36.ローレンス勇者パーティの(宣伝)活動
ギルドマスター・アクトの住む国の、すぐとなり。
砂漠の国フォティアトゥーヤァ。
ウォズという漁港の街は今、【魔族】による襲撃を受けていた。
魚人型の魔族【カープキング】。
筋骨隆々の体に、真っ赤な鱗が特徴的だ。
『ぬはは! 弱い! 弱いぞ勇者パーティよ!』
漁港はカープキングによる襲撃を受けていた。
建物は壊れ、人々は血を流して倒れている。
フォティアトゥーヤァの勇者パーティは、カープキングひとりに全滅したところだ。
「くそ……なんて……強さだ……まるで歯が立たない……」
勇者とは、各国王から魔王を倒すために選ばれし存在。
どの勇者も非常に強く、最低でもSランク冒険者以上の実力は有している。
……フォティアトゥーヤァの勇者も、決して弱くはない。
だが……。
「まだ、やれる! おれはみんなを守る!」
『弱いな、貴様』
一瞬でカープキングの姿が消える。
気づけば勇者の真横にいて、顔面を掴まれると、一気に地面に押しつぶされる。
凄まじい衝撃とともに、勇者の頭部が破壊される。
地面はまるで巨象でも落ちてきたのかと錯覚するくらい、大きな穴ができていた。
「そんな……勇者様がやられるなんて……」
「……こんな化け物、勝てっこない……」
パーティメンバーたちは、みな絶望の表情を浮かべる。
『弱すぎるぞ人類。こんなものか……いや、私が強すぎるだけか』
カープキングが手を広げる。
空中に無数の水球が出現した。
『死ね』
高圧の水流が、無数の槍となって周囲に降り注ぐ。
それは石でできた建物も地面を容易く貫通し、あっという間に蜂の巣に変えてしまう。
絶え間なく続く破壊の音がピタリとやむ。
『これでこの街も仕舞いよ。勇者も実にあっけなかったな……む?』
そのとき、カープキングは気づく。
倒れ伏す街の人たちを、守るように、光の壁が出現していることに。
『なっ、なんだとっ? 私の【水流連射砲】を受けて無傷だと!? なんと強固な防御魔法……いったい誰だ!?』
杖を構えているのは、まるで女と見まがうほど、華奢な男の子だった。
「みんな、大丈夫! ぼくたちが……勇者パーティが来たから!」
『新手の勇者パーティの登場だと……なるほど』
彼の隣には、2名の男女が現れた。
銀髪の槍使い。
やんちゃそうな見た目の女弓使い。
「やぁやぁ我こそは勇者パーティが一番槍! ウルガー! 覚えておきたまえ魚くん?」
『調子に乗るなよ人間ごときがぁ……!』
パンッ! とカープキングは手を鳴らす。
すると、海から無数の卵が出現する。
それは数え切れないほどの、魚型モンスターへと変化する。
鋭い歯が特徴的な、【飛翔魚】。Aランクのモンスターだ。
『ゆけ眷属達よ……!』
飛翔魚たちが凄まじい速さで、勇者パーティのもとへ跳んでいく。
「ここはボクのショータイムさ!」
たっ……と銀髪の槍使いウルガーが迅雷のごとくスピードで翔る。
バチュンッ……! という音ととともに、あれだけいた飛翔魚が、一瞬で全滅した。
『なぁっ!? なんて速さ……!』
「ふっふーん、もっと驚いてくれてもいいんだよ君ぃ~?」
だが調子に乗っている隙に、カープキングが新たな眷属を召喚する。
顔をもたげたのは、水竜だ。
Sランクのドラゴンで、一見するとウミヘビのようであるが、しかしれっきとした竜種である。
『殺せ!』
氷のブレスを吐き出してくる。
「フッ……甘いよ君ぃ!」
ウルガーはブレスの直撃を受けても、しかしびくともしなかった。
『ば、バカな!? 竜種の氷ブレスを受けて、なぜびくともしない!?』
「それはボクのガールフレンド・イーライたんの結界魔法が強力だからさ! ね、イーライたん~♡」
魔法使いの少年が、戸惑いながら言う。
「えと……だからぼく女の子じゃないんですけど……」
「ちょっとウルガー。調子のってんじゃねーよ!」
弓を構え、ミードが矢を放つ。
それは流星のごとき威力とスピードを持って、水竜の土手っ腹を貫通させる。
「おいおいボクの活躍を取らないでおくれよ!」
カープキングは、信じられないものを見る目で、新たに現れた勇者パーティ達を見やる。
『なんだ……こいつらは……次元が、違いすぎる……』
魔族の召喚した強力な魚類型の眷属達を相手に、圧倒的な力の差を見せつける。
みるみるうちに、水竜をはじめとした眷属達は、数を減らしていった。
「もーおわりかい? たいしたことないねえ君ぃ!」
残るはカープキングただひとりとなった。
『調子に乗るなよ……槍使い!』
ダンッ……! とカープキングが素早い動きで接近する。
目で追える速さではない。
だがウルガーはその動きについてくる。
「くっ……! 一撃が重い……!」
カープキングの攻撃を捌いてはいるものの、致命傷を負わせるまではいかなかった。
『ふはは! どうしたこの程度かぁ!?』
拳を槍でガードするも、ウルガーは弾かれる。
「ちぃ……! なかなかやるようだねぇ」
『当たり前だ! 私は上級魔族! そこいらの雑魚魔族とは違うのだよ!』
だが、彼らに絶望の表情は見られない。
『なぜだ!? なぜそうも平然としていられる!? 上級魔族だぞ!?』
「だからなによ」「そうだ! ぼくたちには、まだ勇者がいるんだ!」
と、そのときだった。
「遅くなってスマナイ、みんな!」
街の奥から、金髪の大男が現れた。
その瞬間……ぞくり! とカープキングの背筋に、悪寒が走る。
本能が叫んでいた。
この男は今ここで、必ず始末せねばならないと。
「ケガ人の救助をルーナと済ませてきた! 街も、街人たちも全員無事だ!」
カープキングは、背後の街を見て愕然とする。
『ば、ばかなばかな!? あれだけ壊したはずの街が、どうして元通りになっているんだぁ……!?』
「ルーナ! 勇者の彼の治療を頼む!」
「わかったわ」
杖を持った少女が、頭を潰された勇者の死体の元へ向かう。
聖なる光が強く瞬くと、そこにいたのは、元通りになった勇者の姿だった。
「し、信じられない……お、おれは……生きてる、のか……?」
ルーナは安堵の吐息をつく。
『なんて凄まじい治癒力……まさか、聖女か貴様!?』
「別に、普通のヒーラーよ」
『そんなわけないだろっ……!』
「うむ! ルーナ! よくやったぞ!」
金髪の勇者が黄金の大剣を引き抜いて、カープキングに向かって悠然と歩いてくる。
「おれは勇者ローレンス! 今から君を倒させてもらおう!」
……ヤバいと彼は内心で動揺していた。
この勇者パーティのメンバー達は、みな規格外の強さ、能力を持つ。
そんな化け物揃いの連中のリーダーなのだ、当然、ローレンスという男の強さも、推して知るべし。
本能が、逃げろと警鐘を鳴らす。
だが同時に、ここでこいつを殺さねば、長たる魔王の最大の障害となり得ると。
「では、いざ尋常に……勝負!」
ローレンスは大剣を片手に、構えを取る。
『う、うわぁああああああ!』
カープキングは魔力で体を強化し、ローレンスに接近する。
ウルガーのとき以上に素早く、そして強力な拳をたたき込む。
『か、固い! なんて堅さ! まるで大木を殴っているようだ……!』
ローレンスは構えを取ったまま微塵も動かない。
補助魔法を使ってもらっている様子もない。
「ではさらばだ魔族よ!」
ローレンスは上段の構えから、大剣を振り下ろす。
黄金の魔力が斬撃とともに放出された。
それは凄まじいまでの破壊の光となって、一直線上に伸びていく。
光は雲を割り、海を引き裂く。
激しい光の奔流に飲まれ、カープキングの体はボロボロと崩れていく。
『上級魔族を、一撃で……これが……勇者ローレンス……なんという……強さ……』
光から一瞬遅れて、激しい爆音が周囲に響く。
水平線の彼方まで光は伸びていった。
真っ二つになった海。そこへ、海水がワンテンポ遅れて、なだれ込んでくる。
「ま、やるじゃないかローレンス。ボクには劣るけれどねっ!」
「うむ! そうだな! ウルガー! よく敵を引きつけてくれた! ありがとう!」
「ったく、調子狂うなぁ~もう」
そこへ、助けてもらった勇者達が、ペコペコと頭を下げる。
「ありがとう、ローレンスさん! あんたがいなかったら終わっていた! ありがとう!」
「ごめんなさい、他国の勇者であるあなたたちに、迷惑をかけて……」
ローレンスは首を振って、笑顔で言う。
「気にするな! 困っているものがいたら助ける! それが勇者だろうっ?」
フォティアトゥーヤァの勇者パーティは、ローレンス達に何度も頭を下げる。
「あ、あんたら凄いな……どうやったらそんなふうに強くなれるんだ?」
「それとも、最初からめちゃくちゃ強いの?」
ローレンス・パーティの強さに驚き、そしてその秘訣に興味を抱いた。
力強く首を振って、ローレンスは答える。
「おれは今こうして勇者をやっていられるのは、アクトさんに育ててもらえたからだぞ!」
「「アクトさん……?」」
「ああ! 冒険者ギルド【天与の原石】のギルドマスターだ! 彼が居なければ今のおれはいない!」
にわかには信じがたいものであったが、しかし、ローレンス達が圧倒的な力を持つことは事実。
「ぼくたち元は天与の原石のメンバーなんですよ」
「そう! アクトさんは、あたいたち弱者に手を差し伸べ、才能を伸ばしてくれるすげー人なんだぜ!」
ローレンスたち化け物を育てた、ギルドマスター・アクト。
「アクト・エイジ。一体、どんな凄い人なんだ?」
やがてアクトの噂は人から人へ、街から街へと、広がっていく。
このように、勇者ローレンスが各地で活躍することで、彼らを育てた天与の原石、ひいてはアクトの力の宣伝となるのだった。
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