182.マスターの帰還
魔王ドストエフスキーを討伐した、超勇者ローレンスと、その仲間達。
既にパーティメンバーの全員がボロボロで、その場から一歩も動けないでいた。
彼らは水月をはじめとした、極東の勇者パーティに、治療してもらっている。
「すまないでござる、ローレンスどの、ウルガーどの。ぬしらがウケた傷は、どうにも再生されないのでござる」
ウルガーは右腕切断。ローレンスは片足切断、両腕は神経が焼き切れて、自分の意思では動けなくなっている。
魔王の呪いは強力で、世界最高の治癒術師であるルーナの治療を以てしても治らないという。
ローレンスもウルガーも、別に気にしている様子はなかった。
「問題ないな! 生きてるのだからな!」
「ほんとそのとおりさ。生きてるのだから、右腕くらい安いものだよ」
失った部位は技術者に頼んで、義手、義足を作ってもらうことになった。
「応急処置は済んだでござる」
「帰るわよ、あんたら」
極東のリーダー、火賀美がローレンスたちにいう。
だが彼らはその場から動かない。
「どうしたの?」
「来るのを、待ってるのだ!」
「来る? 誰が……?」
「来たぞ!!!!!!」
ローレンスが空を見上げる。
巨大な邪竜が、こちらに向かってゆっくりと降下してくる。
「! ヴィーヴル殿! ということは……」
「ギルマス……!!!!」
ヴィーヴルの背にはアクト・エイジとメイドのフレデリカが乗っている。
ローレンス、そして勇者パーティのメンバー達は皆が笑顔になった。
あのマスターならば、自分たちの居る場所をきっと探し当ててくれる。
誰よりも、早く駆けつけてくれる。そう思ったから、動かなかったのだ。
誰もが、笑っていた。自分たちを育て、才能を磨き上げてくれた恩人に、最高の恩返しができたのだから。
「「「ギルマスぅううううううううううううううう!」」」
ヴィーヴルが着陸する。ローレンス達は背中に乗っていたアクトに抱きついた。
彼は……普段通り、小憎たらしい顔でみなを見渡して……。
そして……。
笑った。
「よくやった、おまえら!」
……それは滅多に見せない、悪徳ギルドマスターが見せる笑顔だった。
それくらいの大きなことを成し遂げたのだと……。
ローレンス達は改めて実感し、そして、達成感から来る安堵と喜びの涙を流した。
……こうして。
長きにわたる、超越者の陰謀は、悪徳ギルドマスターとその仲間達によって、打ち砕かれたのであった。




