183.夢の実現
俺、アクト・エイジは世界の滅亡を企んでいた黒幕、天羽の陰謀を阻止した。
月面での決闘を終えて、地上へと降りてきた。そこで魔王討伐に成功した超勇者ローレンスと仲間達と合流。
俺たちは、ギルド【天与の原石】を目指していた。
「おい馬。いつになったら着くんだ?」
馬車がガタゴトと街道を進んでいく。
御者台に座っているのは、邪神竜ヴィーヴル。人間の姿になって手綱を握っている。
「もうあと少しっすよ。何回目っすかその質問。あと自分は馬じゃないっす」
「黙れ。軟弱ドラゴンが。力を使いすぎて飛べないなんて」
「飛べたとしても、この大人数は運べないっすよぉ!」
荷台には俺、メイドのフレデリカ。
そこにローレンスパーティと、極東勇者パーティという、まあ確かに大所帯だ。
「すみません、アクトさん。ぼく、魔力使い尽くして……集団転移魔法が使えなくて……」
ローレンスの仲間、魔法使いイーライが申し訳なさそうにする。
たしかに集団転移が使えれば、今頃ギルドにひとっ飛びだったろう。
「貴様は気にするな。仕事をきちんとこなしたのだ。そこの駄馬と違ってな」
「駄馬!? なんすかそれ! 自分のことっすか!?」
「当たり前だ馬。貴様は俺たちの運び手。だというのに何をへばっているのだ」
「うう……だって……宇宙の往復で疲れたんすよぉ……」
全員が満身創痍であった。街で一泊しようとした。
俺たちがいるのは、魔族達の領土……魔界と呼ばれていた場所。
ローレンスたちのかつやくで、魔界から人間と、人間の住む土地を奪還している。
だから、休む街はあるのだ。魔界にも。俺は彼らを、そこで休ませるつもりだった。俺だけが、先に帰るつもりだった。
……なのに、彼ら全員がついてきたのだ。
「休めば良い物を」
「うむ! だからこうして、休んでいるのではないか!」
俺の隣には、利き手と片足を失ったローレンスが、笑顔で寄り添っている。
……まったく、怪我なんぞしよって。
これでは次の職場に復帰するのに、時間がかかるではないか。やれやれ。出て行ったあとも、手間かけさせよって。
「今からでも良いから街へ戻れ。社会復帰が遅くなる」
「いやだぞ! おれはもう、社会に復帰しないしな!」
「ふざけるな。貴様の仕事は、まだまだ残っている」
「む? 仕事?」
俺はにやりと笑っていう。
「なぜ俺が貴様らを育てたと思う? 全部は俺のためだ」
「…………」
「そう、貴様らは宣伝塔だ。これから魔王を倒せたのは、天与の原石に入ったおかげだと……なんだ貴様ら、何を笑ってる」
パーティメンバーのウルガーが、肩をすくませていう。
「はいはい、出た出た」
「なんか、日常が帰ってきたって気がするわね」
全員が笑っていた。なんだか馬鹿にされてるようでしゃくだったが……まあいい。
「マスター。見てください」
窓から外の様子を見ていた、メイドのフレデリカが、微笑みながら言う。
俺は立ち上がって、外を見た。
「「「ギルマスぅううううううううううううううううううううう!」」」
……そこには、俺のギルドのメンバー達が、街の外でまっていやがった。
街の連中までも一緒になって、笑顔で手を振っている。
「誰だ、あいつらに連絡を入れたのは?」
「わたくしです」
「……おまえか、駄犬」
通信用の魔道具があれば、たしかに離れた場所からでも、魔王討伐の知らせを言えただろう。
「なぜ言った?」
「マスターの凱旋だからです」
「意味がわからん」
フレデリカが俺に抱きついて、キスをしてきた。
……不意打ちだった。まあ、俺の目で予測は出来ていたのだが。
「避けないのですね」
「……ふん」
「照れてます?」
「黙れ、駄犬」
にっこりと笑って、彼女が抱きつく。
まあ……別に嫌いではないからな、こいつのこと。
「これで少しは、マスターの理想の世界に近づいたでしょうか?」
俺の理想。弱者の居ない世界。
誰が理不尽に追放されることのない、不要な人材が誰もいない世界。
そんな世界を作るのは不可能かも知れない。
でも……。
魔王をたおして、世界は平和になった。
たおしたのが、不要と捨てられた追放者たちと知れば……。
世界は、人は、もう少しだけ、弱者に優しくなれるかもしれない。
「ああ。まあ……近づいただろう」
「! では……!」
俺は駄犬と約束していた。夢に近づけたら、結ばれてやろうと。
「結婚してやろう」
「…………」
フレデリカは涙を流して……俺に抱きつく。
そして再び、俺たちはキスをした。
仲間が、守るべき人たちが見守る中……。
すべてを終えて、夢の実現に近づいた俺は……。
愛しい女と、結ばれたのだった。