28.追放されたハーフエルフと愚かな王子【ドラニクス①】
ギルドマスター・アクトの住む世界には、数多くの国が存在する。
その中の一つ、エルフが治める小国があった。
少女・【ミード】は、その国の馬屋で働いていた。
だが、ミード達のまえに【王太子ドラニクス】が現れて、こう言ったのだ。
「貴様らは、今日をもって全員クビにする」
ドラニクスは、ミード達を見回して言う。
「そ、そんな……! どうしてあたい達がクビになるんだよっ!」
ミードは果敢にも、ドラニクスにくってかかる。
だが近衛騎士が近づいてきて、ドンッ……! とミードの腹を蹴る。
「きゃっ! なにすんだっ!」
「黙れ、【穢れた血】め! 誇り高き純血種であるドラニクス王太子殿下に近寄るな!」
ドラニクスはミードを小馬鹿にするように、見下していう。
「良いか穢れた血……つまりハーフエルフども、よーく聞け。先日、国王が代替わりしたことは、無知で愚かな貴様らも知っているな?」
ミード達はうなずく。
先王が崩御されて、数ヶ月が経っていた。
「王位は先王の弟である、我が父バラニクス様が継いだ」
先王と違い、バラニクスは徹底した純血主義者だ。
ゆえに、ハーフエルフたちの存在が許せないのだろう。
「父の決定を貴様らに伝える。ハーフエルフは皆、この国を今日中に出て行くこと」
「「「なっ!?」」」
ミードを始めとした、ハーフエルフ達が目を剥いて叫ぶ。
「そ、そんな!」「ひどいわ……!」「これからおいらたちどうすればいいんですか?」
だがドラニクス王太子はフンッ、と鼻を鳴らしていう。
「知るもんか。どこへなりとも立ち去るがよい。それを拒むのなら……ここで打ち首にしてもよいのだぞ?」
シャラ……と近衛兵士たちが魔杖剣を抜く。
純血のエルフは、ハーフエルフ以上の魔法力を持っている。
彼らが本気を出せば、一瞬でハーフエルフは消し炭になってしまうだろう。
震える仲間達をよそに、ミードは前に出ていう。
「ふざけるな! そんな理不尽、とおるわけねーだろ!」
「王太子に向かって、なんだその口の利き方は……?」
「うっせー! あたいらが穢れた血だと? ざっけんな! きちんと森人の血があたいらにも流れてるんだっ! 先王様だって、仲間だって言ってくれたんだっ」
先王は現国王バラニクスと違い、広い心を持った王だった。
混血、純血分け隔てなく接する、優しい王であり、差別される混血にもこうして仕事を与えてくれたのだ。
「穢れた血など仲間ではない。それ以上王太子に無礼な発言をすればただではすまぬぞ。そうだな……貴様、病気の母が確かいたなぁ?」
さぁ……とミードは青い顔になる。
「か、かあちゃんに何かしてみろ……あたいが、許さないからな! ……ぎゃっ!」
ミードの顔面に、火炎の魔法が炸裂した。
「ミード!」「ミードちゃん!」
ドラニクス王太子の命令で、近衛騎士が魔法を発動させたのだ。
ハーフエルフ達が慌てて駆け寄ろうとする。
「下がれ、穢れた血ども。貴様らも同じ目に遭わせるぞ……?」
ミードはまともに火炎魔法をくらい、顔が火傷で酷いことになる。
むごいその姿を見て、ハーフエルフたちはたじろぐ。
「命令だ。即時この国から退去しろ。命令に従わない場合は……」
ドラニクスはミードの髪の毛を鷲づかみにして、持ち上げる。
首筋に杖を突きつける。
「み、ミードちゃんを離せっ」「そ、そうだ……!」「こいつは病気のおっかあのために働く良い子なんだぞっ!」「そんな子を魔法で痛めつけるなんて最低よっ」
「ふぅー……やれやれ、そんなに死にたいなら、お望み通り殺してやろう」
ドラニクスが部下に命令し、ハーフエルフたちを殺そうとした、そのときだ。
がぶっ、とミードがドラニクスの手をかんだ。
「痛ぇ……! このアマぁ……!」
がんがん! と殴りつけても、ミードは口を離さない。
「皆! 今の内! 逃げて!」
ハーフエルフ達は躊躇するが、しかしミードの覚悟を悟り、逃げる。
「てめえ貴様ぁ! よくもやりやがったなぁ! この野郎!」
ドラニクスはミードを無理矢理引き剥がすと、地面にたたきつける。
「この! 穢れた血の分際で! 醜い雌豚の分際で! 高貴なるこの僕にケガをさせやがったな! この! この! 死ね!」
何度も蹴飛ばされ、ミードは体中痣だらけになる。
それどころか、八つ当たりするように、魔法で何度も体を痛めつけられる。
「死ね! 死ね! 死ね!」
「あのぉ……ドラニクス様。逃げたハーフエルフは……?」
「知るか! ほっとけ!」
……その後、ミードは全身を強打され、倒れ伏す。
「よくもこの僕に楯突いたな。ハーフエルフのクソガキが。殺しても良いが……貴様はただでは殺さない。奴隷として、売り払ってやる」
体中痣とこぶだらけとなったミードを見下ろしながら、ドラニクスが冷たく嗤う。
「穢れた分際で、僕に楯突いた罰だ」
「しら……ねーぞ……」
「なんだと?」
「あたいら……追い出して……この国、大変なことに……なるぞ……」
ミードはドラニクスを見上げながら、息も絶え絶えに言う。
「あんたら……しらねーだろ。ハーフエルフが……どんな仕事、してたのか。この……馬屋だって、そうだ。あたいらが……いなく……げほっ! ごほっ……なったら……馬は、言うことをきかなくなる……竜舎の、竜だって……制御不能で、大暴れする、ぜ……後悔、すんなよ……」
「バカが。そんなわけないだろうが」
ドラニクスはトドメとばかりに、強めの蹴りをみぞおちにお見舞いする。
ミードは気を失い、動かなくなった。
「おい、奴隷商を呼んで、この女を連れて行かせろ」
「承知いたしました。……しかし、ドラニクス様」
「なんだ? 僕に意見する気か?」
「い、いえ……ですが、この女の言っていたことは、本当なのでしょうか?」
「負け犬の戯言だろう? 大方、お仲間のハーフエルフどもをここにおいてもらおうと嘘をついたんだ。バカ女め」
ぺっ、とつばをはく。
「それとおまえ、今日でクビ。消えろ」
「なっ!? ど、どうして!?」
「僕よりもそこのゴミ女の言葉を信じた罰だ。失せろ。でないと貴様も肉塊にして売り飛ばすぞ?」
ドラニクス王太子はきびすを返し、馬屋を出て行こうとする。
「さらばだバカ女。せいぜいいい男に買ってもらえるよう祈っていろ」
かくして王太子に楯突いたハーフエルフの少女ミードは、奴隷商へと売り飛ばされる。
彼女は己の運命を嘆いた。
穢れた血と馬鹿にされ、愛する母とは離ればなれにされ……見知らぬ地へと売り飛ばされた。
「かぁ……ちゃん……あたい……もう……だめ……ごめん……な……」
意識がもうろうとする中、ミードは母を求めるように、手を伸ばす。
……その手を、掴むものがいた。
「まだだ。諦めるには、まだ早いぞ」
うっすらと目を開けると、そこにいたのは……見慣れぬ青年。
これが、ギルド【天与の原石】のアクト・エイジとの出会いだった。
……一方で、ミード達を追い出した王太子達は、思い知ることになる。
自分たちの、愚かさを。
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