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39.悪徳ギルドマスター、悪行の限りを尽くす④


 休暇を取った日の朝、俺の屋敷にて。

 朝食を取り終えて、食後のコーヒーを頼む。


「アクトさまっ!」


 やってきたのは、料理長の娘【リリ】。

 獣人族であり、母親共々、うちで働いている。


「コーヒーをお持ちしましたっ」

「ご苦労」


 リリがいそいそと俺の元へ駆けつけてくる。


「あっ……!」


 ガッ、とテーブルの脚にぶつかり、コーヒーカップが宙を舞う。

 音を立てて、カップが砕け散り、中身がぶちまけられた。


「何をしている、貴様。火傷したらどうするつもりだったのだ」


「うう……アクトさまにケガさせるところでした……ごめんなさい……」


 俺がリリに近づくと、怯えたように体を萎縮させる。


「ケガはないようだな」

「ふぇ……?」


「割れた破片は俺が片付ける。貴様はホウキと雑巾をもってこい」


 リリはポカン……とした表情で俺を見やる。


「アクトさま……おこってるんじゃないの……? リリがへましたから……」


「バカ言え。ミスは誰だってする。こんなことにいちいち目くじらは立てない。時間の無駄だ」


「でも……火傷したらどうするって」

「使用人の娘であるおまえの、綺麗な肌に火傷なんて残すわけにはいかないだろ」


 リリは顔を赤くして「きれいだなんて……」と何事かをつぶやく。


「早く掃除道具を持ってこい。時間の無駄だ」

「あ、は、はい! わかりましたー!」


 たたっ、とリリが走って去って行く。

 俺が破片を拾ってゴミ袋にいれて、リリが床掃除をする。


 そうしていると、料理長がやってきた。


「おかーさん!」

「アクト様、すまねぇ! アタシの娘が迷惑かけて!」


 料理長がペコペコと頭を下げる。


「何を言っている? そいつは迷惑などかけていない」


「けど……食器を割っちまったんだろ?」

「子供は失敗して当然だ。この程度のミス、勘定の内だ」


 目を丸くする料理長に、リリが言う。


「おかーさん、アクトさま優しいね!」


「ああ。寛容でご立派な方だ。けどねリリ、世の中みんなが、アクト様みたいに大人で素晴らしい人じゃあないんだ。今後は気をつけるようにね」


「うん! わかったよおかーさんっ!」

「よしよし、んじゃお手々あらってきな」


「はーい! アクトさま、ありがとー! だいすきー!」


 リリは走って食堂を出て行くのだった。


    ★


 午後、俺の元に弟子のユイがやってきた。


「こんにちはアクト様! 猫ちゃんのお世話に来ました!」


 俺は保護した動物たちに、ユイとともにエサをやる。


「ところでアクト様、今日はヤケにお屋敷が静かですけど、使用人の皆さんはどうしたんですか?」


 きょろきょろ、と周囲を見渡す。


「全員に暇を出して、屋敷から追い出した」

「え、ええ!? な、なんで……?」


「せっかくの休日だというのに、ヤツらがいたら気が休まらんからな。朝飯を作らせた後、今日明日と旅行に行かせた」


 ぽかんとした表情のユイ。


「え、えっと……クビにしたんじゃないんですか?」


「なぜクビにする? 俺は静かに休暇を楽しみたいだけだ」


 しかしあいつらときたら、俺が休暇と知ると、いつも以上に世話を焼きたがるからな。


 俺は自分の休暇を取るときは、毎回、使用人達を小旅行にいかせている。

 

「旅費は?」

「無論俺が出しているに決まっているだろ。あいつらを雇っているのは俺であって、こっちの都合で旅行へ行かせているのだからな……どうした?」


 ユイは苦笑しながら俺に言う。


「アクト様って、変わってますね。普通、使用人に旅行なんていかせませんよ。ほんとお優しいです」


「勘違いするな。ストレスをため込まれて、仕事のクオリティを下げて欲しくないだけだ。適度なガス抜きは必要だろ?」


「それは……まあそうなんですけど」


「ガス抜きと言えば貴様、有給休暇を全く取っていないようではないか。どう言うつもりだ?」


 え? とユイが目を丸くする。


「特に休んでまでする用事なんてありませんし」


「バカが。何のために年休を与えていると思っている。コンディションを整えるためだ。用事があるときには有給休暇を取れ」


 ギルド職員の年休は、一年に30日と決まっている。

 また、年休は60日までは繰り越せるが、それを超えると端数分はカットされてしまう。


「繰り越せなかった分が無駄になってしまうのだ。有給は貴様らに与えられた当然の権利。どんどん使え」

「で、でも……皆さんが働いているときに、休むのは申し訳ないというか」


「俺は貴様ら職員が今日、働いている中、休みを取っているが? なんだ、俺を批判しているのか?」

「い、いいえ! そんなつもりは決して……って、まさかアクト様」


「なんだ?」

「職員達が休みを取りやすいように、自ら率先して年休を取っている……んですか?」


「考えすぎだ。俺は休みたいときに休んでいるだけだ」


 俺は猫や犬にエサをやる。


「アクト様って……ほんと、変わってます」

「馬鹿にしてるのか?」


「いいえ。決して」


 ふふっ、とユイが笑う。


「おい貴様、そろそろ昼休みが終わるんじゃないか?」

「え……? あっ! ど、どうしよう……」


 慌てるユイに、俺が言う。


「ギルマス命令だ。このまま犬どもの世話を手伝え」

「え……?」


「これは俺の命令だ。午後は半休扱いで良い。申請は後で受理する。カトリーナが文句言ってきたら、俺に命令されたと言え」


 ぽかん……としていたユイだったが、笑顔でうなずく。


「はい! じゃあ、午後はお休みを取らせていただきます!」


 俺はユイとともに、犬どもを散歩させに行く。

 ユイは俺をジッと見ると、にこりと微笑んだ。


「どうした?」

「アクト様みたいな素敵なギルドマスターになりたいなと、改めて思っただけです」


 俺みたいなのを目指したいなんて、やれやれ、変わったヤツもいたものだな。 

【※読者の皆様へ】


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― 新着の感想 ―
[一言] ★★★★★だ! ふん、ヘソを曲げて更新しなくなっては効率が悪いからな! さぁ、気が済んだらとっとと帰って好きなだけ休むがいい!
[一言] (*ゝω・*)つ★★★★★
[良い点] 料理長の娘のリリさん、元気にしてましたね。 [気になる点] ユイさんが用事無いって言った直後に、用事がある時は有給使えってのはそこだけの会話としては成り立ってますが、前後のちゃんと休めって…
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