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05.悪徳ギルドマスター、孤児を助ける



 その日、俺はギルマス同士の会合から帰る途中だった。


 ギルドへと帰る馬車が、森にさしかかったそのとき。

 正面に座るフレデリカが、ふと言う。


「この先に魔物がいます」


 フレデリカの頭部から、ひょこっ、と狼の耳が立つ。

 彼女はフェンリルであり、嗅覚・聴覚は人間を遙かに凌駕する。


 だから魔物の存在にいち早く気づけたのだ。


「迂回します」

「待て」


 俺は【鑑定眼】を発動させ、周辺情報を鑑定よみとる

 魔物のほかに、人間の子供がいて、襲っているらしい。


「少し出る。後からついてこい」

「マスター、どちらへ?」


 俺は馬車の窓に足をかけると、いっきに飛び出す。


「【固有時間加速】」


 S級鑑定眼【時王の眼】。

 時の流れすら見通す最強の鑑定眼だ。


 だが物体の情報を読み取るのは、この目が持つ能力の内の一つでしかない。


 【固有時間加速】簡単に言えば、自分の動きを加速させる能力だ。


 身体強化術ではなく、純粋に自分の速さを向上させる能力であり、体への負担も大きい。


 俺は超加速し、現場へと急行。

 

「ギャアオオオォオオ!」


 見上げるほどの巨大な熊が子供を襲っている。


 熊の巨木のごとき腕が、子供を切り裂こうとする。

 だが、それは空振りに終わった。


「え……? だ、れ?」


 俺は子供を抱きかかえ、熊から距離をおいた場所に居た。


 体内時間加速による超スピードで、敵の攻撃が当たるよりも早く、子供を助けたのだ。


「グロァアアアア!」


 熊モンスターは食事を取られ怒ったのか、俺に向かって襲いかかろうとする。


 だが熊がサイコロステーキのようにバラバラになって、倒れた。


「さすがマスター、子供の危機にいち早く気づき、駆けつけるとは」


 追いついてきたフレデリカが、血濡れたナイフを払う。


「俺はこの【赤熊レッド・ベア】の肉と素材が欲しかっただけだ。モタモタしていると他のヤツに取られるかもしれなかったからな」


「さて……お嬢様、お怪我はありませんか?」


 子供はよく見れば、まだあどけなさの残る少女だった。

 少女はフレデリカを見ると、気を失う。


「可哀想に、モンスターに襲われた恐怖で気を失ったのですね」


「おまえ、返り血で凄いことになってるぞ」


「主の前でお見苦しい姿をさらし、申し訳ありません。今すぐ着替えてまいります」

 

「必要ない。どうせ屋敷に戻る。それより馬車を回してこい」


「連れて帰るのですか?」

「見てみろ」


 森の中には、横転した馬車が一台。

 馬は死に、御者の姿はない。


 荷台には鉄格子がついていた。

 今は熊に襲われてひしゃげているが。


 そして【奴隷の首輪】をしてる。


「なるほど、奴隷商の馬車と、その商品の可能性が高いですね」


「そうだ。売り物を拾ったとなれば、商人から多額の礼金をふんだくれるだろう」


「では馬車で商人の居る町へ、このまま向かうのですね?」


「バカ言え。見ろ、この子供は何日も飯を食ってないのかガリガリに痩せている。まずは屋敷へ帰り、風呂に入れさせ、飯をたらふく食わせ、たっぷり休養を取らせてから商人の元へ送り届ける。状態が良い方がより多くの礼金を……どうした? なぜ笑う?」


「いえ、さすがの悪徳ギルドマスターっぷりだなと感心したまでです」


    ★


 屋敷へ戻って使用人達に命じ、娘を風呂に入れさせ、清潔な衣類を着せた後。


 その後、食堂にて。


「もの凄い食欲ですね、この子」


 テーブルの上には、カラになった大量の皿が山積みになっている。


「食費もタダではないのに、よろしいのですか?」

「その分商人からふんだくるから問題ない。遠慮せず食え。デザートもあるぞ」


 ぽろぽろ……と突如として娘が泣き出した。


「フレデリカ、なぜこいつは泣いてる?」

「きっと人に優しくされたのが初めてだったのでしょう」


「なに? 別に俺は優しくなどしてないだろ」


「はいはい。ところでマスター。ひとつ、わかったことがあります。この子は【商品】ではないようです」


 フレデリカの手には、娘が元々着ていた衣類があった。


「調べた結果、この服は【ウォズ】という街にある【デルフォイ孤児院】の制服であることがわかりました」


「なに? 孤児院だと? ではこの娘はそこの孤児なのか?」


 奴隷商の馬車に、その商品として運ばれていた少女が、孤児院の子供だった。


「きな臭いな」

「マスター、いかがいたします? どう見てもこの娘は厄介ごとの種です。捨て置くのがベターかと」


 俺はフレデリカを無視して、娘の元へ向かう。


「おまえ、名前は?」

「……【ユイ】」


「ユイ。正直に答えろ。おまえのいた孤児院は人身売買……友達を知らないやつらに売り飛ばす悪いヤツらか?」


 びくんっ! とユイが体を強くこわばらせ、ガクガクガク……と震える。


「どうやら、悪い予感が的中したようですね」


「アニー。ミルダ。みんな……ごめんね、守れなくって、ごめんね、ごめんね……」


「売られていった友達の名前でしょうね」


 フレデリカはハンカチを取り出し、ユイの涙を拭う。


「その孤児院に帰りたいか?」


 彼女はまたうつむいて、ぎゅっと唇をかむ。


 俺はユイの肩を掴み、目を真っ直ぐに見る。


「泣いたところで何も変わらない。未来を望む方へ少しでも動かしたいのなら、選べ」


「えら、ぶ……?」


「そうだ。このまま孤児院に戻って、商品として売り飛ばされるか。それとも、逃げて自由を得るか」


「……無理、だよ。デルフォイさん、悪い人と、たくさん知り合い。すぐ、捕まっちゃう」


 フレデリカがしゃがみ込んで、ユイの頭をなでる。


「安心なさい、何を隠そう、目の前に居るアクト様は、悪人という意味では、他の追随を許さない、極悪人(笑)なのです」


「おまえ、何か馬鹿にしてなかったか?」


「滅相もございません」


 よしよしとユイの頭をなでながら、フレデリカが言う。


「アクト様のお力があれば、あなたも、お友達も、みんな幸せにすることができます」


「……ほんとう?」


「ええ。マスターは誰よりも強く……そして慈悲深い悪人なのです。さぁ選びなさい。帰るか、逃げるか」


 ユイは俺を見上げて、涙をためながら、吐き出すよう言う。


「……おねがい! みんなを、助けて!」


 帰るか逃げるかを問われて、友達を助けて欲しいと、ユイはそう言った。

 自分のことではなく、他人を思いやる心を持っている、か。


「フレデリカ。デルフォイ孤児院に行くぞ」


「皆を救うのですね?」


「勘違いするな。俺は、この娘が欲しいだけだ」


「ふぇ、ふぇえええ!?」


 ユイが顔を真っ赤にして、動揺する。


「こいつには人の上に立つ才能がある。それを腐らせておくのは世界の損失だ」


「さすがマスター、女たらしの才能まで備えているとは、見事な悪人っぷりです」


 俺はユイの頭をくしゃりとなでていう。


「俺に任せろ。全部解決してやる」

「……あなたは、どうして? 助けて、くれるの? 神さま……なの?」


「バカ言え。俺は欲しいものはなんとしても手に入れる、ありふれた極悪人だ」


【※読者の皆様へ】


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公はどうして自称悪人にこだわってるの? ここまで人助けばっかやってるとかなり無理がある [一言] ただ鑑定して人の適性を見るのが得意なキャラかと思いきや、 戦闘能力も無双じゃねーか…
[一言] なう(2021/10/13 22:14:23) 最近この手の漫画twitterで見るなぁ
2021/10/13 22:14 退会済み
管理
[良い点] なろうキャラなのに良い意味でキャラ立ってる。とても良い!! [気になる点] 今後の展開、読むのが楽しみかも! [一言] 猫子さんの重騎士くらい面白い。ファンになったわ。推すね。
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