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25.追放ヒーラーと愚かな勇者【バルカン③】



 アクトのギルド【天与の原石】にルーナが加入した。


 ルーナがロザリアとともに、目覚ましい活躍をする一方で……勇者バルカンは落ちぶれていった。


 国王の謁見を終え、バルカンは宿屋にいる、仲間の元へ帰ってきた。


 疲れ切った表情で、仲間達に、国王から告げられた内容を話す。


「どういうことよ! 勇者をクビなんてっ!」


 聖女メアリーが金切り声を上げる。


「……落ち着けよメアリー。まだ、クビじゃない。このまま行けばって話だ」


 地岩竜ベヒモスに負けてから今日まで、バルカン達は国からの依頼に失敗し続けた。


 国王は失敗を叱責し、現状が続くようなら勇者の座を退いてもらうと通告されたのだ。


「アタシ嫌よ! 勇者のパーティになったって、故郷のやつらに自慢しまくったんだから! 今更辞めさせられたなんて恥ずかしくって言えないわよ!」


「……ちょっと黙ってろ」


 メアリーのあまりに自分勝手な発言に、バルカンはいらつく。


「黙ってろってなに!? だいたいあんたがふがいないのがいけないんじゃない! 勇者のくせに! 何度も何度も惨めにやられてさ!」


「なっ!? ふざっけんな! てめえだって聖女のくせに回復が大雑把で下手なんだよ! 戦闘では足引っ張るしさぁ……!」


「アタシは回復要員なんだから戦いに参加できなくて当然でしょ!?」


「ルーナなら! 敵からの攻撃を捌いたり、隙を作って、おれたちをサポートしてくれたりしてた!」


「なっ!? なによなによ! あの女の方がいいっていうの!? 自分が捨てたくせに!」


「おまえがあの女を追い出せって言ったんじゃないか!」


 醜い罵り合いに、パーティメンバー達がため息をつく。


「バルカンさん、争っている暇ないっすよ」

「このままじゃぼくら勇者パーティをクビになります。対策を考えないと」


 ぎろりとパーティメンバーをにらみつけ、「わかってるよ」と吐き捨てる。


「こうなったらやることは1つだ。……ルーナを連れ戻す」


「なっ!? ちょっとバルカン! アタシよりあんなちんちくりんの雌ガキのほうがいいっていうの!?」


 見下していた女の方が優れていると言われ、メアリーは声を荒らげる。


「おれたちのパーティにはヤツの補助が必須ってだけだ。それに回復要員が2人いればメアリーの負担も減る」


 かくしてバルカンは、ルーナのもとへ向かうのだった。


    ★


 ルーナは【天与の原石】のギルドホールで、祝杯を挙げていた。


「では、火炎竜ブレイズ・ドラゴン討伐を祝して、かんぱーい!」


「「「かんぱーい!」」」


 ギルドホールでは、ギルメン達が集い、楽しく食事をしている。


「ルーナさん、今日も本当にありがとうですわ」


 ロザリアが隣に座り、ルーナにおしゃくする。


「ほんとほんと! ルーナの的確な補助があるおかげで倒せたようなもんだもん!」


 妖精のミザリィがルーナの頭をわしゃわしゃとなでる。


「いえ、あたしだけの力じゃないです。みんなが……それに、ギルマスがいてくれたからですよ」


 ルーナは2階を見上げてつぶやく。


「ギルマスが拾って、補助の可能性を見いだし、練習に付き合ってくれたから……このレベルまでこれたんです」


 あそこまで真摯に自分のことを考え、色々指導してくれたギルマスは、今まで出会ったことがなかった。


「アクトさんは……最高のギルマスです」

「それは同意ですわ。あの方以上にできた人間はいませんし」


「それに今日だって、宴会のお金ぜーんぶギルマス持ちだって! 気前も良いし仕事もできるし、もう最高だよあの人!」


 ギルメン達が笑顔でうなずき、同意する。


「ギルマスはまだ来ないのですか?」

「仕事が立て込んでいるみたいですわ。でもすぐに来ると思います」


 と、楽しく飲んでいたそのときだった。


「ルーナ! 探したぞ!」


 勇者バルカンが、一人で、無遠慮に乗り込んできたのだ。


 彼女の前までやってくると、にらみつけながら言う。


「ほら、帰るぞ」


 バルカンは彼女の腕を乱暴に掴むと、引っ張り上げる。


「いたっ。やめっ……」

「狼藉はそこまでにしてくださいまし」


 ロザリアは立ち上がり、バルカンをにらみつける。


「彼女は大事な仲間です。何の権利があって、彼女を連れて行くのですか?」


「おれは国王から任命されて魔王討伐に向かう勇者だ。こいつは討伐の旅に必要だから連れて行く」


「相手の合意も無しにですの? 拉致と何が違うのです?」


「おれは勇者だ! 国のために戦う男! おれの邪魔するってことはつまり、国にケンカ売るってことだぜぇ~?」


 勝ち誇った笑みを浮かべ、周りを見渡す。


「てめえがおれの邪魔すれば、このギルドやギルマスに、迷惑をかけちまうぞぉ」


 バルカンの言葉に、みなが引き下がる。

 誰もが愛するギルマスに、迷惑をかけたくないと思っているからだ。


「おら行くぞルーナ」

「嫌よ! あたしは帰らないわ!」


「逆らったら、てめえだけじゃない、周りのヤツらも不利益を被ることになるぜぇ。さぁ、大人しくおれの言うこと聞けよルーナぁ……」


 優しくしてくれた仲間達、それに、自分を拾ってくれたギルマス。

 ……彼らのために、ルーナは諦めようとした、そのときだ。


「まだだ。諦めるのは、まだ早い」


 2階から、ギルドマスターのアクトが、降りてきたのだ。


「アクトさん!」「ギルマス!」


 アクトはギルメン達の間を縫って、バルカンのもとへとやってくる。


「その手を離せ」


「ハッ……! ギルマス風情が! 勇者に口答えするんじゃあねえぞボケ!」

「貴様が勇者? チンピラの間違いじゃないのか?」


 ビキッ……! とバルカンが額に血管を浮かべる。


「……極刑だ。勇者に逆らっただけでなく、侮辱した罪は、重いぞ貴様ァ!」


 ルーナを突き飛ばし、アクトに斬りかかる。


「ギルマス!」

 

 ロザリアがすかさずカバーに入ろうとするが、アクトは「手を出すな」と命令する。


「そのスカした顔がむかつくんだよ! 死ねえ!」


 だが、勇者の斬撃を、アクトは体をひねってかわす。


「なっ!?」

「どうした? 今のが攻撃だったのか?」


「くっ! このぉお!」


 勇者は連撃を放つが、そのことごとくを避けてみせる。


 バルカンの足を払うと、彼は転んでしまう。


「勇者の攻撃をものともしないなんて……さすがギルマスだ!」


 アクトは倒れ伏す勇者を見下ろしながら言う。


「こんなもので勇者なのか。勇者もレベルが堕ちたものだな」

「ばかに、しやがってぇえええええ!」


 バルカンは大技を発動させようと、スキルを立ち上げる。


 だがアクトは冷静に接近し、腕をひねり上げ、自由を奪う。


「いて、いててててて!」

「スキルは、発動しなければ意味をなさない。隙だらけだぞ」


 アクトは剣を奪う。

 バルカンが離脱を試みるが、彼の首元に、剣を添える。


「ひっ……! な、なんだなんだよ……ただのギルマスのくせに、どうしてここまで強いんだよ!」


「違うな。貴様が単純に、弱いだけだ」

「グッ……!」


 ここで殴りかかることもできるが、得物えものを盗られている上に、人数で劣っている。


「こ、こんなことして知らないぞ! おれは勇者だ! 勇者に手を上げて! 国に逆らうことになるぞぉ!」


「ほぅ。貴様どこの国の勇者だ?」


 勇者が国名を告げると、アクトは冷静に、通信用の魔道具を取り出す。


「ああ、俺だ。あんたんところの勇者が暴れてるんだが……ああ、わかった」


 アクトは通信用魔道具を、バルカンに投げて寄越す。


「国王があんたに話があるそうだ」

「おれに……?」


 バルカンは魔道具を手に取って、国王と通話する。


『このバカものがぁああああああ!』


 国王の罵声が響き渡る。


『貴様ぁ! アクト・エイジに手を出すとはどういうことだ!? 国を滅ぼす気かぁ!』


「お、大げさだぜ……たかがギルマスじゃないか」


『アクト・エイジを知らぬとは……! この愚か者! もういい! 我慢の限界だ! 貴様をクビにする!』


「なっ!? そ、そんな! 待ってくれよ! 国王! おい! おおうぃ!」


 だが通信が切れてしまう。


「どうした? そんな怯えた顔をして」


 バルカンは、目の前の男を見やる。

 国王が怯えるほどの人物であるようには到底思えない。


「こんなところで油を売っていていいのか?」


 バルカンはことの重大さに気づいた。

 このままでは勇者をクビになってしまう。


 国王からの解雇宣言、何かの間違いに決まっている。


「くそっ! 覚えてろよ!」


 バルカンはルーナをにらみつける。

 

「今日はこれで引き下がってやるが、必ずおまえを連れ戻しに来るからな!」


 だがアクトはルーナを抱き寄せて言う。


「貴様なんぞに、ルーナはやらん。貴様にはまだ他にやることがあるはずだぞ? 人に頼らず腕を磨け未熟者めが」


 馬鹿にされ、憤怒で顔を赤くしながら、バルカンは立ち去る。


「ギルマス……ありがとうございます」


 ルーナはアクトの胸の中で涙を流す。


「勘違いするな。ギルメンを守るのは俺の仕事のうちだ。感謝されるようなことじゃない」


「さすがギルマス!」「部下を守る最高の上司だぜ!」


 ギルメン達は、勇者から仲間を守ったアクトに、尊敬のまなざしを向けるのだった。

【※読者の皆様へ】


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― 新着の感想 ―
[一言] ギルドホールのモブはヨイショ担当と…φ(・ω・`)
[一言] こういう上司の元で働きたい(´;ω;`)
[気になる点] 一通り読み進めた感想なんですが、作者の作品は時間の感覚、周囲の人物との関わりあまりにもお粗末では無いでしょうか。 主人公が追い出されて数年、その間に何があったのか。 眼は元々あったと…
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