表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/229

03.悪徳ギルドマスター、セクハラ課長を懲らしめる

【知り合い】にアポイントを取り、城内にある魔術師団の詰め所へとやってきた。


 ヨーコを引き連れて部屋に入ると、彼女にセクハラした課長が、椅子にふんぞり返っていた。


「初めまして、俺は【天与の原石】のギルドマスター、アクト・エイジです。お時間を取らせてすみません」


 課長は俺を見て、フンッ……! と鼻を鳴らす。


「まったくだ! 平民の分際で、貴族であるわしの貴重な時間を取らせよって!」

「では手短に。課長さん……あんた、うちの元構成員にセクハラしたんだってな?」


 ギルドを出たからといって、彼女は大事に育てた俺の部下だ。

 彼女の心に深い傷を負わせたこの男を、俺は決して許さない。


「覚えがないなぁ。そういう証拠はあるのかね?」

「なっ!? 証拠も何も、あなたがやったんでしょ!?」


「物的な証拠がなければ、なんとでも話をでっちあげられるもんなぁ、若いギルドマスターくん」

「全くもってその通りだな」


「だろぉ? さて、部外者はとっとと帰りたまえ。ヨーコ君は残るように。仕事のことで話がある。マンツーマンでじっくりと……ぐひゃひゃひゃ」


 気色の悪い笑みを浮かべる課長を見て、俺はクロだと確信する。


 怯えた表情でヨーコが俺を見てくる。


「安心してください。マスターに任せれば全て解決です」


 後ろで控えていたフレデリカが、ヨーコをかばうようにして、前に立つ。


 俺は右手で、右目を覆う。


「見せてやるよ。S級鑑定眼の、真の実力を」


 カッ……! と右目が光り輝く。

 俺たちの目の前に、ヨーコの映像が映し出されていた。


「これは……わたし?」

「そう、この部屋の過去の映像です」


 ヨーコに近づいてきた課長は、彼女の尻や胸を無遠慮に触る。


「なんだこの力は!?」

「俺の鑑定眼の能力だ。左目は、未来を見通し、秘められた可能性を見抜く。そして右目は、秘められし過去を読み取る」


「未来に……過去……ま、まさか! 貴様のその鑑定眼は! 【時王の眼】! 過去から未来、すべてを見通す、Sランク鑑定眼だとぉ!?」


 宮廷魔術師なだけあって、俺の持つ眼の正体に気づいていたらしい。


「あ、ありえん! そんなレアな眼をもつものなど……ここ数世紀あらわれなかったはず!? それが、こんな平民のガキにどうして!?」


「おまえには関係ないな。……さて、これを証拠に提出すれば、宮廷内での地位は、どうなるかな?」


「く、くくく……! しかしなぁ……! その証拠も、今貴様が死ねば何も問題なかろうなぁ……!」


 バッ……! と課長が俺に右手を向けてくる。


「フレデリカ」

「御意」


 目にもとまらぬ早さで、フレデリカが俺の前に移動。


 懐からナイフを取り出し、一閃させる。

 ガキンッ……! と金属同士がぶつかり合う音。


「そ、そんなバカな!? 無詠唱の風魔法を見切って、ナイフで切っただとぉ!?」


 フレデリカはそのまま課長を拘束し、地面に押し倒す。


「ありえん! 無詠唱故に攻撃のモーションはわからず、しかも風の刃を眼で捉えられるはずはないのに……!」


「俺の目には全てが見えていたよ」


 未来をも見通せるこの鑑定眼を使えば、攻撃のタイミングや着弾地点を予知できる。


 ドスのきいた声で、フレデリカが言う。


「……よくも大事なマスターを、殺そうとしたな。八つ裂きにしてくれようか」

「やめろ。時間と魔力の無駄だ。さて……課長さんよ」


 俺は彼の前にしゃがみ込む。


「俺も鬼じゃない。なにより部外者だ。きちんとヨーコに謝罪し、二度とこんなことしないと約束できるのなら、証拠はなかったこととしてもいい」


「ほ、本当か?」

「ああ、どうする?」


 俺はフレデリカに拘束を解くよう命じる。

 課長はヨーコの前で土下座をする。


「も、申し訳なかった! 出来心だったんだ! 本当にスマナイ!」


「では、罪を認めるんだな?」

「ああ! わしがやった! だがもう二度とやらないと誓う! 本当だ……!」


 ヨーコはあまり納得のいってないような顔になる。


「釈然としないか?」

「え、ええ……」


「安心しろ。これで終わりな訳がない。なぁそうだろ、【エドワード】?」


 がちゃりとドアが開き、入ってきたのは、若獅子を彷彿とさせる青年だった。


「え、エドワード王太子殿下ぁ!?」


 この国の第一王子、エドワードがやってきた。

 俺の前まで来ると、ぺこりと頭を下げる。


「お久しぶりです、アクトさん」

「なぁっ!? 王太子殿下が、たかが平民のガキごときに頭を下げただとぉお……!?」


「昔ちょっとな。さて、エドワード、聞いてたか?」

「ええ、しっかりと」


 王太子は這いつくばる課長を、塵を見るような目で見る。


「宮廷に仕える貴族として、恥を知れ……!」

「こ、これは違うんですぅ~……」


「何が違うんだ? 証拠もそろっている。何より貴様が自ら罪を白状した。厳重な処分が下ることは覚悟しておくのだな……!」


「そ、そんなぁ……勘弁してください……たかが平民の女の尻を触ったくらいで、ご無体なぁ~……」


 だがエドワードの怒りが収まることはなかった。


「平民も貴族も等しくこの国に生きる民草だ。違いなど無い。そんなこともわからぬ貴様に、貴族の地位は無用の長物のようだな」


「そ、そんなぁ……! 殿下! 考え直してください、殿下! 殿下ぁああああああああ!」


    ★


 後日、ギルド【天与の原石】の執務室にて。


「アクトさん! お久しぶりです!」


 ヨーコが元気な姿を、俺に見せに来た。


「すみません、お時間取らせてしまって」

「気にするな。それより経過報告を」


 宮廷魔術師団の課長はクビになって、しかも貴族の地位を剥奪されたそうだ。


 厳しすぎる罰な気がするだろう。

 しかし被害に遭った女性はヨーコだけではなく、かなりの数が居た。


 その後相当数の余罪が明るみになり、課長は懲戒処分となった次第。


「新しく課長のポストについたかたが、とてもいい人で、今は楽しく仕事しています!」


「そうか。よかったな」


「はいっ! これもすべてアクトさんのおかげです! 本当にお世話になりました!」


 バッ……! と彼女が頭を下げる。

 

「それでその……ギルマス。ここに復帰する件なんですけど……」


 前に一度、俺のもとへ帰ってきたいといった手前、言い出しにくそうだった。


「良いからさっさと出て行け。時間の無駄だ」

「……いいんですか?」


「いいもなにも、貴様はもううちのギルドの人間じゃない。とっとと自分の職場に戻るんだな」


 彼女は目に涙をためて、90度、腰を折って言う。


「このご恩、一生忘れません! ぜったいぜったい! 何百倍にして返します!」


「そうか。期待してるぞ」

「はいっ! 失礼しましたっ!」


 ヨーコは何度も頭を下げると、部屋から出て行った。


「さすがですね、マスター」


 今まで黙っていたフレデリカが、俺のそばまでやってくる。


「問題を解決しただけでなく、次期・宮廷魔術師団長、最有力候補との、太いパイプと貸しを作ってしまうとは。見上げた悪徳ギルマスっぷりです」


「……しかし解せんな。俺は当然のことをしただけなのに、なぜ感謝されるんだ?」


 フレデリカはきょとん、と目を点にした後……ふっ……と微笑む。


「ほんと、たいした悪徳ギルドマスターですこと」

【※読者の皆様へ】


「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「未来に……過去……ま、まさか! 貴様のその鑑定眼は! 【時王の眼】! 過去から未来、すべてを見通す、Sランク鑑定眼だとぉ!?」 この説明台詞があるなら上の 見せてやるよ。S級鑑定眼の…
[一言] 民草の使い方に違和感があるなーw これって、中国や日本独自の言い方だし、「ん?」ってなる。格好つけた言い回しを考えたんだろうが、逆におかしい。しかも意味すらたぶんわかってないんじゃね?って思…
[良い点] 悪役がぐひゃひゃと笑うの好きです~ [気になる点] こまけーですが、たぶん貴族は民草ではないですよ~。 民という字の意味でも貴族-平民という社会構造上でも。両方をまとめるなら臣民あたりが妥…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ