63.鬼姉妹、ウワサの悪徳ギルドマスターの元を尋ねる6【バカムス】
ギルドマスター・アクトの前から去ったバカムスが、その後どうなったかというと……。
「この、愚か者がぁああああああ!」
バカムスは屋敷に戻ると、開口一番、当主たる父に叱責された。
「なんて! 愚かなことをしてくれたのだ貴様ァ……!」
執務室にて。
バカムスは父から、鉄拳を頬に食らった。
「い、痛いです……父上……なにを……?」
「あのアクト・エイジの所属するギルドだぞ!? その構成員になぜ手を上げるようなマネをしたぁ!」
父の動揺っぷりは常軌を逸していた。
その顔には、この世の終わりのような絶望と、マグマのような憤怒とが同居している。
「……何を恐れているのですか? あんな平民風情に……?」
「このばかが! 貴族社会で生きているくせに、【アクト・エイジには手を出すな】という文言を知らぬのか貴様!」
そんなこと、初耳だった。
「くそっ! バカムス、おまえは追放だ! この家から出て行け!」
「なっ!? なぜです!?」
「ええいうるさい! とにかく! 貴様は私の家とは何の関係もないゴミだ! とっとと屋敷から……」
と、そのときだった。
「失礼いたします」
がちゃがちゃ、と鎧をならしながら、騎士が入ってくる。
「ヴァーグ男爵。あなたの息子には、殺人・強姦未遂の容疑がかけられています」
「なっ!? ど、どうして……それを……」
まだ犯行から数時間と経っていないのに、騎士団に嗅ぎつけられてしまったのだ。
「さらに街のゴロツキどもと共謀し、各地で悪事を働いていたこともすでに判明しております」
「なっ……! ば、バカな……全部パパの権力で隠蔽してもらったことなのに……!」
「わ、私とそこのバカはむ、無関係だぞ! そいつはすでに男爵家を追い出された身!」
ヴァーグ男爵は青い顔をして首を振る。
だが騎士団は冷静に告げる。
「あなたにも逮捕状が出ております」
「な、な、なんだとぉお!?」
騎士は冷たい目でヴァーグ男爵を見下ろしながら、男爵が過去に犯した犯罪の数々を、読み上げていく。
それらは権力をもって握りつぶしたはずだった。
だが、その全てが騎士団にリークされていた。
「ち、父上~……これ、どうなるんですかぁ~……」
「どうなるもこうなるも、我が家は……終わりだ……」
男爵家としての位も、屋敷も、将来も……バカムスはたった数時間で、全てを失ったことになる。
それもすべて……。
「この、バカ息子めぇえええ!」
怒り狂った父が、バカムスを殴り飛ばす。
「うげぇええええええ!」
倒れ伏した息子に馬乗りになって、暴行を振るう。
「貴様の! せいだ! アクト・エイジに! 手を出した! くそっ! ばかが! 死ね! 死ね! 死ねぇえええ!」
……父に口汚く罵られ、ボコボコに殴られる。
騎士達は慌てて父親を捕縛し、そのまま連行する。
「…………」
連れて行かれる父を見て、ようやく、自分がケンカを売った相手が、いかに恐ろしい相手だったのかを実感した。
相手は、物の数時間で、貴族から社会的地位を全て奪うことができるほどの……怪物だったのだ。
「おら、さっさといくぞバカムス」
「いや、だ……。嫌だぁああああああ!」
バカムスはその場から逃げようとするが、騎士に簡単に捕まってしまう。
「なんでだよぉ! 平民の女をおそうくらい、貴族なら誰でもやってるじゃあないか! なんでボクだけが捕まるんだ! なんで!? どうして!?」
騎士達は哀れみの目を貴族のバカ息子に向け、ため息をつく。
「今回ばかりは、相手が悪かったな」
「きっちり罪を清算してこい……まあ、もっとも、釈放された後に、社会的な居場所が残っているとは思わんが」
騎士すらも、アクト・エイジに恐れをなしているようだった。
「そこまで……だったのか……そんな相手に……くそ……ああ……ボクは、なんて……バカなことを……くそ、くそおぉお……」
バカムスは騎士に連行されていく。
今回の件で彼の家は爵位剥奪。
当主はそのまま余罪がボロボロと判明して終身刑。
……そして、後日釈放されたバカムスの行方を、その後知るものは、誰も居ないのだった。
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