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43. 悪徳ギルドマスターと集う「ざまぁ」された者たち4【イランクス⑧】


 街はずれの森の中。

 イランクスはアクトと相対する。


『なぜだぁ!? なぜここがわかった……アクト・エイジぃ!?』


 計画は誰にも気取られないように進めていたはずだった。


 なのに、こちらが攻め入るドンピシャのタイミングで、アクトの仲間達が防衛に付いていた。


 そして、目の前に彼が現れた。


「貴様に答える義理はない」

『……どこまでも、調子に乗ったガキめえええ!』


 理屈はどうあれ、アクトに計画は全て見抜かれていたのだと、イランクスは悟る。


 しかし、敗北を認めたわけではない。


『ふ、ふははは! バカな男だ! 最も非力な男が、ノコノコと敵陣に乗り込んできたのだからなぁ!』


「バカはあなたですよ。わたくしがいるのをお忘れですか?」


 銀髪のメイドが、殺気を漂わせながら、アクトの前に出る。


 彼女の目には、イランクスに対する明確な敵意が浮かんでいた。


「ご主人様に指一本触れさせません」

『ハッ……! クソメイド! こいつを見てもまだそんなことが言えるかなぁ……!』


 イランクスが地面に手を置く。

 突如、森の動物たちが騒ぎ出した。


 獣たちはいっせいに、何かから逃げていく。

 今日は満月だった。

 だが、月明かりが唐突に消える。


「! ご主人様! あれは!?」

「【岩巨人ゴーレム】だな」


 この世に無数にあるダンジョン。

 迷宮の内部には、ボスたるモンスター、迷宮主が存在する。


「この【岩巨人】はどうやら、影で作られた偽物だが、しかし迷宮主以上のパワーを持つみたいだな」


 アクトが鑑定眼で能力値を測定し、冷静に言う。


『そうだぁ……! この影巨人はなぁ……! わしが丹精込めて作った最強のシモベだぞぉ!』


 迷宮主の討伐難易度はSランク。

 それ以上の強さをこの影巨人は持っている……のだが。


『なぜだ!? なぜ貴様は! ぴくりとも動揺しない!? なぜだぁ!?』


「フレデリカ。黙らせてこい。デカブツが街を襲う前に」


「御意」


 たんっ……! とフレデリカは跳躍すると、森に出現した影巨人の元へと向かう。


『いいのかぁ~? あんな女が、わしの作った最高傑作を、倒せると思っているのかぁ~?』


 しかしアクトは応じない。

 冷静に、イランクスをジッ……と見ている。


『答えろよぉ! アクトぉ……!』

「イランクス。今すぐに投降しろ。貴様の負けだ」


『は………………?』


 一瞬、アクトの言葉を飲み込めなかった。

 だが、次第に、腹の底から怒りがわき上がってくる。


『貴様……この状況で、わしに勝てると言いたいのか?』


「無論だ。貴様は負ける。俺の眼が、そう言っている」


 その目が、イランクスは昔から気にくわなかった。


 自分に見えない何かを、遙かなる高みから見下ろしているような……そんな態度に、腹が立っていたのだ。


『殺す……! アクトぉ……! 殺してやるぅううううう!』


 たんっ……! と地面を蹴り、イランクスは素早く接近する。


 ドストエフスキーに、影の軍勢の力とともに、異形の体を与えられた。


 それは以前とは比べものにならないパワーとスピードを、彼にもたらしていた。


 筋肉で膨れ上がった、丸太のような腕で、アクトを殴りつける。


「遅い」


 だがアクトはその動きを見切り、半身をそらして、完璧に避けて見せた。

 

 すれ違いざまに、カウンターの拳をたたき込まれる。


『ぷげらぁあああああああああ!』


 ぐるんっ、と回転し、イランクスは地面に倒れる。


『ばかな……バカなあり得ない……なぜ……?』


 強くなったはずの自分。だがアクトは余裕で見切って見せた。


「【今】の貴様では俺に勝てない。抵抗するのはやめろ」


 すでにアクトは勝ちの未来が見えているようだった。


 さもありなん、町の方では影のモンスター達が、アクトの仲間達の手によって数を減らされている。


 全滅は時間の問題。


『ば、バカめ! まだわしには影巨人がいる……!』


 ドゴンッ! と激しい音とともに、イランクスの隣に、巨人の腕が落ちた。


『………………は?』


 見上げると、そこでは蹂躙劇が繰り広げられていた。


 巨大な氷の狼が、影の巨人の体にかみついている。


『ば、バカな!? ふぇ、フェンリル!? なぜあんな化け物がここに!?』


 巨人の腕がフェンリルを振り払おうとする。


 だが狼はその巨体ににあわない素早い動きでそれを回避する。


 空中で氷のブレスを発動させる。

 それは森の木々とともに、影巨人を一瞬で凍り付かせた。


『ありえない……! なんだこの高威力の氷ブレスは!?』


『消えなさい、愚かな敵対者よ』


 ぐるん、とフェンリルは空中で一回転し、尾で影巨人をたたきつける。


 巨人が粉々に砕け散る様を、イランクスは呆然と見つめる。


 フェンリルは空中で華奢なメイドへと変身した。


『クソメイドの正体がフェンリル……つまり、アクトは……伝説の魔獣を従えていた……ということか……』


 イランクスは、とてつもない敗北感を覚える。


 アクトは、数多くの仲間達に好かれ、フェンリルを配下に持ち、ギルマスとしての地位も名誉も持っている。


 自分にない全てを、彼は持っていた。


『たった数年で、なぜこれほどまでに差が広がってしまったんだ!?』


 するとフレデリカはにらみつけて言う。


「あなたは愚かです。差が広がるも何も、追放以前から、あなたとマスターとの間には、歴然とした実力の差があった。それに気づかず理不尽に追放するなんて」


「もう良い。時間の無駄だ」


 フレデリカを遮るようにして、アクトがイランクスに近づく。


「投降しろ。貴様の野望は今潰えた」


 アクトの手には通信用の魔法道具がある。

 街の防衛組からの連絡で、影のモンスター達は全て駆除されたらしい。


『ふ、ふはは……ふはははは! まだだぁ! 諦めるには、まだ早いぞぉ!』


 イランクスは鋭い爪を、自分の心臓にズブリ、と突き立てる。


 そこから、どす黒い血液がボタボタと垂れる。


『うおぉおおおおおおおお! アクトぉおおお! わしは……お前にぃ……! 勝つんだぁあああ!』


 その瞬間、イランクスの体は、さらなる異形へと進化していく。


「駆除します」

「下がってろ」


 アクトは一歩前に出て、フレデリカに言う。


「俺が幕を引く」

【※読者の皆様へ】


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― 新着の感想 ―
[気になる点] イランクス、前からずっと思ってたけどなんでフェンリルって分かってるのにずっと雑魚だと思ってるんですかね
[良い点] フェンリルとゴーレムの対立。 イランクスが影の私兵に話しかけ 応えを貰えないという描写と 主人公の仲間たちの心に溢れた奮闘の対比 [気になる点] この落ちぶれギルマスさん 1回屋敷に直談判…
[一言] イランクスさんは、メイドがフェンリルであるのを知っていましたよね?
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