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53.クビになった補佐官と愚かな四天王4



 魔王四天王イリーガルは、邪神竜ヴィーヴル奪還のため、アクト達の居る王都へ挙兵することにした。


 北壁から遠く離れた、人間国【ゲータニィガ】。

 その王都近郊の草原にて、魔の物たちによる大軍が待ち構えていた。


「イリーガル様、配置につきました」


 指揮を執るのは、四天王補佐のツクァエーネ。

 北壁に配備していた兵士のほとんどを、ここ王都まで持ってきていた。


『よし。ではまず王都を滅ぼし、ヴィーヴルを奪還。しかるのち、人間国を攻め滅ぼせ』


 ツクァエーネの隣に、翼の生えた目玉の魔物が浮かんでいる。

 通信のスキルを持つ魔物だ。


「ハッ……! かしこまりました!」


『くれぐれも、失敗することのないように』

「ご心配なさらず。見てください、この大軍勢で、よもや負けるわけがありませぬ」


 彼は目玉の魔物に命じ、上空へと飛ばす。

「王都を取り囲みますのは、Sランクモンスター達の大軍勢。さらに、子爵級までの魔族も配備しております。その数は千。さらに魔導巨人は二千。総勢力は1万」


 魔族は、モンスターをも凌駕する強力な魔法力を持つ。

 魔導巨人は魔族に一段実力は劣るものの、魔力が切れない限り暴れ回る10メートルの巨人。


「これで負けるわけがございません」

『くく……確かにちょっとばかし念を入れすぎたかも知れねえな。だが抜かるなよ』


「畏まりました。イリーガル様は北壁にて、吉報をお待ちくださいまし」


 通信を切ると、ツクァエーネは命令する。

「全軍に告げる! 半数を残し、残り半数は王都に進攻! 鏖殺おうさつだ! 一人残らず殺せ!」


 王都から逃げるやつらを逃さないために半数を残し、残りは中へと攻め入らせる。


 魔のものたちは雪崩のように、王都へと進軍する。


 魔導巨人が外壁を破壊し、そこから侵入していく。


『ま、魔物だ!』『きゃー!』『たすけてえええええ!』


 王都の民たちが皆顔を真っ青にして、三々五々散らばっていく。


 だが魔物達はそれを逃がさない。

 首をはね、骨を砕き、肉を食らう。


「いいぞ、そのまま蹂躙していくのだ!」


 巨人達が王都の建物を踏み潰し、破壊していく。

 魔族達は魔法で人ごと建物を吹き飛ばす。

 阿鼻叫喚の地獄と化していた。

 

「くくく……なんて楽な仕事なのだ。雑魚しかいない……雑魚しか……?」


 ふと、ツクァエーネは気づく。


「……勇者はどうした?」


 王都にはローレンスとかいう、勇者がいたはずだった。

 だがこれだけ町が破壊されているというのに、現れる気配がない。


「これは……チャンスだな」


 にやり、とツクァエーネは笑う。


「勇者は都合よく不在のようだな!」


 ……そう都合のいいほうに考えることにしてしまった。

 それが、失敗だった。

 ここで敵の罠であることに気づければ、結果は変わっていたかも知れない。


 ややあって。


 ひとしきり王都を火の海に沈め、死体の山を築きあげた後。


 ツクァエーネは悠々と、王都に足を踏み入れる。


 王都の血塗れた歩道の真ん中。

 部下の魔族が、ヴィーヴルを捕らえていた。


「探したぞ女ぁ」

「ツクァエーネ……あんたら、なにしにきたんすか?」


 ぎろり、とヴィーヴルがにらみつける。

 フンッ、とツクァエーネは笑う。


「貴様を連れ戻しにきたのだ」

「……自分を?」


「ああ」

「……他の無関係な人たちを殺す必要はあったんすか?」


「別にいいだろう? 人間なんぞ、サルも同然。死んでもかまわないだろ?」


 ヴィーヴルはうつむき、肩をふるわせる。


「……やっぱり、魔族はクソっす」

「なんだとっ?」


「街の人たちがあんたらに何をしたって言うんすか!? 彼らの平穏な日常を壊す権利が、てめえらにあるんすか!?」


「やかましいぞ、このメス豚ぁ……!」


 ツクァエーネは彼女の頬を殴り飛ばす。

 ずしゃりと倒れた彼女の頭に、足を乗せる。


「調子に乗るなよ欠陥魔族の分際で!」

「ふっ……」


「何がオカシイ!?」

「いや……憐れっすねって思ってね」


 彼女は哀れむように、ツクァエーネに言う。


「なんだその目は!?」

「全てが筋書き通りに進んでいるってことに、あんたら本気で気づいてないんすから」


「筋書き……?」

「ま、いっす。予定通り……戦闘開始っすよ!」


 カッ……! とヴィーヴルの体が光り輝く。

 その瞬間、凄まじい爆発が起こる。

「ぬぁあああああああああ!」


 木の葉のように、ツクァエーネは吹き飛ばされる。

 凄まじい衝撃だ。まるで小惑星でも落ちてきたのかと錯覚するほど。


 周辺の建物はおろか、魔のものたちも吹き飛ばされる。


「う、うう……なんだ……なにが、起きたのだ……?」


 地に這いつくばりながら、ツクァエーネはうっすらと目を開ける。


 そこにいたのは……一匹の、漆黒の邪竜だった。


『うぉおおおおおおおおおっすぅ!』


「なん、だ……これは……?」


 見たことのない竜だった。

 漆黒の体に、黒いオーラの翼。


 その巨体から発せられる圧倒的なまでの死の気配に、体が縮み上がる。


『自分は邪神竜ヴィーヴル! 勇者パーティのパシリ……もとい、運び屋っす!』


「ゆ、勇者パーティ……だと!? それに、ヴィーヴル!? こいつが、あの欠陥魔族の!?」


 信じられない光景だった。

 邪神竜。それは自分をも凌駕する、存在感を発揮している。


『大人しくお縄につくっす!』

「ふざ……けるなよ裏切り者がぁ……!」


 ツクァエーネは怒りで声を震わせながら言う。


「ものども! やつを殺せ! 今すぐに!」

『よ、よろしいのですか……?』


 部下の魔族が恐る恐る尋ねてくる。


「勇者に取られるくらいだったらここで始末したほうがいい!」


『ハッ! できるもんならやってみるっすー!』


 Sランクモンスター達が、邪神竜に飛びかかる。


『ちょいやー!』


 ヴィーヴルは軽く手を横に払った。

 それだけで……モンスター達は消し飛んだ。

 

 建物はバキバキと音を立てながら吹っ飛んでいき、地面もめくり上がる。


「なんて桁外れの膂力……くっ! 魔法だ! ものども、魔法で殺せぇ!」


 魔族達が上級魔法を放つ。

 炎、氷、雷……無数の魔法が邪神竜に襲いかかる。


『ふっ……』


 発せられたのは暴風だ。

 すべての魔法がかき消える。

 それどころか、魔族たちが王都の外へと吹き飛んでいった。


「ば、ばかな……なんて強力な風の魔法なんだ!」

『魔法? 冗談ぽいぽいっす。今のは自分の、ため息っすよ』


「た、ため息で……魔族達の強大な魔法を……消したというのか……信じられん……」


 Sランクモンスターも魔族たちも、決して弱くはない。

 だが、目の前の邪神竜が、桁外れに強いのだ。


「く、こ、これで勝ったと思うなよ! 街の外にはまだ魔族達が、しかもここにいるやつらよりランクの高い魔族が居るんだぞぉ!」


『伏兵っすか。ま、それはこっちもっすけどね』


「なんだとぉ!?」


 そのときだった。


『つ、ツクァエーネ様ァ……! 伏兵です! 我が軍は挟撃されております!』


 街の外に置いてきた、副官からの連絡だった。


 すぐさま魔法を使い、街の外の様子を見て……唖然とする。


『見たまえ諸君! この勇者パーティの一番槍、ウルガー様の華麗なる槍さばきを!』


 銀髪の男が、疾風のように走る。

 そのたびに魔族達が、面白いように消えて行くではないか。


『この銀の髪が作る軌跡はまさに流星! 魔を払う聖なる力の化身! ふはは!』


「ば、バカな……勇者パーティだと!? 不在ではなかったのかぁ……!」


 ウルガーは単騎で、外に配備した5千の軍勢をみるみる削っていく。


 有象無象の5千ではなく、そろえてきた精鋭の5千だ。


 それを、たったひとりが無双している。

 なんと現実離れした光景か。


『食らうがいい、わが必殺の【兆烈槍】を!』


 ズバァンッ! と星が爆発したと錯覚するほどの衝撃が走る。


 次の瞬間……ツクァエーネが見たのは、恐るべき光景だった。


 草の1本も残らない、荒野であった。


「し、信じられない……5千だぞ? 精鋭たちが……一瞬ですべて、消し飛んだ……だと……?」


 王都をグリルと取り囲むように、外の精鋭達は配備していた。

 だが、王都周辺のすべてを魔の者たちだけを、ウルガーは殺し尽くした。


 なんたる強さ、なんたる技巧。


「これが……勇者か……」

『ふっ、非常に癪だがそれは間違いだよ君ぃ~』


「!? つ、通信をジャックしただと!?」


 ウルガーは不愉快そうに顔をしかめる。


『毎回君の引き立て役になるのはひっじょ~に度し難いのだけど、ま、手柄は譲るよ』


「なんだ……何の話をしているのだ!?」


 そのときだった。


『ツクァエーネ! おいツクァエーネ! 返事をしろぉ!』


 突如、通信が入ってくる。


「い、イリーガル様!? どうなさったのです、イリーガル様ァ……!?」


 ただ事ではないことは、イリーガルの声から感じ取れた。


『さっさと軍を戻せぇ! でないと北壁が……ぐわぁあああああ!』


 凄まじい爆音とともに、通信が途絶える。

「なんだなんなのだ、何が起きているのだぁ……!?」


 その瞬間だった。

 パキンッ、と何かが砕け散る音がする。


 すると、突如として……王都が消えた。


「は? お、王都は……ここは……どこだ……?」


 さっきまで血ぬれた街だったはずの王都が、忽然と消えたのだ。

 壊れた街なみも、倒れ伏した死体の山もない。


 ツクァエーネ達残り5千の軍勢は、草原のど真ん中に取り残された。


『まだ気がつかないんすか?』


 バッ……! と上空を見やる。

 邪神竜が飛び立ち、その背中には、少女と見まがう可憐な魔法使いが乗っている。


『全部、作戦通りっすよ。イーライ兄貴、幻術ごくろーさまっす』


「幻術……幻術だと!? 街も、人も……作られた幻だったというのか!?」


 信じられないことだが、あの魔法使いは、街一つ、そして街の人たちを魔法で作り上げていたと言うことになる。


「なんなのだ……この、化け物達は……」


 唖然とするツクァエーネをよそに、イーライは魔法を発動させる。


「【煉獄業火球ノヴァ・ストライク】!【颶風真空刃ゲイル・スライサー】!【絶対零度棺セルシウス・コフィン】!【天裂迅雷剣ディバイン・セイバー】!」


 はるか上空に、4つの極大の魔法陣が展開する。


「は、はは……極大魔法の、無詠唱、同時発動……これは……夢だ……悪い夢なのだ……」


 魔族にすら発動が難しい、極大魔法。

 それをあんな若い魔法使いが、同時発動させることなど、あり得て良い話ではなかった。


「わたしたちは……間違っていたのだ……彼らに……刃向かうことは……愚かなことだったのだ……」


 今更悔いても、もう遅かった。

 4つの極大の魔法は、残っていた魔の者たちを一瞬で消し飛ばした。


 ……かくして、北壁から挙兵された一万の軍勢は、ものの数刻で、ローレンス勇者パーティにより全滅された。


 だが、これで終わりではない。


 そう、黄金の勇者がこの場にはいない。

 では、どこにいるのか?


「おれは、ここに、いるぞー!」


 黄金の闘気を纏った超勇者ローレンスが、半壊した北の砦の上で、高らかに声を張り上げているのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「わたしたちは……間違っていたのだ……彼らに……刃向かうことは……愚かなことだったのだ……」 刃向かう?
[一言] ウルガー君、貴方空を駆けれますよね? 駆けれますよね?
[気になる点] 非常を非情と打ち間違えるのこれで三回目。 「常」に「非(あら)」ずで「非常」 「情」が「非(あら)」ずで「非情」 これで覚えておきましょう。 [一言] ウルガーさん兆までは行けたッス…
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