26.追放ヒーラーと愚かな勇者【バルカン④】
ギルドマスター・アクトのもとを離れた勇者バルカンは、急いで国王の元へと向かった。
「おれが勇者剥奪だと!? ふざけるな! 何かの間違いだ」
バルカンは王城へと向かい、中に入ろうとする。
「何をしている? 部外者は立ち入り禁止だぞ!」
だが城門を守っていた衛兵に止められてしまった。
「な!? ぶ、部外者だとぉ!? ふざけるな! おれは勇者だ! 勇者バルカンが来てやったんだぞぉ!」
「国王から通達があった。貴様はもう、勇者ではない」
「そんな……嘘だろ? なぁ……冗談だろ?」
「冗談でもない。貴様は勇者の称号を剥奪されたのだ」
衛兵から突き放すような物言いと、冷たい目線。
それはとても、勇者への態度ではなかった。
「帰れ」
「いやだ……嫌だぁああああああああああああ!」
半狂乱で、バルカンは城へ向かって走ろうとする。
だが衛兵2名に行く手を阻まれる。
「待って! 待ってくれ国王! おれに勇者の称号を返して! 返してくれよぉ!」
「下がれ! これ以上の狼藉を働くようなら牢屋にぶち込むぞ!」
「嫌だぁああ! おれは勇者なんだぁああ! 国王ぅ! 話を聞いてくれよぉおおおお!」
「しつこいんだよおまえぇ!」
衛兵が槍の尾で、バルカンのみぞおちをつく。
「ぐぇえええ!」
その場に倒れ込み、胃の内容物をぶちまける。
「おまえはもう勇者じゃない、部外者はとっとと立ち去れ」
「ぢがう……おれは……勇者だあ……」
若い衛兵が、ふんっ! と鼻を鳴らし、蔑んだ目を向ける。
「何が勇者だ。威張り散らしているだけで、てんで弱いじゃないか」
バルカンたちパーティは、ルーナ脱退後、クエストに失敗し続けた。
その悪い噂は国中に広がっていたのだ。
「国民を不安にさせる勇者がどこにいるんだよ。勇者のくせに連戦連敗してよ」
「それは……ちがう、今は……あいつがいないから……」
「今度は責任転嫁か。つくづく勇者じゃないな。帰れよ一般人。てめえなんてもうお呼びじゃないんだよ」
衛兵は無理やりバルカンを立ち上がらせると、城門から離れた場所へ連れて行き、放り投げる。
「さっさと失せな。次また来るようなら問答無用で牢屋にぶち込むから覚悟しておくことだ」
「うう……ちくしょぉ~……」
衛兵が立ち去ると、騒ぎを聞きつけた一般人たちが、バルカンに注目しだす。
「……勇者バルカンだ」「……やめさせられたらしいよ」「……わたしあいつきらい、えらっそうな態度が気に入らなかったのよ」「……クビになったって、無様だなぁ」
周囲の蔑んだ視線が突き刺さる。
「くそ! ふざけんな! おれが! てめえらを守ってやったってのに! 勇者じゃなくなったら掌返しやがって! ちくしょう! ちくしょぉお!」
バルカンがわめき散らすが、しかし誰一人として謝ることも、同情してくれることもなかった。
「おれは勇者なんだ! 勇者なんだよぉおおおおおお!」
だが、どれだけ叫ぼうと、勇者の称号を剥奪された以上、バルカンを勇者とは誰も認めようとしない。
普段の横柄な態度と相まって、彼に向けるみんなの視線は冷たいのだった。
「ちくしょぉおおおおおおおおお!」
……その後、バルカンの追放は、瞬く間に王都に広がった。
勇者の称号を剥奪されたということで、世間から大バッシングを浴びた。
「はは……もう、終わりだ……」
ふらふらとあてどなく歩くバルカンは、げっそりとやせ細り、まるで亡者のようであった。
というのも、彼はガールフレンドであるメアリーを失ったのだ。
称号を剥奪され、仲間たちの元へ戻ってみると、聖女メアリーから口汚くののしられた後、
『勇者じゃないあんたに価値なんてないわ。ばいばい』
『ま、待ってくれメアリー! 待ってくれよぉおおお!』
聖女を失い、勇者としての地位も失った。
故郷にいる親戚たちには、勇者になったと威張り散らした手前、帰ることはできない。
街に居れば役立たずの勇者だと馬鹿にされる……もう、手詰まりだった。
「ルーナ……」
口から零れ落ちたのは、幼馴染の少女の名前だ。
思えば、彼女が一番、自分のことを考えてくれていた。
口うるさい女だと煩わしく思っていたけれど、裏を返せば、バルカンにしっかりしてほしいからという思いやりがあった。
「ルーナ! ルーナぁ! ごめんよぉおお! ルーナぁ! おれのもとへ帰ってきてくれよぉ! ルーナぁあああああああああ!」
……だが、今更帰ってこいと言われても、もう遅い。
彼女が戻ってくることは、決してない。
なぜならもう、新しい場所で、幸せな新生活を始めているのだから。
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