165.信じる心
アクトが月面にて、黒幕との戦いを繰り広げる一方。
ローレンス達勇者パーティは、苦戦を強いられていた。
「んぅううううん!」
巨大な黄金の宝剣を振るうローレンス。
斬撃は大地を砕き、魔王となったドストエフスキーを消し飛ばす。
だが、時間が逆行するかのように、魔王も、そして魔王の城すら、元に戻る。
魔王はにやりと笑うと、知覚できない速さの一撃を放ってくる。
ローレンスは避けることもできず、どすっ……と腹部に何かが刺さった。
それは1本の触手だ。
魔王ドストエフスキーは全身から鞭のようにしなる触手が伸びている。
その1本1本に鋭い刃と、そして致死毒が塗られていた。
いかに頑強な体を持つローレンスであっても、服毒すれば即座に、その命を散らすほど。
現にローレンスは一度死んだ。
だが即座に、解毒されしかも蘇生・快復まで行われる。
回復術師ルーナの、異次元の回復術により、ローレンスは死のふちから即座に帰ってきた。
ローレンスを蘇生する隙を狙って、魔王の宿主がルーナに強襲。
そこへ手数の多い弓使いミードの連射、槍使いウルガーによる高速の突き。
敵の注意をそらすため、魔法使いイーライが目にもとまらぬ早さ、かつ高火力の極大魔法を放つ。
注意がそれた一瞬を狙って、ローレンスが態勢をたてなおし、また前線へと舞い戻る。
「はあ……はあ……」「ぜえ……ぜえ……」
ミードも、ウルガーも、前に出て戦うことができない。
それくらい彼らは消耗している。というのもそうだが……。
魔王の攻撃が、速すぎる。
超人的な肉体、感覚を持つローレンスだけが、あの異次元のバトルについていける。
ウルガーは前に出てて戦えないことを、悔やむ。だが彼は彼の役割に徹する。
ローレンスを補助する、ルーナの補助。
三番手の役割だ。だが彼は不満一つ述べず、組織の一員として、必要とされるロールを行う。
「がんばれ……ローレンス……!」
「ぬぅううううん!」
ローレンスの斬撃が、完璧に魔王の首を刎ね飛ばす。
だが、誰も喜びはしない。
わかってるからだ。
再び、時間が逆回転する。
魔王は何事もなかったかのように、そこに居る。
「向こうは無敵で……こっちは消耗するばかり……か」
ウルガーもそして誰もがうつむきそうになる。
だが彼らはまっすぐに敵を見据えていた。
リーダーであるローレンスも含めて、彼らは信じているからだ。
この窮状を、我らがギルドマスターが、絶対に打破してくれると。