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59.鬼姉妹、ウワサの悪徳ギルドマスターの元を尋ねる2



 ギルドマスター・アクトのもとを訪れた、鬼の姉妹。


 姉のかすみ、妹のカナヲ。


 ギルマスの部屋にて、面接がおこなわれていた。


「霞、貴様には【盗賊シーフ】の才能がある」

盗賊シーフ……ですか」


 ソファに座る霞とカナヲ。


「むきー! おねーちゃんはドロボーじゃないやい!」

「か、カナヲ……違うわ。盗賊シーフは職業のひとつで、盗人とは違うのよ」


「そうだ。ダンジョン内部での索敵や、罠や宝箱を見つけたりする、重要な役割を持つポジションだ」


 カナヲは「ならよしっ!」と納得して座る。


「ごめんなさい、ギルマス……妹が大変失礼して……」

「分別のない子供が失礼なのは当然のことだ。いちいち謝るな。無駄なことだ」


 すると近くで見ていた受付嬢長のカトリーナが、新しいお茶を持ってきて、霞達の前に出す。


「……ギルマスは口ではああいってますが、子供が大好きなんですよ♡」

「……ええっ? そ、そうなんですか」


「……ええ。口が悪いですけど、悪い人じゃないので、許してあげてくださいまし」


 なんとなく感じていたことだ。

 目の前の悪徳ギルドマスターが、ウワサ通りの悪人ではない、とてもいい人であることを。


「カトリーナ、こんなところで油を売っているな。自分の仕事に戻れ」


 今のセリフも、言い方は冷たいが、ここはいいから下がっていいぞ、と相手を気遣うニュアンスが含まれているように感じた。


「はい♡ では失礼します」

「ばいばーい、おばちゃん! クッキーうまかったよー!」


 カナヲの言葉に、カトリーナはピキッ……! とこめかみを動かした。

 だが微笑むと、出て行った。


 アクトは紅茶を啜って言う。


盗賊シーフとして冒険者をすることを勧める。無論危険もある。ダンジョンに潜るからな。最終的な決定は貴様に委ねる」


「……やれ、と命令は、しないんですね」

「当然だ。嫌がる相手に無理矢理やらせても、効率が悪いだけ、無駄になるだけだ」


 霞はアクトの、相手を思いやるやり方に、好感を覚えた。


「でも……わたし、盗賊シーフなんて、できるでしょうか。一度もやったことないのに、急にダンジョンに潜るなんて……」


 するとアクトが「ふんっ」と鼻を鳴らす。


「バカ言え。新人をダンジョンにいきなり突っ込むわけがないだろ」


「え?」


「まずは腕の立つ盗賊シーフの冒険者が一緒について、盗賊としての技を磨いてもらう。現場にでるのは、才能にもよるが2ヶ月くらいは先だ」


 技術研修をどうやらやってくれるようだった。


「さらに最初の半年は、ベテランパーティに同行させる。アイテムや武器の支給もある」

「そんなに……手厚くサポートしてくださるんですか?」


 恐ろしいまでに保証してくれるようだ。


「当然だ。なんの準備も整ってない初心者を、貧相な装備でダンジョンに突っ込ませるわけがないだろう。死んだら全て無駄になるんだぞ?」


「は、はぁ……でも、そこまでやってくださるギルドなんて、聞いたことないですよ……」


「なんだ? 俺のやり方に不満があるのか貴様?」

「め、滅相もございません! 手厚いサポート大変感謝します!」


 アクトは気にせず続けて言う。


「貴様には幻術や罠を見抜く知識と目、慎重な性格。そのほか、盗賊シーフに最適な才能がある。最初は上手くいかない事も多いだろう。だが腐るな」


 アクトは真っ直ぐに、霞の目を見て言う。


「貴様は大成する。俺が保証する」


 ぽろぽろと……涙が流れた。


「おねーちゃん、どーしたの?」

「ごめん……なんかもう……うれしすぎて……」


 今まで人扱いされたことはなかった。

 だが、目の前のギルドマスターは、鬼族である自分を偏見の目で見ることはなかった。

 

 一個人として尊重し、さらに部下として、励ましてくれる。


「いちいち泣くな。時間の無駄だ」


 アクトはそう言って、ハンカチを手渡してくる。


「ごめんなさい……わたし、頑張ります。盗賊シーフとして、頑張れます!」


 霞の瞳に迷いはなくなっていた。

 モンスターのはびこるダンジョンのなかであろうと、恐れず飛び込んでいける。


 この厳しくも、しかしとても暖かな瞳に、未来を保証してもらったのだ。

 ならば、彼を信じようと、霞は思った。


「ねーねー、ぎるますー」


 はいはい、とカナヲが手を上げる。


「あたちはー? どんな才能あるのー?」

「こ、こらカナヲ! あんたは冒険者にならないでしょっ」


「えー? あたちもやりたい冒険者ー」


 ふんっ、とアクトが鼻を鳴らす。


「俺のギルドにガキはいらん」

「ガキじゃないもん! カナヲだもん!」


「カナヲ。貴様にできることは何もない。大人しく、家で姉の帰りを待っていろ」


 これもまたギルマスの優しさであると、霞にはわかっていた。

 まだ5才の幼子を、ケガさせるわけにはいかないからと。


「でもでも、あたちにも何か才能あるんでしょー?」

「無論だ。この世に才を持たず生まれてくる人間などいない」


「じゃあ、あたちはどんなのあるのか、教えてよー!」


 やれやれ……と言って、アクトは鑑定眼を発動させる。


「…………」

「なになに?」

「……貴様の、才能は」


 一瞬の逡巡の後、彼は言う。


「……大人になったときに教えてやる」

「えー! ずっるい! 今教えてよー!」


 アクトは小馬鹿にしたように、鼻を鳴らす。


「貴様は正確にはギルメンではない。部外者に貴重な情報を教えてやれるほど、俺はお人好しではないのでな」


「えー! ずっるいずっるい! おねーちゃんには教えたのに-!」


「霞は俺の部下だからな。俺の下につきたいですお願いしますと頭を下げるのなら、教えてやってもいいぞ、お子ちゃま?」


「むきー! がきあつかいするなー! もういいもん! 聞かないもーん!」


 んべっ、とカナヲが舌を出す。

 意に介した様子もなく、アクトが続ける。


「霞、このお子様の面倒は心配するな。うちには託児所がある」

「たくじしょ、とは?」


「職員や冒険者のなかには、子供を持つやつがいる。そいつらの子供をあずかって、面倒を見る専用のスタッフと部屋があるのだ」


「す、すごい……」


「それと住む場所も気にするな。職員寮がきちんとある。あいている部屋は手配済みだ。あとでカトリーナに案内してもらえ」


 これなら、安心して冒険者としてやっていける。


「何から何まで、本当にありがとうございます!」

「俺の下で働く以上、これは貴様らに与えられる当然の権利だ。感謝は無用だ」


 アクトは立ち上がる。


「貴様の今後の活躍を期待する。退出していいぞ」

「はい! ありがとうございました! いこ、カナヲ」「あーい」


 霞はカナヲの手を引いてソファから立ち上がり、何度も頭を下げる。


「霞。ちょっといいか」

「? はい?」


「おいガキ。俺は貴様の姉とふたりで話がある。外にいるカトリーナとまってろ」


「はいはい、わかりましたよーっと。おばちゃーん、あそんでー!」


 カナヲがギルマスの部屋を出ていく。

 ドア向こうで『お・ば・ちゃ・ん?』『あびゃー! ぐりぐりやめてー!」とカナヲの悲鳴が聞こえてきた。


「あの……ギルマス、なんでしょうか?」

「…………」


 アクトは目を閉じて、ため息をついて言う。


「……いや、何でもない。気にするな」

「えっと……何でも言ってください。わたし、気にしませんので」


「いや、呼び止めてすまなかったな。行っていいぞ」


 霞は得心がいなかったものの、深く追求することはなく、出て行った。


「…………」


 アクトは部屋で一人、ため息をつく。


 自分の鑑定眼に手を触れて、ドアの向こうを見つめる。

 その先にいるのは、鬼族の姉妹。


 妹カナヲからあふれ出る、恐ろしい才能の輝き。


 それはこのギルドを、この街を……否。

 この国を覆い尽くすほどの、強大すぎる才能の輝きを持った、巨大な原石だった。


 本人にはもちろん、姉である霞にも、この事実を告げたら、心理的な負担になるだろうと思った。


 だから、彼は今は、黙っておくことにしたのだ。


「……やれやれだ」


 だが彼は彼女たち姉妹を、外に放り出すなど無責任な真似は決してしない。


 アクトは決意する。

 妹の、強大すぎる才能もまた、自分の手で正しく磨いてやるのだと。


 人知れず、そう決めて、アクトはプランを練るのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] カナヲの現年齢5歳、10年後には15歳、 ローレンスがギルドに入った頃も15歳だから、超勇者の代替わりの可能性も... ローレンスの時はギルドも立ち上げたばかりだからノーマークだったけど、今…
[気になる点] 大人になったらとかいうからてっきり娼婦とか色仕掛けとかの才能かと思ったぜ。
[一言] 勇者の才能だとどのくらいの輝きなんだろうか...
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