番外編 満点星ホテル
水の国ネログーマ、その首都、エヴァシマへとやってきた。
エヴァシマは水上都市とよばれている。
街のあちこちに運河がとおっており、観光客たちをゴンドラに載せ運ぶ事業が行われている。
今日は天気もいいということで、ゴンドラにはたくさんの人が乗っていた。
「マスター、きれいな街ですね」
「そうだな」
俺の隣を嫁、フレデリカが歩いてる。
ぷく、と頬を膨らませてきた。
「なんだ?」
「そこは、おまえのほうがきれいだぞ、ですよ?」
「そうか」
「そうか、ではなく! りぴーとあふたーみー!」
「宿へ行くぞ」
「あーん、ますた~。もっと嫁を構ってくださいよぉう」
こいつはかまうと面倒だからな、ほっとく。
それにきれいなものにたいして、きれいだと口に出すのは無粋というものだ。
ほどなくして、エヴァシマの小さめの宿屋へとやってきたのだが……。
「お待ちしておりました、アクト・エイジ様」
スーツを着込んだ、獣人の男が、俺の前で深々と頭を下げる。
はて、とフレデリカが首をかしげた。
「どなたでしょう?」
「わからん。誰だ、貴様?」
獣人男が居住まいを正して言う。
「失礼いたしました。私は満点星ホテルグループの、つかいのものです」
「満点星、だと?」
ふむ、なるほど。そういうことか。
「満点星ホテルグループ……どこかで聞いたことがありますね」
「スターライトのやつが独立して作ったっていう、ホテルグループだ」
「スターライト……ああ! 元、原石の?」
かつて俺のギルド、天与の原石に所属していた女、スターライト。
彼女には商売の才能が有ったので、うちを追放して、商業ギルドを案内した。
その後独立して、ホテルグループを設立したと聞いてる。
なるほど、スターライトのやつ、どこからか俺がここに泊まるのをきいて、使いをよこしてきたようだ。
「オーナーから、アクト様を最高級ホテルへとご案内するようにと仰せつかっております」
「満点星の高級ホテルに泊まる予定はなかったが?」
「はい。オーナーの独断です。新婚さんにはぜいたくをと」
「ふん……余計な気を使いおって」
まあしかし、せっかく用意してくれたホテルが無駄になるのはもったいないな。
「案内してもらおうか」
「はい!」
するとフレデリカのやつが、うふふとうれしそうに笑う。
「高いホテルにただで泊れるのがうれしいのか?」
「いえ、マスターが拾い上げた原石が、救ってもらった恩を忘れず、こうして恩返ししてくれたのが、うれしいのです」
……ふん。
まあ、俺もうれしくはあるがな。