176.驚異
魔王ドストエフスキーは、驚愕を禁じ得なかった。自分は魔神、最強の存在だった。
だがそこに、勇者、そしてアクト・エイジが現れコテンパンにされる。
復讐のため、自由と尊厳を対価に手に入れたはずの、最強の力……。
しかしそれをもってしてもなお、目の前の人間は倒れない。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
片腕を失っても、どれだけ窮地に追い込まれても……ローレンスは諦めず立ち向かってくる。
寒気すら覚える、意志の強さだ。
その向かってくる瞳の奥に、一番、嫌いなやつの姿が映っている。
「あくと……エイジぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
そう、ローレンスは人類の平和、そして育ててくれた師への恩返し、その二つをもって前に進む力にしている。
ローレンスは、ただの孤児だったと聞く。そのまま埋もれて、消えてしまっていれば……人類は容易く、魔のものたちの、自分の手に転がり込んできたのだ!
それを……あの男が。
アクト・エイジが、ゴミ捨て場から拾い、才能の原石を磨いて、特級品の宝石へと昇華させたのだ。
そう……
今、自分の野望を打ち砕こうとしているのは、勇者ではない。
「アクト……えいじ……アクト・エイジぃいいいいいいいいいいいいい!」
ローレンスの攻撃をさばきながら、ドストエフスキーは悔しくて叫ぶ。
あの男さえいなければ、もっと早めにつぶせていれば……。
勇者パーティよりも、ローレンスよりも。
才能の原石を拾い上げて、自分の物とせず、世界にその輝きを無償で還元する。
さらに、超越者たる天羽をも倒してみせる。
そんな人間が……一番、恐ろしかった。ただの人間が、そんなことできることのほうが……異常なのだ。




