70.追放勇者ともう一つの勇者パーティ1【ひがみ①】
ギルドマスター・アクトの住む国とは、また別の場所。
【極東】と呼ばれる小さな島国があった。
この国にも勇者パーティが存在する。
ただ、極東勇者パーティは少し変わっていた。
選ばれし5人の剣士で構成されている。
パーティリーダーにして火の勇者、【火賀美】は、メンバーの一人に、こう言い放った。
「【水月】。あんたクビ。パーティから出て行って」
女勇者・火賀美は、水月と呼ばれた【少女】に、そう言い放った。
「せ、拙者が……パーティを出て行く? ど、どうしてで、ござるか?」
「ハッ! 決まってるじゃない水月。あんたが雑魚だからよ。【水の勇者】水月」
極東勇者パーティは、それぞれ、木・火・土・光・水の5名の剣士で構成されている。
極東には5つの剣の流派が存在する。
勇者は代々、その五大流派の人間から選出される。
水月は水の剣【水神流】の次期当主。
「ざ、雑魚って……拙者はきちんと、みなの役に立とうと頑張っているつもりでござるが……?」
「だいいち、水神流って地味なのよね。いまいちパッとしないっていうか」
火賀美の言うとおりではあった。
五大流派には、それぞれ特徴がある。
火の勇者の剣は攻撃力に優れる。
木は捕縛などの補助に優れる。
土は防御に、光の剣は回復と。
それぞれの流派には、突出すべき何かがあった。
だが、水の剣術には、それがない。
「攻撃も防御も、何もかも中途半端じゃない」
「いや……確かに、水神流は突出した物はござらん。しかし……拙者は、皆のカバーをしていたつもりでござる」
たとえば火賀美は、単体での攻撃力に優れるが、しかし熱くなりやすく、周りが見えなくなることが多々あった。
彼女が取りこぼした敵を、水月は切ってフォローした。
火賀美以外の勇者のカバーをするのも、彼女の立派な仕事だった。
確かに前に出て戦わないから、目立った功績を残せず、結果役立たずに見えてしまうだけだった。
「拙者がいなくなったら、このパーティはバランスを欠いて崩壊するでござる」
「ハッ! 嘘も甚だしいわよ。出て行きなさいよあんた。邪魔なのよ。アタシのハーレムに、女はいらないの」
何を言ってるのだろうか……? と水月は首をかしげる。
確かに5人の勇者たちは、水月と火賀美以外は男、しかも絶世の美男子だ。
だが、そこに女の自分がいらないというのは、どういうことだろうか……?
「あんたの代わりの水神流の剣士はもう入れる当てがついてるの。あんたはもう、要らないの」
無論、新しく入る予定のメンバーも、美男子であった。
ようするに、この火賀美という女は、女一人に男4人という、ハーレムパーティを作りたかったのだ。
そこに、女である水月は邪魔だったのだ。
「第一あんた、勇者に向いてないわよ。敵を斬るとき、一瞬、躊躇するでしょ」
「そ、それは……」
「なんでか教えてあげようか? 怖いんでしょ? 自分の手で命を奪うことが。恐ろしいんでしょ?」
火賀美の指摘したとおりだった。
流麗な剣技を身につけてはいるものの、トドメを刺すことができない。
「そんな軟弱物の剣で、魔王の首を斬れるの?」
「……火賀美殿の、言うとおりでござる」
薄々、感づいていた。
自分は剣士に、魔王討伐の勇者に向いていないと。
「わかった。拙者は、パーティを去るでござる……」
こうして、極東勇者パーティのひとり、水の勇者【水月】は、パーティを後にしたのだった。
★
極東勇者パーティがいたのは、魔王国の東側、【東壁】と呼ばれる領土だった。
追放された水月は、人間の領土である北壁へと向かおうとしていた。
だが、道中で魔族たちの襲撃にあった。
夜の森にて。
「もう……終わりでござるな……」
木を背にして座り込む水月。
その周りには、魔なる物たちがいて、今まさに水月の命を取ろうとしている。
「一度で良いから、誰かに、拙者の剣を必要としてもらいたかったな……」
と、そのときだった。
「まだだ。諦めるには、まだ早い」
魔なる物たちが、ドサリ……と倒れたのだ。
「こ、これは……いったい……?」
夜の闇から現れたのは、漆黒の髪を持つ、鋭い目つきの青年だった。
左目からは出血をしている。
黄金の右目は、眼光鋭く、自分をにらんでいた。
「ケガはないか?」
「う、うむ……お、おぬしは、一体?」
「そんなことはどうでもいい。ケガをしているようだな」
彼が水月の傷を見やると、出血がピタリと止まったのだ。
「す、すごい……でござる。どういう原理で……?」
と、そのときだ。
「おーい! アクトさーん!」
夜空を翔る黄金の何かがあった。
流星かと思ったそれが、自分たちの前に着地する。
「お、黄金勇者……ローレンス殿!?」
「む! おれを知っているのか?」
「知ってるも何も……有名でござる。四天王を倒したローレンス・パーティのリーダー……」
そんな彼がどうしてここに?
と思ったが、彼らもまた、魔王討伐のために魔王国へと進攻しているのだったと、思い出す。
「ローレンス。ヴィーヴルを呼んでこい」
「了解だ!」
ダンッ! と地面を蹴ると、ローレンスは夜空をまた高速で去って行く。
ややあって。
『はいはーい、ギルマス、きたっすよー』
ずんっ……! と巨大な漆黒の竜が、彼の前に現れたのだ。
「…………」
あまりに凶悪な竜の登場に、水月は泡を吹いて気を失ってしまった。
『ありゃ、どうしたんすかね?』
「気絶してるだけだ」
彼……アクトは水月を背負うと、ヴィーヴルの背中に乗る。
「街へ運べ」
『ちぇー、自分は馬車じゃないんすけどねー』
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