★31.追放されたハーフエルフと愚かな王子【ドラニクス④】
アクトのギルド所属となり、ミードが着実に力を付けている一方その頃。
彼女を追放した王太子ドラニクスは、窮地に立たされ、焦っていた。
「ギャァオオオオス!」「ゴギャアアアア!」「ギャギャアアアス!」
王都の空を、複数の飛竜たちが、無秩序に飛び回っている。
その竜たちは、国の竜騎士団が所有するものだ。
「やめろ! おいどうした!? 言うことを聞け! 聞くんだ!」
騎士たちが総出で、飛竜を止めようとする。
だが竜たちは建物の壁を破壊し、人を襲い、王都に甚大な被害を及ぼす。
「何がどうなっているんだ……?」
呆然とするドラニクスに、国民が気づいて言う。
「殿下! これはどうなってるんです!?」
「なぜ飛竜たちが暴れているのですか!? まさか国が命じたのですか!?」
「ち、ちがう! 飛竜が勝手に暴れてるだけだ! わ、我々は一切関係ない!」
すると近くで聞いていた国民たちが、王太子に気づいて、詰め寄って来る。
「おれの家が壊れたぞ! どうしてくれる!?」
「うちの子がケガしたわよ!」
皆が口々に、ドラニクスに不満をぶつけてくる。
鬼気迫る表情だ。
無理もない、住処や大切な人を、理不尽に傷つけられた。
その原因となっているのが、国の所有するドラゴンたち。
当然、管理者として責任を問われる。
「ええい黙れ! おい竜騎士ども! さっさと飛竜をどうにかしろ!」
「どうにかと言われても、相手は空を飛んでますし……それに殺すわけにも……」
運搬、偵察、防衛など、飛竜は国にとって貴重な存在だ。
殺すわけにはいかない。
「殿下! 家を!」「医師を派遣してくれ!」「あの竜をどうにかしてくれ!」
「「「殿下!」」」
「ぐ、く、くそ! どうしてこうなった!?」
……結局、眠りの魔法を使うことで、飛竜を無理やり沈静させた。
飛び回るドラゴンたちへ魔法を当てることに難儀した結果、王都は甚大な被害を負った。
さて。
ドラニクスは、謁見の間に呼び出され、父である国王から叱責されていた。
「このバカ息子め!」
声を荒らげられ、ドラニクスは委縮する。
「こたびの飛竜暴走は、貴様のせいだぞ!」
「ど、どういうことですか……?」
臣下の報告によると、どうやら魔導人形が導入された日から、竜の調子がおかしくなっていったらしい。
「詳しい理屈は分からんが、今まで飛竜が暴れることなんて一度もなかったのだ! 原因は貴様の作った人形にあるのは明白だろ!」
「そ、そんな……きちんと原因も調べてないのにボクのせいにされても……」
「黙れ! このわしに口答えするのか!?」
ようするに国王は、責任を息子に擦り付けようとしているのだ。
もっとも暴動の原因は、国王の言う通り魔導人形にあった。
竜は生き物であるため、繊細かつ柔軟な飼育管理が要求される。
だがドラニクスの作った魔導人形では、そこまでの管理が行えなかった。
結果、血の通っていない飼育方法に不満を爆発させ、竜たちは大暴れした次第。
「王都の被害も甚大だ。壊れた家を返せ返せと愚民どもはうるさいし、そのうえ慰謝料を払えという! 全部貴様がどうにかしろよ! でなければ王位継承権を剥奪するからな!」
くそっ! とドラニクスは内心で舌打ちをする。
自分の作った完璧な魔導人形のせいにされることが、心から悔しかった。
間違いなど起こるはずもないのに! と心の中の不満を、ぐっとこらえる。
まずは、目先の問題を解決しなければいけない。
「では、こうしましょう父上。復興用の魔導人形を増産します。それで王都の壊れた建物を直させましょう。賠償金については、魔導人形を国外輸出してもうけた金があります。それで補填すればよいかと」
すでにドラニクスの作った魔導人形は、他国へと輸出されていた。
便利に動く魔導の奴隷を、多くの国が、うちにもほしいとドラニクスへ言ってきたのだ。
「なるほど……ふん。まあいい。今回はそういうことにして赦してやる」
「ハッ! ありがたき幸せ」
「だが次また問題を起こしてみろ? あのデク人形もろとも、貴様を王都から放り出してやるからな!」
「……ご安心ください。もう問題など起きません。ボクの作った魔導人形は、完璧なのだから」
謁見の間を出たドラニクスは、歯ぎしりしながら、工房へと向かう。
魔導人形の生産工房では、ドラニクス考案の魔導人形が作られていた。
「おい、作業員を全員集めろ。大至急だ!」
ドラニクスは補佐官にそう命じる。
ややあって、集まった作業員たちに、ドラニクスは言う。
「魔導人形の生産ペースを上げろ。これは急務だ!」
すると作業員たちが困惑顔でお互いを見て、恐る恐る手をあげる。
「で、殿下……無茶です。ただでさえ国外輸出用の魔導人形を作るため、生産ラインをフル稼働してるんです」
「これ以上の増産はキャパ的に無理かと……」
もっともな意見だが、追い詰められているドラニクスは、そんなものを受け入れる余裕はなかった。
「今の二人、もう出ていっていいぞ」
「そ、そんな……!」「どうして!?」
「このボクに口答えしたからだ! いいかよく聞け! 今日より貴様らは家に帰ることも寝ることも禁ずる! 魔導人形を作って作って作りまくれ!」
あまりに無茶な要求だった。
当然……。
「ふざけんな!」
不満の声が上がる。
エルフたちは怒りの表情を浮かべていた。
「こっちはあんたの無茶ぶりに応えようと必死だったんだぞ! それをなんだ!? おれたちはあんたの奴隷か!?」
「な、なんだ……王太子であるボクに口応えとはいい度胸だ! 貴様らをクビにすることなんて容易いんだぞ!? いいのか!?」
すると、作業員エルフたちは、みなこういう。
「ああいいさ、やめてやる!」
エルフたちはぞろぞろと、工房を出て行く。
一人二人どころではない、全員だ。
「なっ!? ちょ、ちょっと待て! なんでそうなる!?」
ドラニクスは出て行こうとするエルフを、引き留めようとする。
「うるさい! だいいち、こんな雑務、ハーフエルフにやらせればいいだろ!?」
「なんで誇り高きエルフの私たちが、こんな奴隷のような扱いを受けなければいけない!」
もともと、こういう雑事はすべてハーフエルフにやらせていた。
追放後、人手がたりずに、王宮で働いていたエルフたちを、無理やり働かせていたのだ。
だがドラニクスが、彼らを物のように雑に扱ったせいで、不満が爆発。
……飛竜の時と、まったく同じ失敗をしていた。
「ふ、ふん! ば、馬鹿どもめ! いいさ、貴様らなんぞいなくても、ボクには魔導人形がある!」
魔導人形の生産を、魔導人形にやらせる。
……これが悪手であることに、彼は気づいていない。
「そうさ、ボクの作った魔導人形は完璧なんだ! どこにもほころびのない、稀代の大発明なんだ! ボクは間違ってない、ボクは正しいんだ!」
……だが、ドラニクスは気づいていない。
彼の執務机に、【緊急】と書かれた、報告書類が置いてあることに。
そこには端的にいうと『魔導人形に重大な欠陥が発見された』と書かれていた。
だがドラニクスはそれどころではなかったので、報告書類に目を通さなかった。
かくして欠陥が修正されないまま、魔導人形が増産され、国内外問わずに、輸出されることとなった。
その結果、どうなるのかは明白。
今度は魔導人形たちが、暴走を始めるのだった。
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