21.バカ貴族の末路【ザルチム】
ギルマス・アクトの活躍により、元令嬢カトリーナは救出された。
その後、ザルチムはというと……。
「くそっ! ここから出せ! 私を誰だと思っている!?」
騎士の詰め所にある牢屋に、閉じ込められていた。
アクトの提出した物的証拠により、殺人未遂および傷害の罪で捕まったのである。
「私はザルチムだぞ! 誇り高き帝国貴族だぞ! くそっ! こんな豚小屋みたいな場所に入れやがって!」
檻の外で見張りしている騎士に、ザルチムは当たり散らす。
「もうすぐ父上が来て私を解放してくれる。父上の権力を使えば貴様ら国の下僕なんぞ全員解雇してもらうのも容易いんだからなぁ!」
この男、まるで反省をしていなかった。
「そうだ、父上の権力があれば、あんな木っ端ギルドマスターを社会的に潰すことも容易いんだ。見ていろよアクトぉ……! 必ずお前を抹殺してやる! 覚悟してることだなぁ……!」
……と、彼が調子に乗っていられたのはここまでだった。
後日。
「ザルチム。貴様をこの家から追放する」
牢屋の前に、ザルチムの父が現れ、息子である彼にそう言ったのだ。
「ち、父上……今、な、なんとおっしゃったのです……?」
「貴様を家から追い出し、元から居なかったことにすると言ったのだ。愚息め」
はぁ……と父が深くため息をつき、息子にさげすみの目を向けてくる。
「い、意味がわかりません……それより早くここから出してください! そしてあのバカギルドマスターを潰してくださいよぉ!」
「この愚か者ッ!」
「ひっ……!」
父に一喝され、ザルチムはその場にへたり込む。
「おまえは一体誰に楯突いたと思っているのだ!」
「誰にって……ただのギルドマスターでしょう?」
「社交界に身を置く分際で、【アクト・エイジに刃向かうな】という不文律を知らぬのか。不勉強な愚か者め」
ザルチムは困惑するばかりだ。
「な、何をバカなことをおっしゃるのですか父上。相手はただの平民ですよ?」
「……アクトは国内外問わず、幅広く影響力を持つのだ。彼と繋がりのある要人は数知れず。アクトに楯突いた以上、このままでは我が家は貴族の位を剥奪されてしまうだろう」
「そこまで……やつは権力を持っているのですか?」
アクトが父親よりも社会的な強者であると、ザルチムは初めて知った。
「貴様は初めからいないことにした。これも家を守るため。ザルチム、消えてくれ」
「あ、あはは……嫌だなぁ父上……冗談ですよね……? ねえ? ……ねえ。ねえ!」
ザルチムは焦ったように、鉄格子にしがみついて、ガンガンと叩く。
「なんでですか!? 私は何か悪いことをしたのですか!?」
女を捨てたことも、傷つけたことも、ザルチムにとっては、悪いことだと微塵も思っていないようだった。
「……もう良い。こんなのが自分の息子だったと思うとヘドが出る」
きびすを返し、父が出て行こうとする。
「待ってください父上! 父上ぇええええ!」
ザルチムは泣きわめきながら、鉄格子から手を伸ばし、父を引き留めようとする。
「反省しますから! もうアクトには手を出しませんから! だから捨てないでください! お願いします!」
「もう遅い。さらばだバカ息子。どこへなりとも行って野垂れ死ぬがよい」
父はそれだけ言うと、一瞥もせず、立ち去っていった。
「いやだぁ! いやだぁあああああ!」
【※読者の皆様へ】
「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますと幸いです!