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67.ローレンス勇者パーティの(宣伝)活動2



 アクトの住む国から、遠く離れた魔王国にて。


 ローレンス勇者パーティは北壁にて、復興活動をおこなっていた。


「はいはーい、ケガした人、体調が悪い人はこっちよー」


 町中に仮設されたテントにて。

 回復術士ルーナは、捕虜になっていた人間達を治療する。


 魔族達は多くの人間達を連れ去り、奴隷のように、酷い扱いをしていたのだ。

 それゆえに、みな疲弊しきっていた。


 テントに集まったのは、傷付き、ろくに治療されてこなかった人たち。


「それじゃいくわよ、【ヒール】!」


 聖なる光がまたたくと、その場にいた人たちのケガ・病気が一瞬で治ったのだ。


「す、すごい! 腕が動く!」「足が! 足が生えた!?」「信じられん……腰をやって二度と歩けないと言われていたのに……!」


 ケガ人達が歓声を上げる。


「すごいですねルーナ様!」

「どうやったらこんなすごい治癒の力を身につけられるんですか?」


 するとルーナはよくぞ聞いてくれた、とばかりに言う。


「天与の原石ってギルドに所属して、アタシの運命は変わったの」


「天与の原石……?」「なんか怖いギルマスがいるってウワサの?」


 捕虜のなかには、元冒険者もいた。

 彼らはウワサで、アクトのことを知っていたのだ。


「全然怖くないわ。困っている人を見捨てない優しい人よ。行き場がないなら尋ねてみると良いわ」


 半信半疑の冒険者達。

 だが、ルーナの凄まじい治癒の技術が、話しに説得力を持たせる。


「お、おれも行ってみようかな」

「是非おすすめするわ!」


 ルーナが治療をおこなう一方その頃。


 北部領土には、奴隷だった人間達の住む村が点在している。


「なるほど、井戸が欲しいんですね」


 少女と見まがう男の子……否、男の娘の魔法使いイーライが、村長の前で言う。


「そうなのですじゃ。川まで遠くてのぅ」


「わかりました! お水ですね!」


 イーライは笑顔でうなずくと、杖を掲げる。


「【水龍大津波タイダル・ウェーブ】!」


 その瞬間、一瞬で空が雨雲に覆われる。


 そこから現れたのは、水でできた巨大な龍だ。


 龍は地上へと落下すると、そのまま大地を洗い流す。


 あっという間に、村の側に大河を作ってしまった。


「これでいいですか?」

「「「「…………」」」」


 村人達は唖然とした表情で、一瞬でできた、大河を見やる。


「な、なんてすごいんだ……」

「見ろよこの水! めっちゃ透き通ってるぜ!」

「ごくごく……うめええ! うますぎるぅうう! こんなにうまい水は初めて!」


「しかもなんで!? 魚めっちゃいるんだけどぉ!」


 わぁわぁ……! と村人達が歓声を上げる。

 村長は涙を流しながら、イーライの前で何度も頭を下げる。


「ありがとう若き大魔導師さま! 飲み水だけでなく食料まで……なんとお礼をいってよいやら!」


「いえ、当然のことをしたまでです。よかったですね!」


「しかしあなた様にお返しできる物がなにもございません……」


「そんな! お礼なんていりませんよ。みなさんが健康で幸せな生活を送れるなら、それで十分です!」


 さらに涙を流し、何度も村長が頭を下げる。


「さすが、勇者さまのお仲間様でございます……生まれ持っての選ばれし存在にふさわしい、高潔な魂をお持ちで」


「いえ、ぼくは選ばれし存在なんかじゃないですよ。昔は、弱虫の味噌っかすでした」


「なんと、そうなのですか?」


 イーライは微笑んで言う。


「そんな弱いぼくに、魔法の力と、力の使い方を教えてくれた人が居たんです。この力は弱い人たちを守るための力だって」


「おお……素晴らしいお方ですね。名はなんというのですか?」


「天与の原石の、アクト・エイジさんって方です!」


「アクト・エイジ様……その名前、イーライ様とともに、この村で子々孫々にまで伝えることをお約束します。村を救った英雄として……」


 一方その頃。


 同じく、奴隷となっていた人間達の村にて。


「うわぁ……! すげー!」

「お肉たっくさん!」

「果物もー!」


 村の子供達が歓声を上げる。

 シートの上にのせられているのは、肉や野菜など、山のような食料だ。


「ふっ……このウルガーの手にかかれば、狩猟など容易いことよ」


「「「ウルガーすげー!」」」


「ふっ……おいおい子供達、様、がぬけているよぉ~」


「「「ウルガー様すげー!」」」


「ははそうかいそうかい! なはは!」


 ウルガーは子供達の前で、得意げに胸を張る。


 彼はテイマーのミードとともに、森に入って採取してきたのだ。


「ミード様ありがとうございます」


 村長が何度も頭を下げる。


「いや、気にすんな。あと村の近くに食用になりそうな魔物をテイムしておいたから、適当に使ってくれよ」


「本当に、何から何までありがとうございます……」


「おおっと村長! 感謝するならこの僕にもしてくれたまえよ」


 ウルガーが出張って、胸を張って言う。


「ウルガー様もありがとうございます。森に巣食った凶悪な魔物達を倒してくださり」


「わはは! ま、当然のことをしたまでだよ……ふっ……僕の名前を村の英雄として子々孫々まで伝えてくれたまえ」


「は、はぁ……」


 ミードは「調子のんなウルガー」と頭を叩く。


「しかしお二人とも、とてもお強いですね。強くなる秘訣などがあれば、村の若い衆たちに伝授して欲しいのですが」


「うーん……あたいもこのバカも、人に教えるのって苦手なんだよね。そうだ、アクトさんに頼んでみるよ」


「アクトさん……とは?」


「あたいたちに弓や槍の扱い方を伝授してくれた、最高にイカしたギルマスのことさ!」


「おお! それは心強い……!」


 ミードは通信用魔道具を使って、アクトに連絡を取る。


「いいってさ。近いうちにここに来るって」

「ありがとうございます! しかし……謝礼は……」


「無償で良いってよ」

「そ、そんな……良いのですか?」


「ああ。あの人、弱っている人には救いの手を差し伸べる、最高にクールな人だからさ」


「うう……なんて素晴らしいお人だ……アクト様……このご恩は一生忘れませぬ……子々孫々にまで伝えていきます」


 ウルガーは「え、僕は!? ねえ僕は!?」と声を張り上げるが、ふたりは無視する。


「ウルガー様! 大変だ! でっけえ魔物がこの村に襲ってくる!」


「ふっ……問題ないよ」


 ウルガーは華麗に槍を構えて、投擲する。

 槍は正確に、巨大な熊の魔物の腹を貫いた。


 投げた槍は軌道をかえて、ウルガーの手に収まる。


「ま、ざっとこんなもんだね」

「「「おおー! すごい……!」」」


「わっはっは! もっと褒めたまえ!」


 村の若い衆達は感心したようにうなずく。

「あの見事な槍さばき、すごいとしか言いようがない」「うんうん」


「きっと教えた人がすごかったんだろうな」「うん?」


「おれもアクト様に教われば、ウルガー様のようになれるだろうか」「ちょっとちょっと! なんでギルマスの手柄になるのさぁあああああああ!?」


 ウルガーはダンダン! と地団駄を踏む。

「僕の強さに見惚れるところだろうがそこは!」


 と、ちょうどそのときだった。


 カッ……! と森が、黄金の光に包まれたのだ。


 凄まじい衝撃波とともに、魔物の森がまるごと吹き飛ぶ。


「な、なんだこりゃー!」「森が消し飛んだぞ!?」「いったい……だれが……!?」


「おーい! みんなー!」


 上空を見上げると、漆黒の邪神竜が空に浮いていた。


 そこから降りてきたのは、黄金の髪をたなびかせる勇者ローレンス。


「うむ! 大丈夫そうだな君たち!」


「ろ、ローレンス様……まさか、あなた様が、あれを?」


「うむ! 魔物を森ごと吹っ飛ばした! これでもう魔物の被害に怯える必要はない! よかったな!」


 村人達は更地になった森を見て、呆然とつぶやく。


「木の一本も残ってないぞ……」「す、すごすぎる……」「化け物だ……」


 一方でウルガーが声を荒らげる。


「ちょっと! ローレンス! 森まで消し飛ばしたら、木の実などの森の恵みが取れないじゃあないか!」


 なるほど、とローレンスがうなずく。


「ではこうしよう! ぬぅうん!」


 ローレンスは両手に闘気をこめて、地面に触れる。


「どっこいしょー!」


 気合い一発。

 すると、更地に大森林が出現した。


 木々にはみずみずしい果実がなり、動物たちも豊富にいた。


「「「…………」」」


「これで、よし!」


 ウルガーは呆れたようにつぶやく。


「いったいどういう原理で森が復活したのだよ……」


「む! 気合いだな!」


「もうちょっと説明したまえよ!」


 すると村人達は、ローレンスに駆け寄ってくる。


「すごいですローレンス様!」

「人間業とは思えません!」

「いったいどうやったら、あんなことができるようになるんですか!」


 するとローレンスは笑顔で言う。


「アクトさんの元で修行をつめば、あれくらい誰でもできるようになるぞ!」


「「「おおー!」」」


 一方でウルガーは「いやいやいやいや」と首を振る。


「アクトさんはすごい人だ! あの人に教われば、森を消し飛ばすことも、森を作ることも、北壁を一撃でぶっ壊すことも、できるようになるぞ!」


「「「アクトさんマジすげー!」」」


「いやそれできるの君だけだからぁああああああ……!」


 ……このように、アクトの知らないところで、ローレンス達による宣伝活動はおこなわれているのだった。

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[一言] 魚がいるのはほんとになんで……
[気になる点] でもこのローレンスでもワンチャンあるかも?な強さの魔王様って一体… [一言] そして全員人外の領域に…(遠い目)
[一言] この勇者パーティーでツッコミ役がいるのがいいね♪ しかし、個性の強いパーティーだことw 他国の勇者パーティーとレベルが違い過ぎるんだよなぁ~ あれだけの修行をさせられたら当然だけどね。
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