07.悪徳ギルドマスター、勇者パーティから泣きつかれる
ある日の俺の部屋にて。
「ありがとうございます! アクトさん! おれ、新天地で頑張ります!」
今日もまたメンバーの一人に、新しい職を与え、追放した。
彼は何度も頭を下げて、部屋を出て行く。
「すごいですね、アクト様っ」
俺の隣に立っているのは、俺の弟子である少女ユイ。
さらさらとした金髪のショートカットに、青いつぶらな目が特徴的だ。
「こんなにたくさんの人を、今以上に幸せにするなんてっ、アクト様はとてもお優しい方ですっ。わたし、尊敬です!」
「優しい? 不当な評価はやめてもらおうか」
「いいえっ、アクト様は誰より優しいですっ。わたし……そんなアクト様が大好きですっ」
どうにも俺は彼女に優しい人と勘違いされているようだ。
ユイはまだ子供、無知なのは仕方が無い。
「ところで、アクト様に追放されず、辞めていく方っているのですか?」
俺がギルメンを追放してる現場を、隣で見学しているからか、気になったユイがそう尋ねてくる。
「ああ、自分で次の居場所を見つけて、自主的にギルド辞めてくヤツも少なからずいる」
「アクト様は、とめないんですか?」
「去る者は追わずだ。新しい場所で活躍してくれれば、巡り巡って俺の利益になるからな」
なるほど……と感心したようにユイがうなずいた、そのときだ。
きゅぅ~……、と彼女の腹が鳴る。
「す。すみません……」
「飯にするぞ」
「いいんですか?」
「ああ。空腹で頭が回らないほうが非効率的だからな」
「アクト様……やっぱり、お優しいです!」
俺はユイを連れてギルマスの部屋を出る。
屋敷に戻って飯を食おうと思ったのだが、出入り口のほうがヤケに騒がしかった。
「おお、これはギルドマスターじゃあないかぁ~?」
俺の元へやってきたのは、艶のある銀髪の男だった。
「【ウルガー】。久しぶりだな」
「どなたですか?」
「さっき言ってた、ギルドを自主的に辞めたヤツのひとりだ」
俺はウルガーを見て言う。
「何しにきた?」
「やっと引越し作業も終わったことだし、近況をみなに自慢しにきたのだよっ」
ギルドの連中が興味深そうに、俺たちの元へと集まる。
「おまえは今何してるんだ?」
「ふふん! 聞いて驚きたまえ、ボクは今、勇者パーティにいるのさ!」
おお……! とギルメン達が沸き立つ。
「勇者パーティって……各国が魔王討伐のために選出した、最強の部隊、ですよね?」
「そのっとおりぃ! ボクは選ばれし存在……エリートとなったのだよっ! 君たちと違ってねっ!」
ムッ……とギルメン達が顔をしかめる。
「ギルマスも自慢して良いですよぉ。自分の教え子が栄えある勇者パーティのメンバーに選ばれたんだからねぇ」
「そうだな」
「ボクのおかげでギルドはさらに栄華を極めることでしょう! みんな、ボクに感謝しなよ~?」
するとギルメンの一人が声を荒らげる。
「おい調子に乗るなよっ。ギルドが繁栄しているのは、アクトさんがいるからだろ!」
「そもそもはアクトさんに拾って育ててもらってなかったら、勇者パーティに入れなかったんだぞ!」
「もっとアクトさんに感謝しろよ!」
ふんっ、とウルガーが小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「感謝ぁ? どうして。ボクが勇者パーティに入れたのは、ひとえにボクのポテンシャルが凄かったからだろぉ? なぁんでギルマスに感謝なんてしないといけないのぉ?」
「この……!」「言わせておけばいい気になりやがって!」「ギルマス、なんとか言ってください!」
俺はうなずいて言う。
「ウルガーの言うとおりだな。勇者パーティに入れたのは、おまえの実力だ。俺は関係ない」
「「「なっ……!?」」」
みながなぜか、目を剥いている。
「ほぉらぁ? 聞いたかいきみたちぃ? ボクは凄いんだよぉ。君たちと違ってねぇ」
勝ち誇った笑みを浮かべて、ギルメン達を見回す。
「あー、自慢してスッキリした。じゃあね諸君! ボクはこれから勇者一行の仲間として、大・活・躍! してあげるから、こんなしけたギルドなんてさっさと卒業することだよ」
ひらひら、とウルガーは手を振りながら、出て行こうとする。
「ウルガー」
「なにかね、ギルマス? もしかして、今更もどってこいとか言うんじゃないだろうねぇ?」
「何があっても途中で投げ出すんじゃないぞ」
「はんっ! 言われずともそうするよ。アデュー!」
★
その半月後、俺の部屋にて。
「ギルマスぅううう! お願いします! ここに帰らせてくださいぃいい!」
ウルガーが俺の前で土下座する。
「もう勇者パーティはコリゴリです! お願いします! 天与の原石にもどらせてください!」
「突然どうした? 訳を話せ」
話をまとめるとこうなる。
・勇者パーティに意気揚々と参加した。
・しかし勇者達のトレーニングがあまりにきつすぎて、ついていけなかった。
「来る日も来る日も地獄のようなトレーニングの日々! ぜんっぜん勇者っぽくない! これじゃ何のためにパーティに参加したのか!」
「魔王を倒して世界を平和にするためじゃないんですか?」
「ちがうよ! チヤホヤされるために決まってるだろ!」
「うわぁ……」
ユイが引き気味に言う。
「お願いだよギルマス! ボクをまた置いてくれよ! 今思えばここは最高だった! 出て行ってようやく気づいたよ!」
俺はウルガーを見下ろしていう。
「駄目だ」
「そんなっ!? どうして!?」
「やめるのは、まだ早い。おまえはまだ勇者パーティで頑張れるはずだ」
そのときだった。
「うむ! やはりアクトさんもそう思うかっ!」
ギルマスの部屋に入ってきたのは、大柄の金髪の男。
「わぁ……! 勇者【ローレンス】様ですっ。ほんものだぁ!」
ユイが目を輝かせていう。
さすが勇者、知名度は高い。
「ひぃいいい! 出たぁああああああ!」
ウルガーは幽霊でも見たみたいに、顔を真っ青にして絶叫する。
「アクトさん、お久しぶりだなっ!」
「元気そうだな」
勇者ローレンスが俺の前までやってくると、にこりと笑う。
「勇者様はアクト様とお知り合いなのですか?」
「うむ! 知り合いも何も、おれは元ここのメンバーだぞ!」
「「え、ええええええええええ!?」」
ユイもウルガーも、目を剥いて叫ぶ。
「き、聞いてないよぉそんなことぉ……!」
「聞かれなかったからな」
ローレンスは創設当初からのメンバーだった。
俺の指導の下で実力をつけていき、勇者として出て行った次第。
「今日は何しにきたんだ?」
「パーティメンバーを連れ戻しにきたんだっ。帰るぞウルガー!」
「嫌だぁあああああああああああ!」
涙を流しながら、ウルガーが俺の足下までやってきて、すがりついてくる。
「お願いしますギルマスぅう! もうボクはこいつの地獄の訓練について行けません!」
「勇者と共に魔王を倒さなくてはならないんだ。激しいトレーニングが日々課せられるのは当然だ」
「度を超してます! もう嫌だ! ギルマス! 帰りたい、ここに帰りたいよぉお!」
ウルガーは子供のように泣きわめく。
「アクト様への恩も忘れて自分から出ていった癖にっ、今更もどりたいとか虫がよすぎです!」
「うぐ……! そ、それはぁ……そのぉ……」
俺はウルガーの肩を叩く。
「別に出て行くことに対して、俺はどうとも思っていない」
「じゃ、じゃあ……! もどってきても!?」
「それは駄目だ」
ローレンスが近づき、ガシッと肩を掴む。
「さぁ! 帰ってトレーニングだ!」
「いやだぁああああああああああ!」
ウルガーは涙を流しながら、勢いよく部屋を出て行く。
「少し出る」
俺は立ち上がって、外套を羽織る。
「お出かけですか?」
「ああ、勇者パーティのとこにな」
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