178.怪物、ふたり
魔王と勇者の最終決戦。
魔王ドストエフスキーは逃亡を図るも、アクトの先読みにより、結界に閉じ込められることになった。
「もう逃げ場はないぞ、ドストエフスキー!」
片腕を失い、さらに左目が潰れ、体はもうボロボロ。
ソンな状態にあっても、超勇者ローレンスは笑っていた。
むしろ、いつもよりもうれしそうに。
その瞳は爛々と輝いていた。まるで、希望の光そのもののように強く。
「この結界は、おれとおまえ、どちらかが完全に死ぬまででれない! そう、イーライが構築した結界だ!」
「き、さま……正気か……? 死ぬまで外に出れないのだぞ?」
「うむ! だが問題ない!」
片腕だけで大剣をにぎって、その切っ先を魔王に向ける。
「おれは今、ここですべてにけりをつける!」
ドストエフスキーは恐怖すら覚えた。狂気にも似た感情が、ローレンスにはある。
「ばけ……ものがぁ……」
死ぬまででれないと知ってなお、彼は笑っているのだ。
だがローレンスは胸を張ってうなずく。
「そう……おれは、化け物だ! 師が、そして仲間がいなければ、な。そして魔王である貴様がいなければ、な!」
ローレンスが大剣を担ぎ上げる。
「おれは一人じゃない。おまえを含め、みんながいて、勇者をやっている! 勇者になれているだけの、化け物よ!」
ローレンスは理解してる。
もし、幼いとき、アクトに拾われていなかったら。
この力を、間違った方向に使い、魔王となっていたかも知れない。
そんな自分を、化け物ではなく、英雄として導いてくれたのは……。
間違いなく、アクト・エイジのおかげだった。
そして、人類のために戦う仲間がいて、人類の敵がいて、はじめて彼は勇者たりえる存在となった。
「おれはすべてのものに感謝している。おまえもだ、ドストエフスキー。だからこそ……!」
ぐぐっ、とローレンスが体をちぢめ、力をためる。
「おれはおまえを完全に滅する! 同じ化け物として!」
「う、うああああああああああああああああああああああああああ!」
大剣を片手に襲い来るローレンスに……魔王は、本気で恐怖したのだった。