03.悪徳ギルドマスター、セクハラ課長を懲らしめる
【知り合い】にアポイントを取り、城内にある魔術師団の詰め所へとやってきた。
ヨーコを引き連れて部屋に入ると、彼女にセクハラした課長が、椅子にふんぞり返っていた。
「初めまして、俺は【天与の原石】のギルドマスター、アクト・エイジです。お時間を取らせてすみません」
課長は俺を見て、フンッ……! と鼻を鳴らす。
「まったくだ! 平民の分際で、貴族であるわしの貴重な時間を取らせよって!」
「では手短に。課長さん……あんた、うちの元構成員にセクハラしたんだってな?」
ギルドを出たからといって、彼女は大事に育てた俺の部下だ。
彼女の心に深い傷を負わせたこの男を、俺は決して許さない。
「覚えがないなぁ。そういう証拠はあるのかね?」
「なっ!? 証拠も何も、あなたがやったんでしょ!?」
「物的な証拠がなければ、なんとでも話をでっちあげられるもんなぁ、若いギルドマスターくん」
「全くもってその通りだな」
「だろぉ? さて、部外者はとっとと帰りたまえ。ヨーコ君は残るように。仕事のことで話がある。マンツーマンでじっくりと……ぐひゃひゃひゃ」
気色の悪い笑みを浮かべる課長を見て、俺はクロだと確信する。
怯えた表情でヨーコが俺を見てくる。
「安心してください。マスターに任せれば全て解決です」
後ろで控えていたフレデリカが、ヨーコをかばうようにして、前に立つ。
俺は右手で、右目を覆う。
「見せてやるよ。S級鑑定眼の、真の実力を」
カッ……! と右目が光り輝く。
俺たちの目の前に、ヨーコの映像が映し出されていた。
「これは……わたし?」
「そう、この部屋の過去の映像です」
ヨーコに近づいてきた課長は、彼女の尻や胸を無遠慮に触る。
「なんだこの力は!?」
「俺の鑑定眼の能力だ。左目は、未来を見通し、秘められた可能性を見抜く。そして右目は、秘められし過去を読み取る」
「未来に……過去……ま、まさか! 貴様のその鑑定眼は! 【時王の眼】! 過去から未来、すべてを見通す、Sランク鑑定眼だとぉ!?」
宮廷魔術師なだけあって、俺の持つ眼の正体に気づいていたらしい。
「あ、ありえん! そんなレアな眼をもつものなど……ここ数世紀あらわれなかったはず!? それが、こんな平民のガキにどうして!?」
「おまえには関係ないな。……さて、これを証拠に提出すれば、宮廷内での地位は、どうなるかな?」
「く、くくく……! しかしなぁ……! その証拠も、今貴様が死ねば何も問題なかろうなぁ……!」
バッ……! と課長が俺に右手を向けてくる。
「フレデリカ」
「御意」
目にもとまらぬ早さで、フレデリカが俺の前に移動。
懐からナイフを取り出し、一閃させる。
ガキンッ……! と金属同士がぶつかり合う音。
「そ、そんなバカな!? 無詠唱の風魔法を見切って、ナイフで切っただとぉ!?」
フレデリカはそのまま課長を拘束し、地面に押し倒す。
「ありえん! 無詠唱故に攻撃のモーションはわからず、しかも風の刃を眼で捉えられるはずはないのに……!」
「俺の目には全てが見えていたよ」
未来をも見通せるこの鑑定眼を使えば、攻撃のタイミングや着弾地点を予知できる。
ドスのきいた声で、フレデリカが言う。
「……よくも大事なマスターを、殺そうとしたな。八つ裂きにしてくれようか」
「やめろ。時間と魔力の無駄だ。さて……課長さんよ」
俺は彼の前にしゃがみ込む。
「俺も鬼じゃない。なにより部外者だ。きちんとヨーコに謝罪し、二度とこんなことしないと約束できるのなら、証拠はなかったこととしてもいい」
「ほ、本当か?」
「ああ、どうする?」
俺はフレデリカに拘束を解くよう命じる。
課長はヨーコの前で土下座をする。
「も、申し訳なかった! 出来心だったんだ! 本当にスマナイ!」
「では、罪を認めるんだな?」
「ああ! わしがやった! だがもう二度とやらないと誓う! 本当だ……!」
ヨーコはあまり納得のいってないような顔になる。
「釈然としないか?」
「え、ええ……」
「安心しろ。これで終わりな訳がない。なぁそうだろ、【エドワード】?」
がちゃりとドアが開き、入ってきたのは、若獅子を彷彿とさせる青年だった。
「え、エドワード王太子殿下ぁ!?」
この国の第一王子、エドワードがやってきた。
俺の前まで来ると、ぺこりと頭を下げる。
「お久しぶりです、アクトさん」
「なぁっ!? 王太子殿下が、たかが平民のガキごときに頭を下げただとぉお……!?」
「昔ちょっとな。さて、エドワード、聞いてたか?」
「ええ、しっかりと」
王太子は這いつくばる課長を、塵を見るような目で見る。
「宮廷に仕える貴族として、恥を知れ……!」
「こ、これは違うんですぅ~……」
「何が違うんだ? 証拠もそろっている。何より貴様が自ら罪を白状した。厳重な処分が下ることは覚悟しておくのだな……!」
「そ、そんなぁ……勘弁してください……たかが平民の女の尻を触ったくらいで、ご無体なぁ~……」
だがエドワードの怒りが収まることはなかった。
「平民も貴族も等しくこの国に生きる民草だ。違いなど無い。そんなこともわからぬ貴様に、貴族の地位は無用の長物のようだな」
「そ、そんなぁ……! 殿下! 考え直してください、殿下! 殿下ぁああああああああ!」
★
後日、ギルド【天与の原石】の執務室にて。
「アクトさん! お久しぶりです!」
ヨーコが元気な姿を、俺に見せに来た。
「すみません、お時間取らせてしまって」
「気にするな。それより経過報告を」
宮廷魔術師団の課長はクビになって、しかも貴族の地位を剥奪されたそうだ。
厳しすぎる罰な気がするだろう。
しかし被害に遭った女性はヨーコだけではなく、かなりの数が居た。
その後相当数の余罪が明るみになり、課長は懲戒処分となった次第。
「新しく課長のポストについたかたが、とてもいい人で、今は楽しく仕事しています!」
「そうか。よかったな」
「はいっ! これもすべてアクトさんのおかげです! 本当にお世話になりました!」
バッ……! と彼女が頭を下げる。
「それでその……ギルマス。ここに復帰する件なんですけど……」
前に一度、俺のもとへ帰ってきたいといった手前、言い出しにくそうだった。
「良いからさっさと出て行け。時間の無駄だ」
「……いいんですか?」
「いいもなにも、貴様はもううちのギルドの人間じゃない。とっとと自分の職場に戻るんだな」
彼女は目に涙をためて、90度、腰を折って言う。
「このご恩、一生忘れません! ぜったいぜったい! 何百倍にして返します!」
「そうか。期待してるぞ」
「はいっ! 失礼しましたっ!」
ヨーコは何度も頭を下げると、部屋から出て行った。
「さすがですね、マスター」
今まで黙っていたフレデリカが、俺のそばまでやってくる。
「問題を解決しただけでなく、次期・宮廷魔術師団長、最有力候補との、太いパイプと貸しを作ってしまうとは。見上げた悪徳ギルマスっぷりです」
「……しかし解せんな。俺は当然のことをしただけなのに、なぜ感謝されるんだ?」
フレデリカはきょとん、と目を点にした後……ふっ……と微笑む。
「ほんと、たいした悪徳ギルドマスターですこと」
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