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番外編 新米ギルマス奮闘記



 天与の原石をついだ、アクトの娘ヘンリエッタ。

 彼女は屋敷を出て、ギルド会館へと向かう。


「あ、ギルマスー! おはようございます!」

「うむ、ニィナよ。おはよう」


 新米受付嬢、ニィナ・インヴォーク。このギルドに所属する、Sランク冒険者の妹……。

 であるのだが、本人はそのことを知らない。


 明るい笑顔。豊満な肉体から、ギルメン達の人気は高い。


(あたしもこれくらいバインボインな大人のレディだったら、なめられないだろうか……)

「どうしたんですかギルマス?」


 ニィナはきょとんと首をかしげる。


「なんでもない。【キルト】のやつはどこじゃ?」

「お兄ちゃんは有給取って……あ、お兄ちゃん!」


 振り返ると、そこにはぬぼーっとした表情の、黒髪の男が立っていた。

 彼の名前はキルト・インヴォーク。


 この天与の原石で働く、ギルド職員だ。


「……ニィナ。はよ。早いね」


 ぼそぼそと話すキルト。……まさか彼が、Sランク冒険者の正体であるとは、ニィナを含めてギルメン達は知らない。


「キルトよ。ちょっとよいかの? 打ち合わせしたいことがあるのじゃが」


 彼には、彼にしか任せられない仕事がある。

 その話をしたかった。しかし……。


「……いや、です」

「なにぃ!?」

「……まだ、始業時間前……だから」


 たしかに、そうだ。ギルドがまだ開いてない時間帯である。

 いやでも、早く来てるならいいではないか。


「……時間外で仕事、したくない」

「ふぬぅうう……」


 泣きそう。なんでこうも、Sランク冒険者は、変な奴らばかりなのだろうか。

 ヘンリエッタはへこたれそうだった。表には出さないが、結構打たれ弱いのである。


「もー! お兄ちゃん! けちけちしない!」


 妹のニィナがぷんすか怒って兄の肩を叩く。


「まだ始業前っていったって、もうあと15分で開店でしょ? いいじゃないの、15分くらい」

「……わかった。ニィナが、そいうなら」


 ほっ、と内心で安堵の息をつくヘンリエッタ。もう一回お願いして、また断られたらギャン泣きしたところだった。

 

「では、キルトよ。ついてまいれ」

「……はい」


 ニィナに心の中で感謝しながら、ヘンリエッタはキルトを連れてギルマスの部屋へ。

 テーブルの前に座ると、うぉっほん、と咳払いをする。


「キルト・インヴォーク。……いや、黒銀の召喚士よ」


 この天与の原石には、現在数名のSランク冒険者がいる。

 その中のひとりが、このキルトだった。普段はギルド職員、しかしその実態は、Sランク冒険者という、二つの顔を持つ男。


「実は隣国で、魔族の残党が騒ぎを起こしてるらしい。そこで、黒銀よ。そこへ行き、トラブルを解決してくるのじゃ!」


 きまった。父のように、かっこよくできただろう。

 しかし……。


「……いやです」

「んなぁ!? い、いやぁ! な、なんで!?」


 思わず素が出てしまうヘンリエッタ。そんな彼女にキルトが答える。


「……出張なんてしたら、ニィナ……ひとりになっちゃう。だから、いやです」


 この黒銀の召喚士とうやつは、重度のブラコンだ。

 妹との時間を何よりも大切にしてる。


 それゆえ、彼は残業をいっさいしない。また、出張もしてくれない。

 妹と会えなくなるから。


「た、頼むよキルトぉ。エリアルもリーフも、今出払ってて、おぬしにしか頼めないのじゃよ~」


 エリアルもリーフも、ともにSランク冒険者だ。

 どちらも桁違いに強いものの、どちらもが現在別の任務にいってる。


「……いやです」

「そんなぁ~……」

「……できないなら、断れば?」

「無理じゃ。ここは世界最高の冒険者ギルド、天与の原石。不可能な仕事もすぱーん! と解決するちょーすごいギルドってメンツを……あ、待って! キルト! お願い待ってよぉう!」


 ヘンリエッタはキルトの足にしがみつく。

 周りに人がいないため、ヘンリエッタは素を出してしまう。

 特にこの黒銀は、正体を隠してる+寡黙な男(というか他者に興味ない)ため、彼に対してはとりつくろわないのだ。


「おねがいじゃ! たのむ! 手当はたんまり出すから! ね!」

「…………手当」


 よし! 彼の中で揺れている。お金が入れば、その分妹を喜ばせられるぞ、と。


「そうじゃ! どうだ!」

「……わかりました」


 よっしゃ! とヘンリエッタは心のなかでガッツポーズを取る。


「では詳細はこれじゃ」


 スクロールをキルトに手渡す。

 そのときだ。


「ギルマス~。お茶をお持ちしました……って、ああー! 黒銀の召喚士さん!」


 部屋に入ってきたのはニィナだった。

 彼女が入ってくるのを察知したキルトは、一瞬で、黒いコートに、銀の仮面を身につけたのだ。


 こんな人間離れした早業ができるのも、彼に特別な力があるからこそ。


「ひさしぶりですね、黒銀さん。どうしたんですか?」

「……仕事」

「そうなんですね! がんばってくださーい!」


 ぶんぶんぶん! とニィナが手を振る。その目には、憧れの色がありありと浮かんでいる。

 何を隠そうニィナは、黒銀のファンなのだ。……それが実は、実の兄であることを、ニィナは知らない。


「黒銀さんどこいったんですか?」

「隣国じゃ」

「へー! あの人海外出張全部断ってるのに、よく引き受けてもらえましたね」

「ふふ、まあほかでもない、ギルマスであるわしの頼みじゃからな」

「わー! すごい。でもほんと、なんで黒銀さん、出張断るんだろ」


 まあ海外出張断ってるの、君がここにいるからだよ、という言葉は飲み込む。

 まあ、いろいろ苦労はあるけれども、ヘンリエッタは頑張っているのだった。


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