番外編 転生勇者は、引退したギルマスに会う
その日、アクトの屋敷に来客があった。
赤い髪の少年だ。
アクトは彼を見て一発で、誰だか見抜いていた。
「久しいな、ローレンス」
「あくとさーーーーーーーーーーーーん!」
10にも満たない年齢の少年が、笑顔で、こちらに突っ込んでくる。
しかもめちゃくちゃ速い。
アクトは反身をひねってそれを避ける。
ローレンスは壁をぶち破って、外に出ていった。
はぁ、とため息をつくアクトのもとに、ローレンスが戻ってきた。
「元気にしてたか?」
「うむ! ウルトラ元気だ!」
それはなによりだ、とアクトがつぶやく。
ローレンスはかつて、魔王との戦いを終えた後、若くして死んだ。
アクトの見立てだと、命をもやした結果、あの異次元の力を得ていた。
その代償として、早すぎる死を迎えたのだろうと。
「だがまさか転生してくるとはな」
「おれもびっくりだ!」
ふたりがソファセットに向かい合わせに座る。
そこへ、妻のフレデリカがお茶をもって現れる。
「おお! フレデリカさん! 久しぶりだな!」
「おひさしぶりです、ローレンスさん。今は、ローレンさん、でしたっけ?」
「うむ! 名前を変えて、冒険者やってるぞ!」
現在、ローレンスはアクトのいるギルド、天与の原石で活動してるのだ。
「周りに迷惑をかけてないか?」
「うむ! 全然!」
アクトがはぁ、とため息をつく。
フレデリカは苦笑。
「エッタは、苦労してそうですね」
「まあ問題ないだろう。ヘンリエッタは、俺とおまえの子だからな」
「まぁ、うれしいですマスター」
うふふ、と本当にうれしそうに笑うフレデリカ。
アクトも、小さく笑っていた。
そんな二人を見て、ローレンスはもっと笑顔になる。
「アクトさんが笑うようになるなんて! すごい! フレデリカさんのおかげだな!」
「そ、そうですか~♡ えへへ~! 壁を壊したことは不問にしてあげましょう!」
「やったー!」
その後、思い出話に花を咲かせた後……。
ローレンスは帰ることにした。
アクトは一人、玄関まで送っていく。
「ローレンス」
「どうした、アクトさん?」
すると、アクトはローレンスに対して頭を下げた。
突然のことに、元勇者は戸惑う。
「すまなかったな。貴様がこうなるの、俺にはわかっていた」
アクトには未来が見える。
ローレンスが寿命を振り絞って、最終的に死んでしまうこともまた、わかっていたうえで、魔王退治をさせたのだ。
「なんだそのことか! 全然気にしてないぞ! おれは、おれの責務を全うできた。世界を平和にできた。それだけで十分だ! 死んだけど、まあ生き返ることができたしな!」
そうか、とアクトは微笑む。
ローレンスはその笑みを見て、言う。
「やっぱりアクトさんは、もっと笑ってるほうがいいと思うぞ!」
「そうか。考えておこう」
「うむ! また来るぞー!」
「ああ、いつでも来い」
こうして転生勇者は、去っていくのだった。