表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/229

33.追放されたハーフエルフと愚かな王子【ドラニクス⑥】


 ミードが母親と再会して、しばらく経ったある日。


 エルフ国の王太子ドラニクスは、謁見の間にて、父親から叱責を受けていた。


「このバカものがぁああああああ!」


 国王にして父であるバラニクスは、愚息をにらみつける。


「各地で魔導人形が大暴走した! 貴様のせいでこちらは大損害を被ったぞ!? どうしてくれる!?」


 全国からクレームの嵐が来た。


・魔導人形が制御不能で大暴れした。

・【奇跡的に】死傷者が【なぜか】ゼロではあったものの、建物などが壊された。


・魔導人形は返品。

・賠償請求もされ、大赤字となってしまった。


「我が国の信用はがた落ち! その上こんな多額の借金まで抱えて……どうしてくれる!?」

「も、申し訳ございません……」


「謝って済む問題ではない! くそっ! バカ息子が! このくそくそくそ!」


 バラニクスに蹴飛ばされ、魔法の鞭で叩かれる。


「なにが完璧だ! 欠陥品を作りおって!」


 結局、魔導人形に重大な欠陥があると、報告書に目を通したのは全てが終わった後だった。


 だがドラニクスは不思議だった。


 人形達のパワーは、モンスターに匹敵するほど。

 それが暴走したのだ、死人が出ても何ら不思議ではない。


 しかし死者数ゼロ、ということに不自然さを覚えたが……しかし今となってはもう関係ない。


「まったく、貴様のせいで、わしの考えた魔導人形支配計画がパーではないか」

「魔導人形、支配計画……?」


「全国に人形達をばらまき、普及したところで、人形を操って世界を支配する計画よ」

「なんと……父上はそんなことをお考えになっておられたのですか?」


「ああ。だが制御できないのでは意味がない。まったくバカ息子め」


 父親は最初から、魔導人形を使った殲滅計画を温めていたのだ。ドラニクスは初めて知った。


 確かに兵器に転用すればこれほど有用な殺戮手段はないだろう。

 とは言え制御できなければ、世界を支配することはできない。


 ならば……! とドラニクスはそこに活路を見いだす。


「父上ぇ! ボクにもう一度チャンスをお与えください! 欠陥箇所はわかりました、なので今度は! 完璧な殺戮人形を作ることが可能であります!」


 このままでは全責任を負わされてしまう。

 ならば国王のご機嫌を取って、少しでも刑を軽くしようとしているのだ。


「ふぅむ……そうだな。確かにここで貴様を殺してしまうのは惜しい……しかたない。これが最後のチャンスだ。今度こそ、完璧な魔導人形を作るのだ」


「ええ! 必ずや! 父上の計画に役立つ、最強の兵器を作って見せます……そして世界を我らが手に入れましょう!」


 と、そのときだった。


「そこまでだ」


「!? 誰だァ……!?」


 バラニクスが周囲を見渡す。

 窓際には、黒髪の青年が立っていた。


「な、なんだ貴様は!?」

「俺はアクト。ただのギルドマスターだ」


 窓の奥には、巨大な氷の狼が、空中にたっている。


「さて、聞かせてもらったぞ。貴様らの悪巧みの全てをな」


 アクトはゆっくりと近づいてくる。

 ドラニクスは、目の前の脆弱な人間に……しかし、怯えて動けなくなる。


 そもそもエルフ国に人間が入れるわけがない。

 それにこの人に見られたくないタイミングにドンピシャで現れて見せた。


 この男……何者なのだ? と内心の動揺を隠しきれない。


「はぁ? 悪巧みぃ~? はて、何のことだろうなぁ?」

「とぼけるな。貴様ら小悪党の悪事など、俺には全部お見通しだ」


 パチン、と指を鳴らす。

 謁見の間の扉が開き、エルフの騎士達がなだれ込んできた。


「な、なんだ貴様らぁ!?」

「バラニクス! およびドラニクス! 先王殺害の罪、および国家転覆の罪で逮捕する!」


 エルフ騎士団長がそう言う。


「よくも……先王を殺してくれたな!」

「なっ!? なにをバカな! 証拠はあるのか証拠はぁ……!」


 するとアクトは、懐から足輪を取り出す。


「な、なんだそれは?」

「これは超小型の通信用魔道具だ。動物の足などにつけて、偵察などに役立つ。こんなふうにな」


 アクトの肩にカラスがとまる。


「あ、あのときのカラス……まさか!」


 以前、国王はドラニクスと、先王殺害のことを話していたことがある。

 その際、窓際に気配を感じたが、しかしカラスしか居なかったことがあった。


「しっかり、見させてもらってた。あんたの悪事も、あんたの未来もな」

「未来……? ま、まさか……魔導人形の暴走に、気づいていたのか貴様!?」


 ドラニクスが声を荒らげると、アクトは静かにうなずく。


「俺の目は未来を見通す特別製でな。通信魔道具を通じて、バカ王子の未来を見せてもらった。人形に欠陥があって暴走したこと。各地からリコール請求されることもな」


「全部……わかっていたのか……」


「ああ。だから利用させてもらった。ミードの母親探しにもな」


 アクトの説明は下記の通り。

・ミードの未来を見たところ、暴走人形を倒した街で、母親と再会したビジョンが見えた。

・だがどこの街か、詳しい情報はわからなかった。


・そこで、ドラニクスの未来から読み取った輸出国の各地に、冒険者を派遣。

・結果、街の被害は食い止められ、しかもミードは母親と再会できた。


「そうか……不自然なほど死者がでていなかったのは、貴様が……」


「ああ。そもそも各街の代表には避難勧告も含めて事前に話しをしておいた。もっとも、全てには信じてもらえなかったがな」


 しかし死者数はゼロ。

 さらに街の復興にかかる費用は、このエルフ国が賠償金を払うのでそれもゼロ。


「く、くそぉお! こうなったら……出てこい魔導人形!」


 壁をぶち破って、回収してきた大量の魔導人形達がなだれ込んでくる。


「なんだこの数は!?」

「くっ……! 太刀打ちできんぞ!」


 エルフ騎士たちは動揺する。


「ひゃーーはっはっはぁ! 終わりだ終わりだぁ! 暴れてしまえぇええ!」


 ドラニクスが狂ったように笑い、人形達を暴走させる。


「まったく、愚かな連中だ」


 アクトは懐からボタンのようなものを取り出す。

 それを押すと、魔導人形達が完全に動きを停止させた。


「なんだ……なんだなんだよそれはぁああああ!?」

「魔導人形の遠隔機動装置コントローラーだ」


「なぜ!? なぜ貴様がそんなものを!?」

「ここに来る前に、知り合いの優秀な魔道具師に作ってもらった。もっとも、完成したのはここへ来る直前だったがな」


 アクトは過去も見通し、魔導人形の設計図すらも見ていたのだ。

 それをリアに手渡し、コントローラーを作るように指示した次第。


 ……さて。


 魔導人形の主導権も取られ、先王を殺した証拠も、人形を使った計画もパー。


「すべて……貴様の、手のひらの上だったというのか……」


 愕然と……ドラニクスがつぶやく。


「そ、そもそも欠陥がわかっていたなら、どうしてあのとき止めなかった!?」


 未来を見た時点で、暴走は予期できていた。

 ならばそこで彼らを止めれば、大事には発展しなかっただろう。


「だろうな。だが、貴様らがバカやってくれたおかげで、貴様らは全てを失い、俺は全てが手に入った」


 暴走する魔導人形から、世界を救ったおかげで、ギルドとしての信用が上がった。

 ミードは母親や仲間達と再会できた。


 そして、魔導人形のコントローラーと、その設計図も手に入った。

 死者数はゼロ。街の被害も最小限。しかも賠償金はエルフ国が補填する。


 アクトの一人勝ちであった。

 一方で、ドラニクスたちは金も信用も、何もかもを失った。


 そして、先王を殺した罪で、逮捕される。


「このぉ……! 悪党めぇ!」


 殴りかかろうとするドラニクスだが、動きを見切ったアクトが、それをかわし、カウンターパンチをかます。


「そうだ。本物の悪党は、どんな手段を使っても、欲しいものをすべて手に入れる。最期に勉強になったな」

【※読者の皆様へ】


「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] イイネ、すっきり。出来過ぎ?
[気になる点] 予め魔導人形の欠陥を知っていたが、自分の利益のためにわざと放置していたという主人公の告白を、モブである大勢のエルフの騎士たちが聞いていること。
[一言] なんで、悪者は全員最後殴りかかるん? ルールでも、あるの?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ