32. 追放されたハーフエルフと愚かな王子【ドラニクス⑤】
アクトのギルド【天与の原石】に所属することになったミード。
ケンタウロスとの訓練を経て、彼女は今、ロザリア・パーティの一員となっていた。
彼女たちがいるのは、王国外のとある街にて。
「ぎ……ぎぎ……ぎー!」
町中で暴れているのは、魔力で動いている人形だ。
暴走する魔導人形たちを、冒険者パーティたちが対処している。
「くそっ、硬えぞこいつ!」
「強い! て、撤退だ!」
有象無象の冒険者達では、まるで歯が立たない相手。
「うぇえええん! おかあさーん!」
逃げ遅れた女の子が、転んで涙を流している。
そこへ、魔導人形が襲いかかる。
バスッ……! と魔導人形の核を、何かが正確に射貫いた。
「え……?」
「おい、だいじょぶかっ?」
バサッ、と降りてきたのは、ハーフエルフの少女・ミードだ。
「ケガないな?」
「う、うん……」
そこへ別の魔導人形達が、複数体押し寄せてくる。
だがミードは焦ることなく冷静に、連続してコアを射貫いた。
「おねえちゃん……すっごい……」
短弓を片手にたつ彼女は、まるで歴戦の戦士のようなたたずまいをしていた。
「おかーちゃんとおとーちゃんはどこにいるんだ?」
「わからないのぉ~……」
「迷子か……。名前教えて」
「レナ」
ミードは目を閉じて耳を澄ます。
そして、うなずく。
「いくよ、走れるな?」
「う、うん……!」
レナを連れて町中を走る。
進路に迷いはなく、街の奥へと進んでいく。
裏路地へと到着。
「レナ!」
「おかーちゃーん!」
親子は涙を流しながら、再会を果たす。
「良かったな、レナ」
ニカッと笑うミードに、子供は笑顔で言う。
「ありがとーおねえちゃん!」
「おうよ。もうかーちゃんとはぐれんじゃねーぞ」
「うんっ!」
そのときだった。
路地の前後を、魔導人形で挟み撃ちにされたのだ。
前後、そして上にも魔導人形の気配があった。
ミードは親子を守るようにして立つ。
「おねえちゃん……どうしよう……」
「安心しな。うちにはすげーひとたちがいっぱいいっから」
バッ……! と屋根上から剣士が飛び降りてくる。
「ごめんなさい、遅くなりましたわ!」
「いいや、だいじょうぶさ姐さん!」
赤い髪の美女、剣士ロザリアが到着したのだ。
ロザリアは疾風のごとく走りぬけ、魔導人形達を、まるでバターのように切り伏せていく。
ミードの支援もあり、あれだけいた魔導人形が瞬く間に全滅した。
「ありがとうございます! なんとお礼を言っていいものやら……」
レナの母親が何度も何度も、ミード達に頭を下げる。
「お気になさらないでくださいまし」
「じゃあなレナ。もう泣くんじゃねーぞ」
くしゃり、とミードがレナの頭をなでる。
「うん! ばいばい!」
ミードたちはその後も、街の冒険者達と協力し、魔導人形を討伐し終えた。
その日の夜、宿屋にて。
「姐さん、最近よくあの暴走魔導人形みかけますよね」
「そうですわね。核を壊さない限り、魔力が切れるまで暴れるのはかなり厄介ですわ」
ふぅ……とため息をつく。
「ところで、ミードのほうは、お母様の情報はありましたの?」
「いいや……さっぱり。つってもまだこの街に来たばっかだしさ。もうちょい粘りたい」
「構いませんわ。ギルマスからの依頼は、別に急ぎじゃないですし」
ギルドから命じられたのは、この街の付近で見つかる薬草を採ってこいというものだった。
クエストにかかる費用は全部ギルドが出してくれる。
「姐さん……前から気になってたんだけど、なんか国外の、こういう依頼多くないかい?」
修行を終えた後、アクトはミードを、彼女のパーティに入れた。
ロザリアたちはギルドナンバーワンのパーティ。
国内外での依頼は多いが、ここまで国外での仕事が重なるのは珍しい。
「ふふ……本当はもう気づいてるのでしょう? ギルマスの優しさに」
「うん……」
国外の依頼という名目があれば、行き帰りの旅費がギルドから出る。
さらに数日かかる依頼なら、その間での滞在費は、経費として計上してもらえる。
各地へ赴き、別れてしまった母を探す。
それがミードの目標。
アクトはそれを、クエストに向かわすという名目でサポートしているのだ。
「おかしいよ。普通、ギルマスってそこまで親身にしてくれないって聞くよ?」
「そうですわね。けど……あの人は特別です。わたくしたちギルメンの幸せを、第一に考えてくれるんですわ」
ロザリアは顔を赤らめ、目を潤ませていう。
「あ、姐さんもしかして、ギルマスのこと好きなの?」
「うふふ……♡ さぁ、どうかしら?」
「き、気になるんじゃんおしえてくれよ」
「では、ミードちゃんはどうですの?」
「あ、あたいは……その、感謝してるよ! めちゃくちゃね。うん……そんだけだよ……って、なんだよ姐さんそのわかってますみたいな顔!」
「あらあら、うふふ……♡」
と、そのときだった。
コンコン、と部屋のドアがノックされた。
「はい……あら? 貴女は先ほどの」
「レナのかーちゃんじゃん。どうしたの?」
レナの母親は、ミードに深々と頭を下げる。
「わたしはこの宿の女将をやっております」
「そうなんだ。それで?」
「実は……」
女将からの情報を聞き、ミードは夜道を走る。
「はぁ……! はぁ……! はぁ……! はぁ……!」
はやる気持ちを抑えながら、ミードは全力疾走する。
『わたしは女将をやっているので、よく人のウワサを耳にするんです。この街の貧民街の一角に、ハーフエルフの難民がいると聞きました』
女将からの情報を頼りに、貧民街へと向かう。
ここはかなり大きな街だ。
それに建物が密集している上に、道が血管のように大量にかつ複雑に絡み合っている。
街に詳しい彼女からの情報がなければ、迷ってたどり着けなかっただろう……。
「かあちゃん! かあちゃーん!」
やがて貧民街へとたどり着く。
「かあちゃん……」
「ミード!」
振り返ると、そこにいたのは、仲間のハーフエルフだった。
「おっちゃん!」
「ミード! 良かった! 無事だったのだな!?」
ミードは再会を喜び、仲間に抱きつく。
「そうだ! かあちゃんは!?」
「安心しろ。ミシェーラさんは無事さ」
仲間に案内してもらい、貧民街の掘っ立て小屋までやってくる。
「ミード……」
薄暗い室内の、布団に横たわっていたのは……母ミシェーラだった。
「かあ……ちゃん」
ぽたぽた……とミードは涙を流す。
「うぐ……ぐす……うわぁあああああああん!」
ミードは駆けつけて、母の胸に抱きつく。
「かあちゃん!」
「ミード! ああミード!」
ふたりは再会のうれしさで涙を流しながら、抱きしめる。
「ごめんなさいミード。辛い思いをさせてしまって……」
「ううん、へーき! 優しいギルマスに助けてもらったんだ!」
ミードはギルマスに対して、深く感謝する。
自分の窮地を救ってくれただけでなく、母を探す最大限のサポートまでしてくれたのだから。
かくして、ミードは念願だった母と再会することができたのだった。
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