177.逃亡
超勇者VS魔王も、大詰めになってきた。
勇者の放つ斬撃が、魔王の体を切り刻んでいく。
魔王は焦った、このままでは塵となり、消えてしまうだろうと。
斬撃を受けて、分裂する。
だが魂を切り分ける行為をくりかえすたび、その肉体に宿る自我が、薄くなってきている。
つまり、小さくなればなるほど、自分という個が消えてしまう。
徐々に小さくなっていく体。消滅の危機を前に……。
ドストエフスキーは……決めた。
体勢を立て直そうと。
「む!」
カッ……! とドストエフスキーの体が輝く!
どがぁあああああああああああん!
「なんだね!? 自爆!?」
ウルガーが驚く一方で、魔法使いイーライは首を振る。
「違います! 逃亡です! 自爆はフェイク!」
体の一部を、分裂ではなく爆発させた。
そうすることでさらに細かくする。
あまり小さくすると自分を失う。
だから爆発する前に、一つのオーダーを、細胞達に出したのだ。
すなわち、一度見えなくなるレベルで粉々にし、再集合することと。
薄れ逝く自我のなか、ドストエフスキーは悔しい思いをしながら逃げる。
今は調子に乗るがいい、人類。
だがいずれ、必ず復讐に来る……!
「そうは!」「させない!」
魔法使いイーライが、結界魔法を。
治癒術師ルーナが、その補助を。
最後の力を振り絞り、ふたりは鳥かごのように、周囲を包む結界を張っていたのだ。
「ばかな……! なぜ……気づいた……!」
驚くドストエフスキーをよそに、にやり……とイーライが笑う。
その手には、1つの魔道具が。
『貴様の浅い考えなど、俺にはお見通しだ』
「! そ、の……こえ……はぁ……!」
爆発によって、自我がほとんどなくなってきた。
でも……忘れたくない、その声は。
「あくと……えいじ!」
『随分と苦戦してるじゃないか、ドストエフスキー』
そう、天羽からの魔力供給が途絶えたということは、アクトが勝利したということ。
片をつけたアクトが、通信用の魔道具を使って、イーライに指示を出していたのだ。
『卑怯者の貴様のことだから、自爆して逃げる。そうイーライたちに指示を出して置いたのだ』
「ち、くしょぉ……ちく、しょぉお……」
最後の最後まで、この悪徳ギルドマスターに、邪魔をされるなんて。
『長かった。だが……これで、ようやく仕舞いだ』