179.魔王、滅す
ギルドマスターであるアクト・エイジの一番の部下、ローレンス。
その刃が、魔王となったドストエフスキーを引き裂いていく。
「いやだ……いやだ……!」
ドンドンと体から力が抜けていく。
刃が振るわれる、体が分裂する、小さくなる……。
「いやだ……いやだぁあああああああああああああ!」
ドストエフスキーは叫ぶ。
「この私が……こんなところで! こんな、人間ごときに……負けるなんて……!」
魔神として生まれた、ドストエフスキー。
彼は人間を完全に見下していた。
とるにたらない、ゴミだと……。
だが、彼を滅しようとしてるのは、そんなゴミ……人間だった。
「くそ……ちくしょぉお……」
ドンドン小さくなっていく。
もう……自我が保てない……。
消えゆく彼の心の中には……とある人物への、とある感情が浮かんでいた。
「あくとぉ……えいじぃ……」
アクト・エイジ。
ただの、才能の無い人間だった。
超越者である天羽の気まぐれで、時王の目を植え付けられただけの、取るに足らない人間の、代表格のようなもの。
今、自分を追い詰めているのは……ローレンスではなく彼だった。
力の無い、あの人間だった。
「そう……か……わたしが、まちがってたの……か」
人間は弱いと、ゴミだと、確信を持っていた。
でも違った。
最強の存在である自分に、超越者から最強の力が加わっても……。
最後には、見下していた人間の力で……終わりを迎えようとしてる。
認めざるを得ない。
脱帽だ。
「人間は……こんなにも……」
最後の、塵のひとかけらとなる。
ローレンスが黄金の剣を振り上げる。
「そうだ! 人間は、こんなにも……強いのだ!!!!!」
最後の力を振り絞り、ローレンスが最高の一撃を放つ。
もうドストエフスキーは抵抗しなかった。
清々しい気持ちで……その剣を、そしてその事実を、受け止める。
黄金の力の本流に飲まれながら……。
どこか、すっきりとした心持ちで……。
魔王ドストエフスキーは……消滅したのだった。