメンツで連携が取れているんだ。そこによそ者が入れば調和が崩れるのでは?」


 それに、とウルガーが水月を見やる。


「こんな可憐な少女に、盾役が務まるのかね? 大けがを負って、回復役のルーナに負担がかかったらどうする?」


 ウルガーは正論を述べていた。

 水月も同意しかけた。


「なんだウルガー。新入りに活躍を取られるのが怖いのか?」


「ち、違うよ……!」


 どうやら図星のようだった。


「僕はこんなか弱い子に、大事な仲間達の守りを任せられないと言っているのだよ!」


「心配は無用だ。水月は、こと防御にかけては一級品だ。貴様の槍すら、容易く防いでみせるぞ」


「ほ、ほほぅ……そこまでいうなら、受けてもらおうじゃあないか」


 ウルガーは手に持っていた槍を構える。


「あ、アクト殿……さすがに、ローレンス勇者パーティの一番槍殿の攻撃は、拙者防ぐ自信がないのでござる……」


 このパーティの規格外っぷりは、海を渡った自分の耳にまで届いている。


 ウルガーの強さは承知済み。

 それでも、アクトは自信たっぷりに言う。


「大丈夫だ。俺の教えたスキルを使えば、余裕でこの槍バカを倒せる」


「誰が槍バカかね!?」


 憤るウルガーに、残りのパーティメンバー達は「言い得て妙ね」とうなずく。


「し、しかし……あのスキル、教わったばかりでござるし……」


「大丈夫だ。俺を信じろ」


 力強い言葉に、勇気をもらう。

 水月はうなずき、魔法盾を構える。


「お嬢さん、そんなペラペラの盾で、わが槍を防げるかね? この槍は神意鉄オリハルコン、この世で最高硬度を誇る金属で作られた、絶対に折れぬ槍だよ」


 水月はたじろぐが、だが逃げずに、構える。


「お願いするでござる……ウルガー殿」

「ふっ……いい目だ。その覚悟、確かに受け取った。ならばこのウルガー、全力を以てお相手しよう!」


 たんっ……! とウルガーは一歩距離を取る。


 そして、槍を突き出す。


「食らえ! わが必殺の【兆烈槍】!」


 一瞬で無数の突きを繰り出す、ウルガーの奥義。


 地面をえぐり、空間すらえぐり取る、無数の槍撃を……。


 水月は見極め、盾を振る。


「【パリィ】」

 

「うぎゃぁああああああああああ!」


 ウルガーの繰り出した連撃は、水月の盾によって弾かれたのだ。


 神意鉄でできた槍は粉々に砕けちり、ウルガー本人は、きりもみ回転しながら、空中へとすっ飛んでいく。


 ぐしゃり、とウルガーは地面に激突し、気を失う。


「す、すげえっす……ウルガーさんバカだけど、2番目に強いのに……」

「ウルガーの槍をふせぐなんて……すごいじゃない!」

「えっと、みなさんウルガーさんをもっと心配してあげましょうよっ」


 魔法使いイーライが慌てて、気を失っているウルガーに、治癒魔法を施す。


「初めてにしては上出来じゃないか」


 アクトは水月の肩に手を置く。


「もの凄く……しっくり、来たでござる」


 盾による攻撃反射パリィ

 アクトが教えたのは、それだけだった。


 だが、その防御スキルは、彼女に最も適したスキルだった。

 彼はその鑑定眼を使って、彼女の適性を見抜いていたのだ。


「各種防御スキルも覚えてもらうぞ。だが基本的には、そのパリィを使って、こいつらを守ってやるんだ」


 水月はローレンス達を見やる。


「ウルガー、大丈夫か! ケガはないか!」


「心配は無用さローレンス……彼女すごいよ。僕の兆烈槍を完全に見切っていた」


 ウルガーは水月の前までやってくると、頭を下げる。


「すまなかったね、君。非礼を詫びよう。君の強さを見誤った、僕の間違いだった」


 すると残りのパーティメンバー達も頭を下げてくる。


「ごめんなさいね。このバカ、バカだから」「ウルガーばかだけど悪いやつじゃねえから許してやってくんない?」


「バカバカ言うんじゃあないよ! 失礼だろうがきみぃ!」


 水月は目を剥く。

 同じ勇者パーティでも、向こうとこちらでは、まるで雰囲気が違った。


「ここなら、やっていけるな?」


 アクトの問いに、水月は笑顔を以て答える。


「はい!」


 きっと、水月にぴったりと合ったパーティを、アクトは選んでくれたのだろう。

 それが、このローレンス勇者パーティだったのだ。


 彼らとならば、上手くやっていけると思った。


 水月は深々と頭を下げて言う。


「拙者水月と申す! 若輩者ではござるが、皆さまが安心して戦えるよう、尽力する所存でありますゆえ、なにとぞよろしくお願い申し上げる!」 

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] このパリイの使い方は流行りからパクられてパクられて背ヒレ尾ヒレついて間違って独り歩きしてる最終形態のパリイで違和感が。 parryからくるパリイじゃないならすみません [一言] ギルマ…
[気になる点] パリィは受け流す又は避けるなはずよ? 反射するのはリフレクトじゃないかな?
[気になる点] 「血が……怖いのでござる。幼い頃、母が、拙者の目の前で魔物に食われたことがあったのでござる」 ⇒『食われたことがあった』では「犬に噛まれたことがあった」みたいな軽い感じがします。 魔物…
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